2017年10月11日02時03分掲載  無料記事
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コラム

レストランで注文と違った料理を出された時 

   学生時代からとてもシャイだったために、人にあれをやって、これをやって、と頼むのが非常に苦手だった。それをするくらいなら、自分でやった方がよい、と思うことがしばしばだった。そんな僕が自分を変えるきっかけになった出来事があった。 
 
  TVのドキュメンタリー番組の制作会社に入社し、助手として一人のディレクターについて毎日指導を受け、様々な用事をこなしていた頃のことだ。ある晩、地方ロケの撮影を終えて取材班でレストランに入ってそれぞれ料理を注文したら、一人だけ間違った料理が出てきた。僕は魚のスープを注文したのだったが、出されたのは野菜のスープだったのだ。 
 
  「大丈夫です、これでいいですから」そう言って飲もうとした矢先、ディレクターが僕にこう言った。「いや、絶対にダメだ。料理が間違っているんだから、取り換えてもらうんだ。」彼は強い調子で僕に促した。そしてこう言ったのだ。「いいか、ウェイターに間違いも指摘できないような人間は絶対にディレクターにはなれないぞ」と。僕は彼の言葉の通りにスープを取り換えてもらった。その時、僕は勇気を振り絞ったのではなかった。ディレクターの言葉に納得できたことが大きかった。 
 
  そうだな、と思えたのだ。ウェイターに注文もできない人間が番組を作れるわけがない。それ以来、自分の意識を少しずつでも改めようと努めるようになった。ディレクターが注意してくれなかったら、自覚することがなかったかもしれない。人に注文を出したり、ダメだししたりできない人間は自分でやるしかなくなり、何もかも抱え込むことになってしまう。そうなると、雪だるま式に様々な課題が積み重なってしまって身動きが取れなくなり、生き残るのが難しくなるだろう。 
 
  それから25年近くたった昨今、この時のことを思い出す。最近の政治家は注文していない料理ばかり運んでくるウェイターみたいになっていないだろうか。だから、そんな料理は注文していないぞ、と言える国民でありたいと思う。 
 
 
村上良太 


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