2017年10月21日14時42分掲載  無料記事
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検証・メディア

消費税と社会保障:マスメディアで「言及しないほうがいい」と考えられていること

 安倍晋三総理大臣は、借金の返済に使っていた消費税の使い道を社会保障の充実に変更したいと言って衆議院を解散した。しかし消費税は、元々増税分を全て社会保障に使うはずではなかったのか。いつから借金の返済に充てられることになったのかと疑問に思う人も多いのではないか。また社会保障の財源について、いつも決まって消費税増税と結びつけられるのもおかしな話ではないだろうか。(Bark at Illusions) 
 
 なぜ消費税増税分の大半が借金の返済に充てられるようになったのかという疑問について、マスメディアではほとんど説明されることはないが、毎日新聞(17/10/15)によると、それは借金と社会保障費がほぼ同額だからだ。 
 
「(消費税の)具体的な増税分の使途は(1)低所得者の介護保険料の軽減強化など社会保障の充実(2)基礎年金の国庫負担分への充当(3)既存の社会保障費への充当──が主だ。……(3)は社会保障のために国と地方が毎年使っている計約30兆円超の費用の一部に充てられる。 安倍首相が「借金返済分」と言ったのは(3)の部分。国の歳入の35%は借金(国債発行)で補っている。一般会計総額の約3割を占める社会保障費に消費増税分を充てれば、結果的に借金を抑制できることを指した発言だ」 
 
 しかし、これはおかしな理屈だ。国債発行額とほぼ同額だからというのなら、国家の借金の返済費である国債費と公共事業費の合計も一般会計総額の約3割になる。とりわけ現在の日本の多額の債務の要因の一つが、合衆国の要求(1990年の日米構造協議)に応じて策定された1990年代の630兆の「公共投資基本計画」(注1)によるものであることを考えれば、国債費と公共事業費を国債発行で賄っていると考える方が妥当ではないだろうか。 
 社会保障費と国債発行額がほぼ同額だから消費税増税分を借金返済に使うことになったという理屈は、消費増税が社会保障充実のためではなく、法人税減税分の穴埋めであることを隠すための理屈ではないだろうか。 
 安倍政権は政権発足以来、消費税率を5%から8%に引き上げる一方で、法人実効税率を37%から29.97%に引き下げている。しんぶん赤旗(15/3/5)によると、「1989年4月に消費税が導入されて以降、2015年度までの27年間で消費税収は304兆円」なのに対し、「1989年度と比べた法人3税の税収減は合計263兆円に達し」ている。 
 
 アベノミクスで大企業や富裕層が利益を上げて富の集中が進み、格差が拡大している。社会保障費は低所得者ほど負担が大きくなる消費税ではなく、法人税や所得税の累進課税率(注2) の見直しで対応するべきではないだろうか。 
 消費税と社会保障が選挙の争点の一つとなっているにもかかわらず、マスメディアでこのようなアイディアを聞くことができるのは、社民党や共産党の公約の紹介で短く伝えられる時か、社民党や共産党の議員が討論番組などでその政策を語る時ぐらいで、マスメディア自身に法人税や所得税の見直しを検討しようという姿勢はほとんど見られない。 
それどころか、 
 
「将来世代へのつけ回しを抑えるためにも、国民全体で広く負担する消費税の増税が避けられない」(朝日17/10/18) 
「もう消費税を選挙の争点にするのはやめるべきではないか。……選挙のたびに消費税を『政争の具』にし続ける政治の無責任さを感じずにはいられない」(毎日17/10/11) 
 
 あるいは、消費税の中止・凍結を求める野党については 
 
「実現性や財源としての規模に疑問符がつく」(朝日17/10/18) 
 
などと言って、有権者に社会保障=消費税増税という固定観念を植え付けようとしている。 
 
 しかし例えば、共産党は、大企業の法人税率(中小企業は除く)を安倍政権以前の水準に戻すことで2兆円、大企業優遇税制(研究開発減税などの租税特別措置・配当金不算入制度・連結納税制度)の見直しやタックス・ヘヴン税制の強化で4兆円、所得税・住民税の最高税率を元に戻すことや富裕層の各種控除の見直しなどで1.9兆円、為替取引税・環境税などで1.6兆円など、大企業・富裕層優遇税制の改革を行えば、当面の財源として17兆円確保できると提案している。 
 果たして、こうした提案は「実現性や財源としての規模に疑問符がつく」提案だろうか? 格差社会を是正するためにも、一般庶民ではなく、大企業や高所得者・富裕層に社会保障費を負担してもらおうと考えるのは、無責任なことだろうか。 
 
 イギリスの作家・ジャーナリストのジョージ・オーウェルは、報道機関の自己検閲について述べた文章で、「イギリスの報道機関は極端に寡占している。そしてその多くは、いくつかの重要な問題については不正直になるだけの十分な動機がある富裕層に所有されている」、そして世の中には「言及しないほうがいい」ことがあるということを高度な教育によって吹き込まれているので、「支配的な言説に異議を唱える者は誰でも、驚くほど効果的に沈黙させられる」と述べている。 
 それは日本のマスメディアも当てはまりそうだ。 
 
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(注1)日米貿易の不均衡を是正するために日本の内需を拡大させる目的で作成された。公共投資を拡大して内需を増やせば、合衆国から日本への輸出も増えるとの思惑があったが、必要性はなく、日本のゼネコンとアメリカの利益を優先させた計画だった。当時の日本の公共事業への国庫支出は突出しており、先進5ヶ国(合衆国、フランス、ドイツ、イギリス、日本)の中で、公共事業への支出が社会保障へのそれを上回っていたのは日本だけだった。 
(注2)所得税は、所得が高ければ高いほど税率が引き上げられる累進課税方式を取っている。所得税の最高税率は、1986年の70%から現在の40%へ大幅に引き下げられ、税率の刻みは15段階から6段階に緩和された。 


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