2017年11月08日00時22分掲載  無料記事
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政治

野党共闘を考える 市民連合の中野晃一教授(上智大学)に聞く その1 

  最近、選挙のたびに野党共闘という言葉を耳にするようになった。自民党の安倍政権が「一強」と言われる中にあって野党がバラバラでは小選挙区制では勝てない、という危機感から生まれてきたものだ。野党共闘を進めたのが「市民連合」だが、いったいどのような団体で、これまでにどのような試行錯誤があったのだろうか。市民連合に参加した政治学者の中野晃一教授(上智大学国際教養学部)に話を聞いた。 
 
Q 今年の9月26日に市民連合は野党4党(民進、共産、社民、自由)に野党共闘の前提として、9条を中心とする改憲への反対や特定秘密保護法・安保法制・共謀罪の白紙撤回、原発ゼロ政策などの7つの要望(※)を出しました。こうした要望はどのように決めているのですか? 
 
中野晃一教授 
  いつのタイミングでどの程度の中身で政策要望ができるかは不透明だったんです。というのは民進党の代表選挙が9月に行われていたわけです。それでようやく前原執行部ができたわけですが、その後、山尾さんの件があって、人事のもたつきがありました。前原執行部が立ち上がってすぐに山尾さんの件でメディア対応も含めて右往左往していたこともあって、なかなか話し合うことができないという状況で、落ち着くのを待っている状況だったんです。しかし、今度は解散総選挙をしかけてくるらしい、という話になって。で、いったいどのタイミングでどうできるか、ということだったわけです。 
 
  できれば2016年の参議院選挙の時にやったように4野党の党首を集めて一緒に政策要望をやるということをやりたかったわけです。ところが衆議院選挙が参議院選挙とは条件とか性質が若干違うという事がありました。もう一つは前原執行部ですから野党共闘には対してはかなり後ろ向きのことを代表選挙の時も言ってきたということがあったので、いったいどういった落としどころが可能なのか、とかなり苦慮するところがありました。で、実際、幹事長も山尾さんであればまだ国民運動局長をやられていたこともあり、政調会長の時もそうでしたけれども、市民連合とのやり取りがありましたが、大島幹事長ということになって基本的に誰もつてを持っていない、ということがあったのです。ですから、野党共闘の持ちかけを大島さんを通した方がいいのか、前原さんと直接やった方がいいのか、と言ったことも含めてなかなか調整が大変だったということがあります。ようやく9月末になってやれるというような話になって、4つの野党と同じ日に、しかし一緒にでなく順番にやりました。「ブリッジ共闘」と呼んでいますが、市民連合が間に入って各政党と同じ政策要望を交わすという事によって共闘という形を作ることになったわけですね。市民連合が橋渡しをするという意味合いです。フルに政党間で共闘する、ということではなくて間に市民連合が入って共闘する、という形になりました。 
 
  各政党とは同じ政策協定を交わさないと意味がないですからどの政党にとっても受け入れられるもの、最大公約数的なところまでしかいけない。その段階で準備して間に合ったのがようやく7つの項目だったです。これでスタートしてこのあとさらに肉付けしていってということができれば、ということだったので、言ってみれば決して網羅的ではありません。文言に関しても踏み込みきれないものではあったのですが、一応共闘の形ができるということが当初の目標でもあった、ということです。 
 
Q 4つの政党と一堂に顔を合わせるのは無理だったのですか? 
 
中野 4政党が互いに一緒に、ということは無理だったのです。 
 
Q 衆院選ということが?それとも前原体制がネックになったのでしょうか? 
 
中野  両方だと思うんです。前原さんは党首選で共闘しないと言っていました。ですから共産党の志位さんと顔を合わせることはできなかったのではないでしょうか。それと衆議院選挙は参議院選挙と違って、小選挙区の数が桁違いに多いわけですよ。参議院は小選挙区が32しか1人区がない、ということで一人区を一本化できたわけです。しかし、衆院選においてはどう楽観的に考えても、タイミングを考えてもすべてを一本化するのは無理だった。小選挙区においては野党間でぶつかる候補者たちがいるのに、党首たちが共闘というのは難しかった。候補者を調整できる選挙区はいいでしょうが、「うちはぶつかる」という選挙区の候補者にとって野党の党首たちが手をつないで握手していることにはいかないだろう、ということもあったわけです。 
 
Q 市民連合は、戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会 / 安全保障関連法に反対する学者の会 / 安保関連法に反対するママの会 / 立憲デモクラシーの会 / SEALDs(2016年9月 解散)の5つの団体が集まって生まれたと聞いています。今回の7項目のような要望を市民連合で決める時はそれぞれのメンバーが溶け合って話し合っているのでしょうか?それともそれぞれの代表が会議に出て話し合いで決めているのでしょうか? 
 
中野  市民連合は5団体の「有志」が構成しているという形を取っています。というのはある種の合議制はあるわけですけど、たとえば参加団体と言う形を取ってしまうと、すべての参加団体の了承を取らないと何も決められない、ということになってしまいます。「立憲デモクラシーの会」だと学者の集まりですから何名かの学者の了承を得ればいいだけですが〜それでも手間ではありますが〜、「総がかり行動実行委員会」になると団体がたくさん加盟してできていますから、総がかり行動実行委員会が何かを決める「機関決定」という事になるとえらく大変なことになるのです。ですから各団体の代表格の人たちが有志として参加しているのです。そういう意味では若干緩い参加という形になっていて、その中で運営委員会を形成していてその中でもんできめる、と。その中でこれは所属の団体に照会した方がよい、ということであれば相談して決めるわけですけれども、だいたいは有志の中で決める、ということになります。その中で7項目はあわてて作ったということですね。 
 
Q いつから着手したのでしょうか? 
 
  下書きになっているのは去年の参院選の時のもので、まったくゼロからやったわけではないです。で、今回は1週間前ぐらいから7項目を作っていきました。水面下で各政党ともやり取りしながら最終案を作っていったというところですね。 
 
Q 立憲デモクラシーの会から市民連合の話し合いに出ているのは山口二郎教授と中野晃一教授の2人なのでしょうか? 
 
中野   そうです。 
 
Q 「立憲デモクラシーの会」は今はどのような活動を? 
 
中野  選挙があったのでこの間はちょっとおとなしくなったのですが、「立憲デモクラシー講座」というのをやっていて月1回くらいのペースで大学の教室を借りてメンバーなどが講演をするというのをやっていました。あとシンポジウムをやったりですね。政治学者と憲法学者が中心の団体なので、それぞれの専門の観点から憲法論や政治状況などについての話し合いをやったりとか。 
 
Q 9月28日に希望の党に民進党がそろって合流するという話になり、合流の踏み絵として、安保法制に賛成ということと改憲に賛成ということが民進党議員に求められ、大きな衝撃を起こしました。翌日の29日は山口二郎教授が怒りの記者会見を開きました。この時、中野教授はどのように推移をご覧になっていたのでしょうか? 
 
中野  急にそのような状況が出てきて、市民連合の中で対応できる人が対応するという形でやっていました。いろいろ話し合いながら。記者会見にしてみてもその時に行けたのが山口さんだったからやった、ということでした。希望の党への合流があのような形で決まったので、野党共闘は一度、白紙になったという感じだったです。その意味では目の前が真っ暗になったと言いますか。もしかしたらやれることはこの選挙であまりないのかもしれない、という状況に一気になりました。民進党がない野党共闘はあまり意味がなく、極めて限定的な形にしかならないです。それに希望の党と野党共闘ができるかというと無理だった。あの段階でもう一度打つ手はないのか、と。 
 
Q 希望の党は立憲主義の見地から見た時に問題があった、ということでしょうか。 
 
中野  希望の党をどう評価するか、という時に市民連合の中に統一的な評価があったわけではないんですね。希望の党が新しい政党としてできる、という以上、どういう立ち位置だったのかは意見がわかれるところです。私自身は希望の党には不明なところはあるけれども、「まあ無理だな」と見ていました。そういう意味では希望の党には遠慮なく最初から批判をしていました。小池さん自身が代表としてやっていくということに関してもそうですけど、政策に関してもかなり行き当たりばったりで彼女が決めていく。こういうことで政党の体をなしていないということがあります。さらに安保法制に対してでも、市民連合は「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」、というのが正式名称ですから安保法制の廃止と立憲主義の回復というのが基本にならないような政党とは共闘できるわけにはならない。これまでも維新やみんなの党が共闘の枠組みからはずれる、ということが当然にありました。希望の党もその意味では共闘の対象にはならないと思っていました。 
 
(つづく) 
 
 
聞き手 
村上良太 
 
 
※市民連合からの7つの要請 
 
 私たち、安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合は、4野党が以下の政策を重く受け止め、安倍政権を倒すという同じ方向性をもって、全力で闘うことを求めます。 
 
 1 憲法違反の安保法制を上書きする形で、安倍政権がさらに進めようとしている憲法改正とりわけ第9条改正への反対。 
 
 2 特定秘密保護法、安保法制、共謀罪法など安倍政権が行った立憲主義に反する諸法律の白紙撤回。 
 
 3 福島第一原発事故の検証のないままの原発再稼働を認めず、新しい日本のエネルギー政策の確立と地域社会再生により、原発ゼロ実現を目指すこと。 
 
 4 森友学園・加計学園及び南スーダン日報隠蔽の疑惑を徹底究明し、透明性が高く公平な行政を確立すること。 
 
 5 この国のすべての子ども、若者が、健やかに育ち、学び、働くことを可能にするための保育、教育、雇用に関する政策を飛躍的に拡充すること。 
 
 6 雇用の不安定化と過密労働を促す『働き方改革』に反対し、8時間働けば暮らせる働くルールを実現し、生活を底上げする経済、社会保障政策を確立すること。 
 
 7 LGBTに対する差別解消施策をはじめ、女性に対する雇用差別や賃金格差を撤廃し、選択的夫婦別姓や議員男女同数化を実現すること。 
 
 2017年9月26日 安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合 
 
 
※朝日新聞「全国32の1人区、野党共闘の結果は」(2016年7月)「与党に大きく水をあけられ、伸び悩んだ民進、共産などの野党4党。一方で「野党統一候補」を擁立した全国32の1人区では、11選挙区で与党に競り勝ち、共闘の効果を示しました。」 
http://www.asahi.com/senkyo/senkyo2016/1ninku/ 
 
※市民連合のホームページ 
http://shiminrengo.com/ 
 
■野党共闘を考える 市民連合の中野晃一教授(上智大学)に聞く その2 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201711080111133 
 
■野党共闘を考える 共産党幹部・植木俊雄氏に聞く 共産党はどのように共闘を決め、どのように進めてきたのか その1 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201711182057166 
■野党共闘を考える 共産党幹部・植木俊雄氏に聞く 共産党はどのように共闘を決め、どのように進めてきたのか その2 
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■民進党はどうなるのか? 民進党・参議院議員会長の小川敏夫氏に聞く 
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■政治を考える 辻元清美氏に聞く リベラルが政権を担う日   その1 
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