2017年11月18日10時45分掲載  無料記事
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中国

中台の現状維持はいつまで続くのか 習近平も描けない統一時間表

岡田充『海峡両岸論 第84号』http://www.21ccs.jp/ryougan_okada/ryougan_86.html 
 
 中国共産党の第19回党大会(10月18−24日)で、習近平総書記は、建国百年を迎える今世紀半ば(2049年)に、中国を「世界トップレベルの総合力と国際的影響力を持つ強国」にする野心的目標を設定した。 
 党規約には習の名前を冠した「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想」が盛り込まれ、集団指導制を維持しながらも、習を「核心」とする強力な集権体制の枠組みが作られた。 
 習は党の「歴史的三大任務」の一つとして「祖国統一の実現」を挙げた。世界トップレベルの強国になった時、台湾統一も実現していなければならない。それが論理的帰結であり、そうでなければ「中国の夢」とは絵に描いた餅にすぎなくなる。 
 19回党大会から習近平時代の両岸関係を展望する。 
 
<台独反対と「92年合意」を強調> 
 
 「われわれには、あらゆる形式の『台湾独立』(台独)の企てをくじく確固たる意思と十分な自信と能力がある。いかなる者、いかなる組織、いかなる政党がいかなる時、いかなる形式で、中国のいかなる領土を切り離すことも決して許さない」 
― 少し鼻にかかった声の習近平が政治報告の台湾政策をこう締めくくると、人民大会堂のホールは大きな拍手に包まれた。いわゆる「六つのいかなる」を使いながら、これまでになく台湾独立に厳しい警告を発したのである。 
 台湾では、19回党大会で習近平が「台湾統一時間表」や「武力統一」を含む強い姿勢を打ち出すのではないかとの観測がしきりだった。だが、ふたを開ければ「台湾独立」に対して胡錦涛時代にはなかった厳しい警告の表現はあったが、「平和発展、平和統一、一国二制度」など従来方針が繰り返され、「統一時間表」は設定されなかった。12年の18回党大会での胡錦涛報告と比べれば、「一つの中国」をめぐる「92年合意」の承認を蔡英文政権に強く迫っているのが目立った。 
 台湾総統府は、これを受けて「両岸の安定維持というわれわれの立場は明確だ」と、現状維持と安定を求める抑制の効いたコメントを発表したが、「ほっとした」のが本音だろう。 
 台湾学者はどうか。淡江大学戦略研究所の黄介正副教授は、「演説は、両岸の政治的対立を解決しようという切迫感はなく、統一に向けた圧迫感はなかった」(注1)と述べた。 
一方、中国の北京聯合大学台湾研究院の李振広副院長は、「六つのいかなる」の前に習が述べた「われわれには『台湾独立』勢力のいかなる形の分裂活動もうちやぶる断固たる意志とあふれる自信と十分な能力がある」(注2)という部分は「従来の党大会にはなかった初の表現」とコメントした。 
 毛沢東、小平と並ぶ「偉大な指導者」を目指して権力を強化する習だが、その彼ですら統一の時間表を描けないのはなぜか。「建前」と「本音」が交錯し、国家をめぐる「虚構性」の維持によって際どいバランスを保っている「現状維持」に光を当ててみよう。 
 
<「観察期」終わり「圧力期」に> 
 
 台湾で初の住民投票による総統選挙が行われた1996年以来、李登輝、陳水扁の2代の総統が「台湾独立」と見做される政策を打ち出すと、北京は「文攻武嚇」(言論による攻撃と武力威嚇)を繰り返してきた。国民党の馬英九時代は大幅に関係改善し、閣僚レベルの政治対話枠組みがスタートし、15年11月にはシンガポールで習と馬による「両岸トップ会談」も実現した。 
 しかし「台湾独立」を綱領にうたう民主進歩党(民進党)の蔡英文政権の登場以来、公的な対話・交流は中断し「冷たい平和」時代に入った。北京は16年12月に西アフリカのサントメ・プリンシペ、17年6月にはパナマとそれぞれ国交を回復し、台湾と断交させた。馬英九時代の「外交休戦」を止め、外交切り崩しに転換したのである。蔡政権誕生後1年の「観察期」を経て「圧力期」に入ったとも言える。 
 習時代になり、北京の台湾工作の実務担当者も交代しつつある。第一は、台湾政策を主管する国務院台湾事務弁公室の人事。中国政府は10月、国連大使を務めた劉結一氏を副主任に起用した。来年の全人代の人事で張志軍主任の後任になる見通し。さらに全国台湾研究会長に戴秉国元国務委員が就任。中国社会科学院台湾研究所長には国際政治専門家の楊明杰氏を充てるなど、外交プロの布陣である。 
 
<武器は「暗黙の同盟」と民意> 
 
 馬英九前政権は「統一も独立もしない」現状維持路線を掲げ、民進党の蔡氏も「現状維持」を公約にして総統に当選した。それは台湾住民の大多数が、「独立」でも「統一」でもない現状維持を望んでいるからである。台湾国立政治大学の最新調査(17年6月)では、「独立」支持は約18%。「統一」は3%台にすぎず、「現状維持」が6割弱に上る。選択の背景には、「本音は独立したいが、独立すれば北京の武力行使を招く」という懸念がある。 
 北京に武力行使を思いとどまらせている要因の第一は、台湾に武器供与する米国との暗黙の「米台同盟」。台湾問題は依然として米中関係の核心の一つである。 
 そして第二に台湾の民意。民意に逆らって統一しても、国内に新たな「分裂勢力」を抱える結果になるだけである。 
 現状維持は東アジアの平和と安定にとって有益だが、それは永遠に続くのだろうか。今世紀半ば中国が米国と並ぶ軍事強国になった時、ワシントンは台湾との「暗黙の同盟」を維持できるだろうか。それこそが台湾にとっても日本にとっても、安全保障上の重要ポイントである。 
 
<「現状は分裂していない」> 
 
 しかし、北京が簡単に「現状維持」を放棄できない最大の要因は、北京側に内在している。それが「現状」に対する法的認識である。胡錦涛前総書記は、2008年末に発表した台湾政策(通称「胡6点」)で「大陸と台湾は統一していないといえども、中国の領土と主権は分裂していない」とする認識を初めて示した。 
 「統一していないが、主権と領土は分裂していない」とは、論理矛盾ではないのか。ここでいう中国とは実際の国家だろうか、あるいは虚構の国家なのかはっきりしない。 
 しかし、北京がもし現状を「分裂している」と定義した途端、武力を行使しても統一を実現しなければならない。共産党は任務を放棄したことになるからである。統一は国家目標なのだから、「分裂した主権と領土」を回復しなければならない。 
 それは共産党指導部に測り知れないストレスを与える。 
 まず、ワシントンとの衝突・対決を覚悟しなければならない。習はトランプ米大統領との首脳会談(4月)で、米国との「大国関係」について「衝突せず、対抗せず」を挙げた。現段階で世界最強の軍事力を持つ米国と衝突しても勝ち目はない。当面の発展目標は2020年の「小康社会の全面的完成」であり、その次には「新時代の中国の特色ある社会主義」を実現させる2035年が控えている。米国と肩を並べられるのは「今世紀半ば」なのだ。 
 第二に、台湾民意を無視して統一すれば、世界から強い非難を浴び、強国建設の柱でもあるグローバル経済圏「一帯一路」構想に「赤信号」がともる。そんな「自殺行為」にも等しい状況に陥るのを避けるため、「現状は分裂していない」という法理を打ち出したのである。現実的で賢明な政策と言っていい。「分裂していない中国」はリアルな国家でなくともよい。平和と安定こそ地域の共通利益なのだから。 
 一方の台湾も、大陸全土を支配している虚構を前提とした「中華民国憲法」体制を維持せざるを得ない。虚構とはいえ、それが「一つの中国」をめぐり、北京と台北を皮一枚でつなげているからだ。 
 最初に書いた、「建前」と「本音」が交錯し、国家をめぐる「虚構性」を維持することによって際どいバランスを保っている「現状維持」とは、そのような意味である。 
 
<来年末にも習独自の台湾政策> 
 
 しかし、無期限に現状を追認すれば、統一など夢物語に過ぎなくなる。ナショナリスティックな国内世論はそれを許すだろうか。 
 2005年に成立した「反国家分裂法」は、「分裂していない」という認識を踏まえながら、第8条で「非平和的方式(武力行使)」の条件を挙げた。 
 その条件は、「台独」分裂勢力が 
‖耋僂鮹羚颪ら切り離す事実をつくり 
台湾の中国からの分離をもたらしかねない重大な事変が発生 
J刃妥一の可能性が完全に失われたとき 
―の三つである。この法律が制定された当時、世界中のメディアは、「武力容認の法律」と書いた。誤りではないが「現状維持法」の側面を無視した粗っぽい解釈だった。 
 習は、台湾海峡を望む福建省の省長やアモイ副市長を務め、台湾政策によく通じている。江沢民、胡錦涛両氏の政策をなぞるだけでは、「偉大な指導者」にはなれない。だが、今は時間表を描き、統一のプレッシャーを自分に課すだけの環境と能力はない。 
 18年末は、北京が台湾への武力統一路線から平和統一政策に転換した1979年元日の「台湾同胞に告げる書」発表40周年に当たる。胡錦涛の台湾政策は2008年末の30周年に発表されたから、習の台湾政策は40周年を迎える来年末に出る可能性がある。民進党政権が継続する可能性があるから、それを前提に、「現状維持」に何らかの枠をはめる方針を打ち出すかもしれない。 
 
<「武力行使」のアドバルーン> 
 
 党機関紙「人民日報」系の「環球時報」は16年末(12月17日)(注3)、王在希氏(前国務院台湾弁公室副主任)の気になる発言を掲載した。彼は「台独を制止できる勢力はもはや台湾にはなく、それができるのは大陸だけ」とし「平和統一の可能性はますます遠のいている」と述べた。「反国家分裂法」が武力行使の第3の条件とする「平和統一の可能性が完全に失われたとき」が近づいているという不気味な見立てである。台湾側が現状維持枠組を自ら崩そうとする可能性は極めて低い。「平和統一の可能性が完全に失われたとき」と判断するのは北京だ。台湾側に圧力をかけるため、恣意的に解釈することもできる。 
 平和統一路線を捨てて、武力統一を主張する声は最近、大陸の学者からよく聞かれるようになった。有名な国際政治学者の金燦栄氏(中国人民大学国際関係学院副院長)は16年夏の大陸での講演で、北京は蔡英文政権に対し「観察、圧力、対抗、衝突」の4段階で対応するという段階論を提起した。観察期を経て、現在は外交的、経済的圧力をかける「圧力期」に入ったとする。 
 そして2020年の次期総統選挙の半年前に「対抗期」に入り、台北への揺さぶりを強化する。次期総統選でも、国民党に政権奪回のチャンスはほぼないとし、第二期民進党政権の四年の間に第4段階の「衝突」入ると予測している。「台湾人の意識が我々を受け入れないのならコストは大きくなるばかりだ」とし「衝突とは武力解決のことであり、主として台湾民衆に流血など大きな苦痛をもたらす」と述べている。驚くべきことに、武力行使の時期を「私の想定では最も早ければ2021年」と語っている。あと3年だ。 
 党大会の習演説を読む限り、米国と「衝突せず、対抗せず」のタイムスパンは2035年以降、「中国の夢」が実現する49年まで続くと考えるのが常識的であろう。王と金の発言はあくまでも学者の個人的見解であり、台湾を含めた内外の反応をうかがうアドバルーンとみているのだが・・・(一部敬称略) 
(了) 
(注1)http://news.dwnews.com/taiwan/big5/news/2017-10-18/60018120.html 
(注2)http://hk.crntt.com/doc/1048/5/0/0/104850014_3.html?coluid=93&kindid=15730&docid=104850014&mdate=1020225908 
(注3)http://taiwan.huanqiu.com/article/2016-12/9823881.html 
 
〔『21世紀中国総研』ウェブサイト内・岡田充『海峡両岸論 第84号』(2017.11.12発行)転載〕 
 
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<執筆者プロフィール> 
岡田 充(おかだ たかし) 
(略歴) 
1972年慶応大学法学部卒業後、共同通信社に入社。 
香港、モスクワ、台北各支局長、編集委員、論説委員を経て2008年から共同通信客員論説委員 
桜美林大非常勤講師、拓殖大客員教授、法政大兼任講師を歴任。 
(主要著作) 
『中国と台湾―対立と共存の両岸関係』(講談社現代新書)2003年2月 


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