2017年11月18日21時39分掲載  無料記事
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政治

野党共闘を考える 共産党幹部・植木俊雄氏に聞く 共産党はどのように共闘を決め、どのように進めてきたのか その2

Q 野党共闘の合意ができて、一人区の候補者の選定は粛々とできたんですか? 
 
植木俊雄・広報部長 
  結構大変でしたよ。経過を言っておきますとね、まず私たち幹部会から9月19日に共産党・中央委員会で野党共闘の提案をして、それで決定したあと、ともに闘った市民団体の方々やともに闘った4党(民主、維新、自由、社民)の各党にその提案をお届けして検討をゆだねるという風にしたわけですね。で、市民から安保法反対で立ち上がってきた学者の会の方々、それから千人委員会の方々、ママの会、シールズをはじめとした人たち。こういうそれぞれの各層の団体のリーダーの人たちに野党共闘の提案は非常に歓迎されたんです、即座に。 
 
Q 市民連合がありますが、共産党が先に提案した? 
 
  そうです。そこが大事なんです。学者の会があって、立憲デモクラシーの会、それから千人委員会の方たち、憲法会議の人たち、各層、各分野の人たちが別々にいたわけですね。それを全体を支える形で総がかり行動実行委員会という旧総評系と全労連の各種民主団体の集合体がありました。それぞれ互いに連携はしていましたが組織化していたわけではなかったんですよ。で、我々(共産党)がこういう方向を提出したところ、これでもってがっかりしなくていいんだ、と。これでもって展望がわく、と。なるほどそうだ、と。つまり、もともと「虚構の多数」で安保法という立憲主義を破壊するような暴走を進めたのは虚構の選挙体制があったからだ、ということです。そこで野党が一緒になって手を組めば十分安倍政権を打倒して、こういう暴走を阻止して、むしろ憲法に基づく政治を実現していくチャンスが生まれるじゃないか、と。皆さんそう思ったんです。だから2015年12月に市民連合という形ができたわけですよ。それまで市民連合ってなかったんです。 
 
Q 2015年9月19日未明に安保法が強行採決され、その日の午後に共産党中央委員会で野党共闘の方針が決まりました。その後、時系列的にはどういう風に提案を届けていったんですか? 
 
  決定した方針の中身自体をそれぞれの団体のリーダーに翌日お届けしました。中央(全国団体)でもやりましたが、それと同時に47都道府県の各地の団体の人たちにもお届けしました。中央委員会や国会のレベルだけじゃなくて、都道府県のレベルでもみんなやる、と。一緒に力を合わせてやりましょう、と。 
  私たちの提案に一番強く反応したのは「ママの会」でした。ママの会の人たちは、確かあれは8月の20日ごろあたりから、「これは大変だ、この法律は」という風に広がり始めて、「だれの子どももころさせない」をモットーとする「安保関連法に反対するママの会」というのを作ったんですけど、その時はまだ全国的なネットを作っていなかったですね。ところが安保法が強行されて以降ですよ、ママの会が全国各地に広がったのは。 
 
  という風に私たちの提案した方向が皆さんの思いと非常に強く響き合う関係となったんです。つまり、現実的根拠のある安保法の廃止とその後の展望という風に受け止められてこれが広がったのです。ところが問題は政党です。どの政党も非常に重要な提案だ、とは認識していました。自由党党首の小沢さんは「大賛成」と。「これで行きましょう」と。社民党の吉田党首も「大賛成」と。で、維新と民主党の岡田さんには「非常に重要な検討すべき中身を持っている」という風にうけとめていただいたんですが、これがなかなか進まなかったんですよ。 
  で、5か月後の2月19日に〜奇しくも同じ日ですね〜民主党党首の岡田さんの呼びかけて、安保法制反対でともに立ち上がった5党の会談が実現したんです。この時は維新も民主党に合流する前だからいたんです。そこで5野党の取り組みの方針として、4点の合意事項が作られました。 
 
●2016年2月19日の5野党党首会談の4つの合意事項 
 
・安保法制の廃止と集団的自衛権行使容認の閣議決定撤回を共通の目標とする 
 
・安倍政権の打倒を目指す 
 
・国政選挙で現与党および補完勢力を少数に追い込む 
 
・国会における対応や国政選挙などあらゆる場面でできる限りの協力を行う 
 
(植木俊雄・広報部長) 
  これが合意事項なんです。ただ、こういうように中央レベルで合意しても、参議院選挙でその協力をどうするか、ということでなかなか進まない時期があったんです、具体化でね。つまり、さしあたりの国政選挙の参院選挙で32の1人区のところでの候補者を調整して1本化しましょう、じゃその方向で協力しましょうという風に党本部同士は一致して合意したんですが、その具体化が(参院選挙のある)7月を前にしてもなかなか進まない時期があったんですよ。 
 
Q 地方の人も俺が降りるのか?というような・・・ 
 
  俺が降りるのか、というのもありましたし、同時に共産党との選挙協力はどうなのか、というのが民進党内にもありました。それから我々には直接わかりませんけど、連合の方々が共産党との共闘を嫌がっているという話があったようですね。ですから、党本部が決めても地方レベルのところで進まなかったんです。 
 
Q 中央だけでは決まらない、と。 
 
  先ほど申しましたが、市民と野党の協力は中央レベルだけじゃなくて地方レベルでの方々にも直接真意をお届けして討論と合意を広げてきましたから、その成熟度合によってどんどん地方から立ち上がっていったんですね。地方の意識の変化が大きいですね。 
 
  ですから一番最初に問題になったのは北海道5区の衆院の補選をどうするか、ということだったんです。北海道5区の補選で統一しましょう、ということが北海道の民主党の関係者と共産党の関係者の合意に基づいて先行して2016年4月に実現しました。選挙では数千票の差まで行ったんですよ、結果的には、かなり肉薄したけれども負けたんです。でもここから行ける、と。 
 
Q これは民主党にとっても意味があるというような・・・? 
 
  民主党が推した候補者を共産党も推す、と。要するにね、北海道5区の地域というのは自衛隊がいるところなんですよ。従来、自民党が基盤としていて強いところだったんですが、数千票の差まで野党が迫った。 
 
Q これを見て民主党の人たちも協力してもらった方がいいな、と? 
 
  やはり大義ですよ。要するにね、安保法を廃止し、立憲主義を回復する、という大義ですよ、単なる政党の数合わせじゃなくて。そこが大きく選挙民の気持ちを打ったわけですよ。とくに安保法との関係で言えば、真っ先に危険にさらされるのは自衛隊員ですからね。自国を守る戦争じゃなくて、自分とは関係のない海外へ出かけて行って、戦闘地域に出かけて行って、あやうく殺し、殺されるかもしれない、と言うところに行ってね、安保法によってね。まず危険にさらされるのは自衛隊員です。しかも海外に派遣されているのは北海道の人たちが多いんですよ。北海道の自衛隊が。この間、南スーダンに派遣された自衛隊員も北海道から派遣された部隊ですね。これがあって、どどんと決まっていったんです。これが1つのきっかけになりましたね。で、2016年の参院選の一人区で言えば、一番最初は熊本で無所属の候補者を擁立しようという事で共産党も民主党も社民党も含めて一致して推す、と。無所属から始まったんですけど、香川県だけは共産党の候補を民進党も推す、という風にお互いに譲り合いながら共通の候補を立てる、ということが実現したんです。 
 
Q もみ合って決めるのは中央の人が? 
 
  地方と中央、両方です。 
 
Q地方だと中央委員会のリーダーの人たちが 
 
  そうです。 
 
Q 勝てるかどうか? 
 
  勝てる候補、ということに単純にしないで、きちっとした大義の下に活動できる、という人ですね。32の選挙区で共同候補を立てた時にそれぞれの地域で政策合意があるんですよ、これは非常に豊かなものですね。 
 
Q 1個1個違うんですか? 
 
  違うんです。共通しているのは安保法の廃止、立憲主義の回復。これが一丁目一番地。でも、それだけじゃなくて、たとえばですね、TPP反対というのも特に東北なんかにありましたよね。で、ご承知のようにTPPは民主党時代に開いたものじゃないですか。野田(佳彦)さんが。だから中央レベルではTPP反対、ということにならないですよ。しかし、農村地帯に行くとまさに農産物の無原則的な自由化をされたら、とてももたない、ということはありますから、地方レベルではTPP反対はあるんですよ。 
 
Q 今でも中央ではTPP反対は言えないのですか? 
 
  そういうもんですね。ですから、地方レベルでは中央の政党間で合意した以上に、共闘の合意内容が非常に豊かになっていった、というのがあるんですね。 
 
Q 地方が大きな意味を持っている、と。草の根民主主義が育ってきている、と。 
 
  そうです。 
 
Q 共闘の場合、32の一人区の候補者の配分は国会議員数的な勢力に比例して決めたんですか? 
 
  我々は最初の共闘だから参議院段階では思い切って統一候補を作ろう、と。 
 
Q 全部譲ってもいい、と? 
 
  ただまあ全部譲るとなればお互い力が出ないから、我々だってね。我々の候補者も民主党と並んで候補者になれるように努力してほしい、ということを言いました。香川県の参議院選挙候補者を、民主党の小川 淳也さんが総支部長をやっているところで推してくれたんですね。 
 
Q 32の選挙区で共産党の候補者はたった一人? 
 
  一人。すごい象徴的なんです。 
 
Q 自分たちが共闘を言い出した、ということがあるから? 
 
  そうです。ただ、香川の先鞭をつけた小川 淳也さんのところも立派な政策協定ができたんですよ。あそこの政策協定は面白いんです。共産党は日本共産党の綱領に示されているように「個人の私有財産を守る」、と。 
 
Q 共産党の人が立つからあえて? 
 
  そうなんです。中国とか、ソビエトだとかとは違いますよ、と。非常にユニークなものだったんです。 
 
Q それにしても大きく譲りましたね。 
 
  そうですね。安保法は放置しておくと本当に危険だと。すでに進行しているのが目に見えない形でどんどん広がっていますしね、ですから1日も早く廃止しなければいけないです。やっぱりこういう政権そのものを早く退場させて、憲法に基づく政治を回復する必要があります。これを成功させるためにはどんなことがあっても1本化していかなければならないのです。そうすれば11の一人区で勝ったように、この大義に基づいて野党が本気で共闘すれば勝てる、ということなんですよ。これが証明されたっていうことですよ。 
 
  実はこういうやり方は沖縄で先行的に実現されているんです。あそこではよく「民主党は日米安保条約賛成だ。共産党は日米安保条約反対だ。基本のところで違うんだから共闘できない」という風に言っているんですよ。沖縄で共闘しているのは元自民党の人たち、それから沖縄財界の人たち、それと共産党。そして自由党と社民党の人たち。これが「オール沖縄」という形で共闘しているわけですね。その元自民党と沖縄財界の人たちは日米同盟は反対じゃないんですよ、「日本を守るためには必要だ」と。安保条約に対する考え方の違いは歴然として現在もあるんですね。あるんだけれども、これ以上の基地負担については反対せざるを得ない、ということで一致しているわけですね。ですからそれぞれ基本的なところで大きな違いがあっても、当面する国政問題で重要な一致点があればお互いが協力して、選挙も協力して勝ちましょう、と。沖縄で先鞭つけているわけですよ。 
 
Q 沖縄が1つのモデルになったわけですね。 
 
  ええ、その後、ですから、沖縄以外のところでも参議院選後、新潟の首長選挙で勝ちましたでしょう?これも劇的なことですよね。あの場合は原発問題が大きな争点になりましたけれども、やっぱり野党と市民の共闘で推す候補が自公の現政権を破ることが実現しました。その後の仙台市長選挙の時も市民と野党の共闘で現職の市長を打ち負かして勝利する、という風にその地域や国政での基本問題で一致して力を合わせれば勝てるということがどんどん証明されちゃったわけですね。 
 
Q その意味では自民党はかなり恐れたでしょうね? 
 
  恐れたでしょうね。 
 
 
聞き手 
村上良太 
 
 
 
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