2017年11月21日22時26分掲載  無料記事
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人権/反差別/司法

法律婚した男性による夫婦別姓訴訟  根本行雄

 日本人と外国人との結婚では同姓か別姓かを選べるのに、日本人同士の結婚だと選択できないのは「法の下の平等」を定めた憲法に反するとして、東証1部上場のソフトウエア開発会社「サイボウズ」(東京都中央区)の青野慶久社長(46)ら2人が、国に計220万円の損害賠償を求め、来春にも東京地裁に提訴する方針を固めた。代理人弁護士によると、法律婚した男性による夫婦別姓訴訟は初めてだという。松下竜一さんの「濫訴」のすすめを想起した。 
 
 
 
 夫婦別姓との関りも、もう、ずいぶんと長い。もっと簡単に、夫婦別姓は実現するものだと思い込んでいた。 
 日本においては、民法750条で、夫婦は同氏が原則とされており、婚姻を望む当事者のいずれか一方が氏を変えなければ法律婚は認められない。そのため、現在の日本においては何らかの理由で当事者の双方が自分の氏を保持したい場合、結婚できない、という問題が生じることになる。現状ではそのような場合、婚姻をあきらめるか、旧姓の通称利用を行うか、事実婚を行う、といった選択肢しかない。2014年の時点では、妻の側が改氏する割合が96.1%にのぼっており、これは女性の側に一方的に強制されている現状を示しており、多くの女性が差別されていることを示している。 
 
 
 
□ 2015年の最高裁判決 
 
 2015年12月16日、夫婦別姓を認めず、女性だけに離婚後6カ月間の再婚禁止期間を定めた民法の規定が違憲かどうかが争われた2件の訴訟の上告審判決で、最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)は、「100日を超えて再婚を禁じるのは過剰な制約で違憲」とし、「夫婦同姓規定には合理性があり合憲」とする判断を示し、原告の上告はいずれも棄却した。 
 
 最高裁は、原告側が主張した「姓の変更を強制されない権利」を「憲法上保障されたものではない」と否定し、同姓には家族の一員であることを実感できる利益があるとした。そのうえで「女性側が不利益を受ける場合が多いと推認できるが、通称使用の広がりで緩和されている」と指摘し、夫婦同姓規定は「結婚を巡る法律に男女平等を求めた憲法には反しない」と結論付けた。 
 選択的夫婦別姓制度については「合理性がないと断ずるものではない」と付言し、国会での議論を促す内容であった。 
 夫婦同姓は10人が合憲とし、女性全3裁判官を含む5人が違憲とした。 
 
 
 
□ 夫婦別姓 サイボウズ社長、提訴へ 
 
 毎日新聞(2017年11月9日)は、「夫婦別姓 サイボウズ社長、提訴へ」という見出しの記事(坂根真理記者)を掲載している。 
 
 日本人と外国人との結婚では同姓か別姓かを選べるのに、日本人同士の結婚だと選択できないのは「法の下の平等」を定めた憲法に反するとして、東証1部上場のソフトウエア開発会社「サイボウズ」(東京都中央区)の青野慶久社長(46)ら2人が、国に計220万円の損害賠償を求め、来春にも東京地裁に提訴する方針を固めた。代理人弁護士によると、法律婚した男性による夫婦別姓訴訟は初めて。 
 
 青野さんは、旧姓の「青野」で経営者としての信頼を築き、サイボウズは2000年に東証マザーズ上場。翌01年の結婚時に妻の姓を選択してからも旧姓を通称として使ってきた。しかし、所有していた株式の名義を戸籍上の姓に書き換えるのに約300万円を要した。「働き方が多様になった方が働きやすくなるのと同じで、姓も選択できる方が生きやすさにつながるはず」と訴える。 
(中略) 
 青野さんは2001年、結婚する際に「名前が二つあったら面白い。人がやらないことをやってみよう」と、妻の姓を選んだ。 
 妻の希望もあり、ベンチャー精神で決めたが、改姓して初めて、戸籍名と通称を使い分けることの不便さを痛感。社会に向けて選択的夫婦別姓制度の導入を求める発言を繰り返してきた。 
 社員から「結婚式に呼ぶとき、案内状の宛名はどう書けばいいですか」と聞かれる度に「青野で」と説明しなければならない。取引先が海外のホテルを「青野」で予約していたため、フロントでパスポートを提示した際に「予約はない」と言われ、トラブルになった経験も。さらに、姓が違うという理由で宅配業者に荷物を持ち帰られたこともある。 
 青野さんは「夫婦げんかの度に『俺は姓を変えたのに』と思ってしまう。どんな名前で生きていくのかを選ばせてほしいだけ。これからの日本は多様性を認めていくことが大事だ」と力説する。 
 
 
 
□ 松下竜一「ランソのヘイ」 
 
 松下竜一著『五分の虫、一寸の魂』(教養文庫 社会思想社)がある。 
 
「うつらうつら居眠りしていたぼくの脳裡に、なぜか<ランソのヘイ>という一語が浮かびきたのである。最初の一瞬、語呂につられたぼくは、なにやら屁の一種かと即断し、なぜかくも卑しき語のわが清雅の脳裡にひらめきしと、いぶかしんだものである。屁にあらず、その頃つれづれに読み散らした法律書にあった一語なりと納得し、しかしなぜにこの語のあざやかに浮かびしかと思索するうちに、ぼくは突如として、日本国革命の確実な一手段を発見したのである。」9ページ 
 
「弱点を攻めよ、即ち日本中に濫訴の弊を捲き起こし、支配者の具たる法律を庶民の手垢でメロメロにしてしまうとき、日本政府は自壊してしまうだろう。/日本中の庶民たるもの、総がかりで訴訟を起こさねばならぬ。日本政府に対してはいわずもがな、県知事、市長も血祭りに、大企業こそはひとつ余さず、ただひたすらに訴えて訴えて訴え狂うことによって、日本の新しき庶民の世は到来するのである。」11ページ 
 
 これまでの人類の歴史は人権をめぐる戦いの歴史である。それは今後とも、続く。青野慶久さんの「濫訴」を評価する。濫訴せよ。濫訴せよ。濫訴こそは、わたしたちの戦いの一方法である。 


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