2017年12月31日14時11分掲載  無料記事
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アジア

ロヒンギャ問題の背景を探る 国際人権団体アムネスティが独自調査  「これは国家主導の人種差別政策アパルトヘイトだ」

 ミャンマーを追われるイスラム系少数民族ロヒンギャの人びとの状況は、世界最悪に難民問題といわれている。いったいなぜこんなことが起こったのか。国際人権団体アムネスティは、独自調査をもとに、問題の背後には長年にわたる構造的差別があったことを明らかにし、それは国家主導の人種差別政策であり、かつて南アフリカで実施された、人を人と見なさない「アパルトヘイト」に酷似する、と述べている。以下、アムネスティの調査から、その一部を紹介する(大野和興) 
 
◆天井のない監獄 
 
 ロヒンギャの人びとは、数十年にわたり国主導の差別を受けてきたが、仏教徒とイスラム教徒の間の衝突が多発した2012年以降、ロヒンギャの人びとへの迫害が、劇的に増えた。 
 
 ラカイン州のロヒンギャの人びとは、そもそも外部の世界から遮断され、移動の自由を厳しく制限され、自分の村や地域から出られない状況だった。州の規定には、「外国人とベンガル族(ロヒンギャの人びとに対する軽蔑語)は、郡をまたいで移動するときには特別許可を必要とする」とある。ラカイン州北部では、別の村へ行く時でさえ許可が必要だ。また過去5年間、ロヒンギャ住民が大多数を占める地域では、説明もなく夜間外出禁止が発令されてきた。 
 
 ラカイン州中部では、ロヒンギャの人びとは、自分たちの村や避難民キャンプから出ることができない。地域によっては、道路の使用も認められず、水路で移動するしかない。しかも行けるのはイスラム教徒の村だけだ。何とか許可を得ても、検問所にいる国境警備警察から賄賂の強要など嫌がらせを受ける。暴行や拘束もある。 
2012年に仏教徒とイスラム教徒が衝突したときも、数万人のロヒンギャの人びとがラカイン州の市街地から追い出された。現在、およそ4千人が町に残り、鉄条網で囲まれ、検問所があるスラム街のような地域で暮らしている。 
 
◆医療からも教育からも締め出し 
 
 移動の制限は、ロヒンギャの日常生活に壊滅的な打撃を与えている。州の医療施設は、どこでも総じて貧弱だが、ロヒンギャの人びとにとっては、さらに深刻な問題にぶつかる。 
 
 州で最も設備が整った病院は、ロヒンギャの人びとには、非常に緊急性の高い場合を除き、利用を認められていない。緊急性が高い場合でも、その都度、州の認可が必要な上、警察官の同行を求められる。州北部以外では、ほんのわずかな医療施設しか利用できない。利用できたとしても問題が残る。ロヒンギャの患者は、「イスラム教徒病棟」に隔離されるからだ。この病棟は「刑務所内病院」と例えられることもある。 
 
 聞き取りをしたうちの数人は、「隔離された患者は、家族に会ったり、町の店の食べ物が欲しければ、病院職員と警察に賄賂を払わなければならない」と話した。他の人たちは、「病院にはまったく行かなかった。医者や看護婦の手荒な扱いが怖いし、そもそも治療してもらえるとは思っていない」という。 
2012年以降、当局は、ロヒンギャの人びとの教育を受ける機会を著しく制限してきた。州のほとんどの地域で、ロヒンギャの子どもたちも、以前は多人種の公立学校に通っていたが、今は完全に締め出されている。また教員は、しばしばイスラム地域の学校を拒否してきた。 
 
 移動制限の強化で、ロヒンギャの多くが職を失い、収入減で食事代にも事欠くようなっている。農産物の販売を生業にしていた人は販売ルートや市場から締めだされ、農民は妨害により農地での作業ができなくなった。ロヒンギャの間では、栄養失調と貧困が日常化し、当局の制限で人道支援が届かないことも事を深刻にしている。 
また、イスラム教徒が多数を占める地域では、5人以上の集会が禁止され、モスクは封鎖されて朽ちるままに放置されていた。 
 
◆否定される市民権 
 
 ロヒンギャ差別を強力に支えているのが、差別的な法律や慣習だが、民族性を理由にロヒンギャの市民権を認めていない市民権法は特に問題だ。また、ロヒンギャの人にとって自分と家族のミャンマーでの居住を示す唯一の証明となるのが「世帯名簿」だが、2016年以降、新生児の世帯名簿への登録が、著しく煩雑になった。州北部では、年に一度の人口調査時に自宅にいなければ、その住民の記録は、役所の記録からすべて削除されるおそれすらある。 
 
 今回の掃討作戦の結果、他国に逃れた人びとの帰国が、事実上不可能になった。過去2年でバングラデシュに逃れたロヒンギャの人びとが70万人に達することを考えると、この問題は深刻だ。 
 
◆解体すべき「アパルトヘイト」 
 
 こうした状況を明らかにしたアムネスティは、ミャンマー政府によるロヒンギャの人たちの扱いは、アパルトヘイト条約および国際刑事裁判所設置規定が定めた「アパルトヘイト」に相当すると結論付けざるを得ない、と断定、以下のように主張している。 
 
 「ミャンマーは、ラカイン州のアパルトヘイト政策を解体する法的義務があり、これに加担した者たちの責任を追及しなければならない。ラカイン州は、さながらロヒンギャへの国家的犯罪の舞台と化した。忌まわしい差別と隔離は、ロヒンギャの人びとの日常生活のあらゆる面に入り込んでいる。この状況にメスを入れるには、この制度や政策、法律を即刻、解体するしかない。さもなければ、掃討作戦が終わっても、事態は何も変わらないだろう」 


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