2018年01月26日12時51分掲載  無料記事
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コラム

【歩く見る聞く】寒波、東電の節電要請と脱原発法案 田中 洋一

 優勢な冬将軍が居座っている今週、埼玉県東部の我が家では雪が26cm積もり、記録的な冷え込みに見舞われている。除雪していた23日に、東京電力が節電を呼びかけるニュースが流れた。 
 
  内容を東電のホームページで確認すると……。気温の低下で暖房の電力需要が高まり、24日午後6〜7時のピーク時間帯に電力の予備率(余裕)は1.0%しかなくなる。東北電力・中部電力の両社から電力の供給を受けて予備率は3.4%まで引き上げるが、「一般のご家庭をはじめ広く社会の皆さまにおかれましては、空調温度の低め設定や使用していない照明の間引き・消灯など、節電への取り組みにご理解、ご協力を」とのお願いだ。 
  電力会社から節電の要請を聞くのは久しぶりで、できる限り協力はしたい。その一方、ほとんどすべての原発が止まっている中で、な〜んだ原発に頼らなくても冬のピーク時間帯でも電力供給は滞らないのか、との思いを新たにした。 
 
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  国内に54基あった原発は、7年前の東電福島第1原発の事故でいったん全基が止まった後、現在は4基しか稼働していない。事故の後、老朽化した原発の廃炉が経済性の観点から進む一方、原発の新規制基準で再稼働した炉もあり、一進一退の状況だ。 
  こんなことが気になるのは、脱原発に向けて複数の法案が準備されているからだ。その一つ、立憲民主党がこの通常国会に提出をめざす原発ゼロ基本法案の立案の一端に23日立ち会った。NPO法人の原子力市民委員会から公開の場で意見を聞く会合で、立憲民主党側はエネルギー調査会の逢坂誠二会長(衆院議員)ら国会議員24人が出席し、市民委員会側はフロアを含め100人以上が参加した。 
  この段階でまとまった法案の骨子はおおむね次の通りだ。すべての原発の稼働をすみやかに止め、廃炉の実現を目指す。廃炉の決定をもって原発ゼロとみなす。廃炉を進めるためには電力会社だけでなく、国の関与つまり国有化を検討する。 
  原発の新設・増設は認めず、稼働から40年経った炉は延長を認めず必ず廃炉にする。いったん廃炉と決めた炉の再稼働は、中長期的に電力が不足する場合に限って極めて例外的に認める。(この例外規定は、原子力市民委員会のメンバーから強い批判と懸念を浴びたので後述する) 
  原発による電力供給の減少は、省エネの徹底と再生可能エネルギーの導入で対応する。省エネを徹底して2030年の電力需要を2010年比で30%減らし、2030年に再生可能エネルギーが担う電力供給は全体の40%以上にする。 
  法案が脱原発を国の責務と捉えている観点は重要だ。これまで原子力事業は国策民営として進められてきた。福島の事故もその結果起きた。だから国は、原発の廃止とエネルギー源の転換を推進する責務がある、との考え方だ。 
  そのため、首相を本部長とする推進本部を政府に置き、脱原発を担う「エネルギー環境省」の創設を検討する、としている。経済産業省には任せられないからだ。さらに、電力会社に廃炉支援と損失補償をする。原発立地地域には雇用や地域振興を支援する。 
  市民委員会からは、原発ゼロを具体的に打ち出す姿勢に賛同し、立法の過程を公開する意義を評価する声が相次いだ。「現在既に事実上の脱原発状態で、国民の多くが原発の再稼働を望んでいないのに、政策に反映されていない」との根強い不満が背景にある。 
  「法案は立憲民主党が国民に向けたメッセージであり、脱原発に向けて明確なメッセージを発して欲しい」との要望が出た。例えば、条文に盛り込めなくても、脱原発と結びつく核廃絶や原発輸出阻止を前文に謳えないかという注文だ。「3・11事故を踏まえて、『原子力は人を不幸にする』の文言を入れて欲しい」の声も出た。 
  一方、市民委員会から厳しく批判されたのが、廃炉と決めた炉でも緊急避難的に再稼働を認める、とした例外条項だ。 
  「例外的な稼働条項は削るべきで、原発を残す温床になる」「原発事故の被災者という立場から緊急時の稼働も容認できない」「そもそも原発は、緊急時に運転しようとしても当てにならない電源だ」との反発が続いた。 
  これに対して立憲民主党の逢坂議員は「(例外条項の)条文は落とすこともあり得ます」と答えた。この場を前にして、法案を市民と共に形にする意義を私は強く感じた。政党にただ任せるのではなく、市民の側も積極的に参画する責任と意欲が求められているからだ。立憲民主党は2月中旬にかけて全国13都市で今回のような対話集会を開き、原発ゼロ基本法案への意見を求めることにしている。日程と場所は同党ホームページを参照して欲しい。 
  法案を成立させるには、巨大与党も認めざるを得ない世論の形成が必要だ。筋を押し通すだけではだめで、「産業界には原発に代わるビジネスを提起しなければいけない」との意見と共に、ある世論調査の結果を市民委員会のメンバーが引用した。 
  災害心理学の広瀬弘忠さんによる(株)安全・安心研究センターが2013年7月に発表した調査結果によれば、「原発は直ちにやめるべき」が原発事故後の11年の13.7%から13年は増えて30.7%になり、「段階的に縮小すべき」は11年の66.4%から13年の54.1%に減った。即時ゼロを求める世論は増えたとはいえ、過半数に満たない。だから、「原発即時ゼロの法案を通すためには、世論を逆転させる運動が必要である」とこのメンバーは強調した。 
 
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  世論が大事という主張には、こんな反面教師の存在がある。埼玉県議会は昨年の12月定例会で「世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた原子力発電所の再稼働を求める意見書」を可決した。都道府県議会が同種の意見書を国に出すのは初めてだ。 
  これには驚いた。埼玉県内に原発は1基もなく、立地計画もない。それどころか、7年前の福島の原発事故で、県立高校の校舎跡に被災者が集団避難した。そんな土地柄なのに、県民感情を逆なでする意見書を出すとは、どんな考えからなのだろう。意見書は自民と無所属県民会議の議員が提案して賛成多数で可決し、衆参両院議長や首相らに提出された。 
  原発を容認する世論形成に対抗するためにも、原発ゼロ基本法案が国会で審議されることは大いに意義がある。 
(2018年1月25日) 


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