2018年02月15日20時40分掲載  無料記事
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コラム

外国の労働法の規制緩和と日本の労働法の規制緩和はつながっている  公共放送は国民の知る権利に応えるべきだ

  今日、公共放送のテレビドキュメンタリーでは外国の労働問題を扱う番組企画案などはほとんど採用されなくなっています。海外を見て日本を振り返って考えてみる・・・・的な番組は採用されない時代が来てしまったのです。一昨年あたりから企画の採用基準が激変したのです。このことは何を意味しているか考えてみたいと思います。 
 
  日本で今、安倍政権が導入しようとしている労働法の一段の規制緩和はさらなる超過労働を労働者に強いる可能性が強いのです。このことは日本一国だけで見ていては解決できないことなのです。どういう意味か。2016年にフランスで労働法の規制緩和を社会党政権が試みました。フランスの特徴だった週35時間労働規制に年々、保守の政権が抜け穴を作って条件さえ合えば48時間まで可能になる、と言った方向で法改正を行ってきましたが、2016年は週35時間労働制を築き上げた当の社会党の政権が自ら規制緩和を一層進展させ、社会党政権を生み出した労働者や労働組合の怒りを買いました。そして、昨年の大統領選挙と総選挙で社会党はお灸をすえられ、ほとんど壊滅に近い状態に追い込まれました。しかしながら、皮肉にも去年の選挙で大勝したのは本来、社会党政権のアドバイザー、のちには経済大臣として規制緩和を進めていた源であるエマニュエル・マクロンだったのです。そして、マクロン大統領と彼が任命したエドゥアール・フィリップ首相は労働法の一層の規制緩和を行っています。 
 
  日本から見ると、これが何を意味しているか、と言えばフランスの労働者と日本の労働者は国際労働市場の中で互いにライバルの関係にあるということです。新自由主義が深化し、国の規制がなくなればなくなるほど互いにむき出しのコスト競争に投げ込まれます。フランスが労働者の労賃を安くし、労働者が長時間安く労働することを強いられれば、明日は日本でさらに労働法の規制緩和が行われ、労働者の環境は厳しくなるのです。そして、日本でさらに労働法が緩和されれば明日はまたフランスの労働者に跳ね返ってくるはずです。このことはフランスやアメリカ、その他の先進工業諸国で1990年代からずっと行われてきたことでもあります。ですから、海外で起きていることは他人事では決してないのです。海外で起きているこうした事態を報じることは日本の労働者にとって明日を考えるための重要な情報になるはずです。日本でも同じようなことがあるからわざわざ外国でまで見る必要はない、というようなことはないと思います。むしろ、大切なことは世界の労働者が互いに今の世界の構造を理解し、敵対しあうのではなく、手を携えることができるような情報を提供することにあるのです。 
 
  日本の公共放送が外国の中で起きている重要な事象を報じなくなる方向にある、ということは日本国民が自らの運命を見つめる機会を奪うことになります。このような放送局が公共性を理由に国民から受信料を定額払え、と要求するのは正当なのでしょうか?公共放送局の大切な役割は国民が必要な情報を得ることができるようにすることです。民放でもできる、面白映像を提供することではありません。公共放送の番組企画の採択を担当している人々にこのことを考えて欲しいと思うものです。 
 
 
村上良太 


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