2018年02月22日21時14分掲載  無料記事
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検証・メディア

日本政府の対朝鮮政策に合わせて世論をミスリードするNHK  Bark at Illusions

 日本政府は朝鮮政府の融和姿勢を“ほほ笑み外交”と表現して警戒し、核戦争を回避するために対話を重視する韓国政府に懸念を示して、日米韓が連携して朝鮮に対する圧力を強化すべきだと主張している。そして‟公共放送” NHKは、そんな日本政府の方針が受け入れられるべく世論をミスリードしている。 
 
 “ほほ笑み外交”という表現には、朝鮮政府の融和姿勢は表面的なものに過ぎず、核・ミサイル開発を続けるための時間稼ぎや日米韓の分断が目的だという疑いの意味が込められているのは言うまでもない。 
 しかし、核開発を続ける独裁国家が融和姿勢を示した意図について慎重に検討することは当然のこととはいえ、こうした懸念は日刊ベリタ(18/2/1)でも述べた通り、朝鮮の核開発を巡る過去の誤った認識に基づいている。 
 
 一般的には、朝鮮政府がこれまで国際社会との合意を破って核・ミサイル開発を続けてきたと理解されているけれども、実際には合意を破ったり反故にするような行動を取ってきたのは、むしろ合衆国政府の方だった。朝鮮政府が核拡散防止条約(NPT)から脱退して核開発を再開させたのは、それまで朝鮮の核開発を中断させるために機能していた「米朝枠組み合意」を合衆国のブッシュ政権が一方的に反故にした翌年のことだったし、朝鮮が最初の核実験を行ったのは6者協議(朝鮮・合衆国・日本・韓国・中国・ロシア)で朝鮮の核放棄を含む共同声明を発表した直後に合衆国政府が朝鮮に経済制裁を課した翌年のことだった。朝鮮政府は、対話や交渉で臨めば合意に従って核・ミサイル開発を中断して放棄する姿勢を示し、圧力で臨んだ時に核・ミサイル開発を強行してきたというのがこれまでの経緯だ。 
 
 NHKはこうした過去の事実に照らし合わせることなく、オリンピックでの南北融和ムードを警戒する日米両政府の次のような主張を無批判に繰り返して、対話や交渉が朝鮮の核・ミサイル開発を止めるために役立ってこなかったかのような印象を与えている。 
 
「南北は過去にも(五輪で)共同で行進している。2006年の冬季五輪の8か月後に北朝鮮は最初の核実験を行った」(マイク・ペンス合衆国副大統領、ニュース7 18/2/7) 
 
「(朝鮮政府が)今までは一貫して核とミサイルの開発をやり続けてきたのは事実でございます。今対話ができているからと言って制裁を弱めていくのは、思うつぼになる」(安倍晋三総理大臣、ニュース7 18/2/14) 
 
 また、朝鮮政府は今年から軍事パレードの日程を2月8日に変更してピョンチャンオリンピックの開会式前日にパレードを行ったが、NHKはパレードの日程が変更された理由について、 
 
「一言でいえば、国際社会が掲げている圧力、核とミサイルを放棄しろという圧力に対して……諦めないと、我々は作り続けるということを喧伝した」(金沢工業大学虎ノ門大学院・伊藤俊之教授、ニュース7 18/2/8) 
 
と、開会式に合わせること以外に根拠がないかのような説明をしたり、朝鮮政府がパレードで合衆国への「対決姿勢」を示していることを強調して(ニュース7 同、ニュースウォッチ9 同)、そのような朝鮮政府と対話をしても意味がないかのような印象を与えている。 
 
 しかし慶応義塾大学の礒崎敦仁准教授(毎日18/2/9)によれば、キム・ジョンウン朝鮮労働党委員長は「昨年から大がかりな歴史の見直し」を行っており、「その一環として軍創設日を1977年以前の2月8日に戻した。建軍70周年にパレードを行わないという選択肢はなく、今回も国内行事として粛々と実施した」のであり、国際社会をいたずらに挑発しようとしているわけではない。 
 
 さらに、NHKは朝鮮との対話を重視するムン・ジェイン大統領の方針が韓国国内で受け入れられていないという印象を与えるためか、朝鮮と韓国の融和ムードを伝えるニュースの中で、合同チームでオリンピックに出場したアイスホッケーの韓国の選手と朝鮮の選手の相違点ばかりを強調したり(ニュース7 18/2/11、ニュースウォッチ9 18/2/15)、ムン政権の融和姿勢を支持する韓国国民の声は全く伝えずに反対する声だけを伝えるなど(ニュース7 18/2/12、ニュースウォッチ9 18/2/12)しているが、韓国の世論調査では国民の72.5%が「制裁を維持しつつも対話を拡大すべきだ」と回答し、77.4%が南北首脳会談に賛成している(日経18/2/15)。 
 
 確かに、オリンピックに合わせて行われた南北朝鮮の会談では朝鮮の核開発について議題にならなかったことから、朝鮮政府の態度は変わっていないとする見方もあるが、合衆国政府の対朝鮮敵視政策が変わっていない以上、朝鮮政府が合衆国による侵略を抑止するために行ってきた核開発をやめるとは常識的には考えられない。合衆国政府は朝鮮政府が融和姿勢を示した後も米海軍佐世保基地に強襲揚陸艦を配備し、グアムには核兵器を搭載できるB52戦略爆撃機やステルス性能を持つB2戦略爆撃機を配備するなど、朝鮮に対する軍事的圧力を強めており、パラリンピック終了後にはキム・ジョンウンの「斬首作戦」を含む米韓合同軍事演習を行う予定でいる。 
 
 ところで、この合同軍事演習について朝鮮政府は何度も中止を求めており、その引き換えに核・ミサイル開発の中止を過去に提案していることから、合衆国政府が軍事演習を中止すれば、朝鮮も核・ミサイル開発を中止する可能性が高い。逆に合同軍事演習を実施すれば、これまでのパターンからすると、朝鮮側もミサイルを発射するなど何らかの対抗措置をとり、朝鮮半島の緊張が再び高まることが予想されるが、緊張がさらに高まり、「全ての選択肢」を排除していない合衆国政府がいつも通り国際法を無視して朝鮮に対して軍事攻撃を行えば、朝鮮が反撃して核戦争につながる可能性もある。 
そのような事態を恐れて、韓国と朝鮮は歩み寄りを始めたのではないだろうか。合衆国のドナルド・トランプ大統領は、人口2500万人を擁する朝鮮を「完全に破壊する」と国連で発言し、合衆国政府がそのような行動に出れば、朝鮮側の反撃で韓国や日本で数百万人の死者が出ると予測されている。国民の生命を守ろうと思えば当然だろう。 
 
 ところが、ムン・ジェインとの会談で米韓合同軍事演習をパラリンピック終了後に行うよう要請するなど、朝鮮に対して圧力を最大限まで高めるべきだと主張して朝鮮半島の緊張を高めようとしているのが日本の総理大臣、安倍晋三だ。 
 核戦争を避けるために対話を開始した韓国と朝鮮に対して、日本政府がそれを妨害して東アジアに住む私たちを危険にさらそうとしているという構図だが、NHKは視聴者をミスリードして、そのような日本政府を支持する世論を作り出している。 


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