2018年03月16日11時59分掲載  無料記事
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検証・メディア

キム・ジョンウンの朝鮮非核化のための条件は「現実離れした提案」なのか?  Bark at Illusions

 マスメディアは、朝鮮政府が非核化の条件として朝鮮半島における「アメリカの非核化」や「北朝鮮の体制保証」を求めていることなどを挙げて、「現実離れ」しているとか、非核化には「相当なハードルがある」などと主張している。 
 
「『アメリカも核を放棄しなければ北朝鮮も核を放棄しませんよ』という、非常に現実離れした提案が『朝鮮半島の非核化』という言葉に込められている。……『体制の安全が保証されれば核を持つ必要がない』っていうことは、……キム・ジョンウン体制の永続化というものをアメリカや周辺国が認めなければ、それを認めるような装置をきちんと作らなければ、核を放棄しないということになりますから、これは壮大なプランですよ」(慶應義塾大学・磯崎敦仁准教授 NHKニュースウォッチ9 18/3/7) 
 
「北朝鮮が、米側の求める核放棄に応じる可能性は極めて低い。北朝鮮は『体制の保証』や『軍事的脅威の解消』を非核化の条件としており、米側が受け入れられない在韓米軍の撤退を要求してくる可能性がある」(朝日18/3/10) 
 
「米朝協議の焦点は、北朝鮮が求める体制保証と、朝鮮半島の非核化の双方を実現することにある。米国は過去に体制保証する考えを示したが、北朝鮮はそれに満足しなかった。平和条約の締結や、米韓軍事同盟の解消や米軍撤退にまで要求をつり上げた。今回もそのようなことを求めれば、交渉は失敗に終わるだろう」(カーネギー国際平和財団・ダグラス・パール副会長 毎日18/3/8) 
 
「北朝鮮が『朝鮮半島非核化の意思を明確にした』……このフレーズは、今まで北朝鮮が繰り返し使ってきたもの。北朝鮮の解釈は、米国の核兵器を朝鮮半島から撤去するという意味を含んでおり、日米が目指す『北朝鮮の非核化』との隔たりは変わっていない」(日経18/3/7) 
 
「北朝鮮が示した『非核化』の意思は『北朝鮮の体制の安全が保証されれば』との条件付きだ。条件には、朝鮮半島からの戦略兵器の撤去や、在韓米軍の撤収も含まれるともとれ、実現には相当なハードルがある」(同) 
 
 国連で核兵器禁止条約が採択され世界が核兵器廃絶に向けて動き出している中で、また日本や合衆国も加盟する核拡散防止条約(NPT)が核保有国に対して核武装解除(nuclear disarmament)に向けた誠実な交渉を義務づけているにもかかわらず、合衆国の核ならよくて朝鮮の核はだめだというマスメディアの二重基準には困ったものだが、朝鮮半島における「アメリカの非核化」や「北朝鮮の体制保証」という条件は、過去の交渉で既に合意されたものであり、決して非現実的なものではない。 
 1994年の米朝両政府間の合意(枠組み合意)では、「両国が非核化された朝鮮半島の平和と安全のために共に取り組む」ことで合意し、合衆国は朝鮮に対して核兵器で威嚇したり核兵器を実際に使用したりしないことを約束している。また2005年の6者協議(朝鮮・合衆国・日本・韓国・中国・ロシア)の共同声明では、「アメリカ合衆国は、朝鮮半島において核兵器を有しないこと、及び、朝鮮民主主義人民共和国に対して核兵器又は通常兵器による攻撃又は侵略を行う意図を有しないことを確認し」、「大韓民国は、その領域内において核兵器が存在しないことを確認するとともに、1992年の朝鮮半島の非核化に関する共同宣言に従って核兵器を受領せず、かつ、配備しないとの約束を再確認」して、「1992年の朝鮮半島の非核化に関する共同宣言は、遵守され、かつ、実施されるべきである」と明言している(外務省 第4回六者会合に関する共同声明(仮訳))。「1992年の朝鮮半島の非核化に関する共同宣言」は、「朝鮮半島を非核化して核戦争の危機を避け、南北朝鮮の平和と平和的な統一に適した環境・情勢を醸成し、アジアと世界の平和と安全に貢献するために」、韓国と朝鮮が「核兵器の実験・製造・生産・受領・保有・貯蔵・配備・使用をしない」ことなどを宣言している(訳は引用者)。 
 そして6者協議の共同声明は「朝鮮民主主義人民共和国及びアメリカ合衆国は、相互の主権を尊重すること、平和的に共存すること、及び二国間関係に関するそれぞれの政策に従って国交を正常化するための措置をとることを約束」している(外務省 同)。 
 
 また、朝鮮半島における核兵器配備や米軍の韓国駐留は、朝鮮戦争の休戦協定(1953年)に明確に違反している。 
 休戦協定は、新たな戦闘機・装甲戦闘車量・兵器・弾薬の増強を止めるよう求めており(第2条13項)、朝鮮半島への核配備はこの条項に違反する。また第4条60項で、「休戦協定が署名され、効力が生じてから3カ月以内に……全ての外国軍隊の朝鮮からの撤退・朝鮮問題の平和的解決などを交渉により解決」するよう勧告しており、休戦協定に従えば、在韓米軍は直ちに撤退しなければならない。 
 さらに、休戦協定は「全ての敵対行為の完全な停止(complete cessation of all hostilities)」(第2条12項)を求めており、今回キム・ジョンウン朝鮮労働党委員長が理解を示したとされる米韓合同軍事演習も協定に明確に違反している。毎年春に行われている米韓合同軍事演習は、朝鮮侵略と占領・朝鮮政府指導者の暗殺・先制核攻撃などを想定した非常に攻撃的・侵略的なものだ。 
 
 このような事実があるにもかかわらず、朝鮮半島における「アメリカの非核化」や「北朝鮮の体制保証」、「在韓米軍の撤退」という朝鮮政府の提案が「現実離れ」しているとか、「相当なハードル」などと主張するなら、朝鮮半島の非核化と東アジアの平和と安定を妨害しているのは合衆国政府ということになるが、マスメディアは逆にその責任が朝鮮政府にあるかのような誤った認識を広める役割を果たしている。 


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