2018年03月16日12時15分掲載  無料記事
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人権/反差別/司法

大崎事件、ただちにに再審を開始せよ  根本行雄

 3月12日、福岡高裁宮崎支部(根本渉裁判長)は、鹿児島県大崎町で1979年に男性(当時42歳)の遺体が見つかった「大崎事件」で、殺人罪などに問われて懲役10年が確定し服役した原口アヤ子さん(90)の再審開始を認めた鹿児島地裁決定(2017年6月)を支持し、検察側の即時抗告を棄却した。原口さんの再審開始を認める判断は02年3月の地裁決定を含めて今回で3度目。検察は、特別抗告をせず、ただちに再審を開始せよ。 
 
 大崎事件とは、1979年10月、鹿児島県大崎町で男性(当時42歳)の遺体が自宅の牛小屋で見つかり、義姉の原口アヤ子さんと親族3人(いずれも故人)が殺人と死体遺棄の容疑で逮捕・起訴された事件である。原口さん以外は起訴内容を認め、懲役1年から8年の判決が確定した。原口さんは無実を訴え続けており、再審を請求し続けている。 
 
 
 毎日新聞2018年3月13日は、次のように伝えている。 
 
 大崎事件の再審開始を認めた12日の福岡高裁宮崎支部決定は、弁護側が新証拠として提出した法医学鑑定を根拠に、男性が絞殺されたとの事件性自体を疑問視し、事故死の可能性にまで踏み込んだ。 
 司法解剖をした医師は第1次再審請求審で「解剖開始時間が深夜で時間のかかる解剖はしなかった」と述べた。今回の決定は改めて解剖のずさんさを浮き彫りにし、保険金殺人事件という見立てに引きずられた自白偏重捜査に警鐘を鳴らした。 
 
 同地裁は原口さんの元夫(93年に66歳で死去)の再審開始も同時に認めていたが、同支部はこの決定も支持して検察側の即時抗告を棄却した。福岡高検が期限の19日までに特別抗告すれば審理は最高裁に移るが、断念すれば同地裁で再審が始まる。弁護団は12日、原口さんが高齢であることも踏まえ、特別抗告しないよう検察側に申し入れた。 
 
 根本裁判長は、弁護側が第3次再審請求審で新証拠として提出した「遺体の状況が首にタオルを巻き付け両手で力いっぱい引いたとする親族らの自白と矛盾する」との法医学鑑定書の信用性を認定。「殺人、死体遺棄の事実認定に合理的疑いを生じさせるに足りる証拠」と認めた。周辺住民の目撃などから酒に酔った男性が自転車ごと側溝に転落して出血性ショックで死亡した可能性があるとした。 
 
 また、地裁決定が心理鑑定に基づいて原口さんの関与を目撃したとする義妹の供述の信用性を否定したことについて「論理に飛躍があり、不合理な判断」と批判。「心理鑑定は鑑定人が設定した前提条件の下での分析結果に過ぎず、意義は限定的」と述べた。原口さんとの共謀を認めた親族3人の自白は遺体の状況と合わない上、知的障害があって表現能力に疑問があるため信用性に重大な疑義が生じると結論付けた。 
 
 
 大崎事件と再審請求の経過 
 
 1979年10月 鹿児島県大崎町の牛小屋で男性(当時42歳)の遺体が見つかる。鹿児島県警が原口さんの他、元夫ら親族3人を殺人容疑などで逮捕された。 
 1980年3月 鹿児島地裁が原口さんに懲役10年、親族らに懲役1年から8年の判決。原口さんのみ控訴し、3人は有罪が確定した。 
 
1980年10月 福岡高裁宮崎支部が控訴棄却 。 
1981年1月 最高裁が上告を棄却し、原口さんの有罪が確定 
1990年7月 原口さんが刑期満了で出所 。 
1995年4月 原口さんが鹿児島地裁に第1次再審請求 。 
2002年3月 鹿児島地裁が再審開始決定。鹿児島地検が即時抗告 
2004年12月 福岡高裁宮崎支部が鹿児島地裁決定を取り消し 2006年1月 最高裁が原口さんの特別抗告を棄却。 
2010年8月 原口さんが鹿児島地裁に第2次再審請求 。 
2011年8月 元夫の長女も鹿児島地裁に再審請求。 
2013年3月 鹿児島地裁が請求棄却 。 
2014年7月 福岡高裁宮崎支部が即時抗告を棄却 。 
2015年2月 最高裁が特別抗告を棄却 。 
2015年7月 原口さんが鹿児島地裁に第3次再審請求 。 
2017年6月 鹿児島地裁が原口さんと元夫の再審開始を決定 
2017年7月 鹿児島地検が即時抗告 。 
2018年3月 福岡高裁宮崎支部が鹿児島地裁決定を支持し、即時抗告を棄却 。 
 
 
 日本の再審について詳しい人は、このような再審請求人とそれに対する検察とのやりとりを「当たり前のことだ」と思っていることだろう。しかし、これは当たり前のことではない。再審制度は無辜(むこ)の民を救済のためにある制度なのだ。日本では、検察に、抗告する権利があるので、このような制度と矛盾するやりとりが当たり前になってしまっている。しかし、公益の代表者である検察官が抗告を繰り返すのは憲法違反である。日本の検察官には「公益の代表者である」という自覚がない。このような現状を改善するには、検察から抗告権をはく奪するしかない。 
 
 
 福岡高検が期限の19日までに特別抗告すれば審理は最高裁に移るが、断念すれば同地裁で再審が始まる。弁護団は12日、原口さんが高齢であることも踏まえ、特別抗告しないよう検察側に申し入れた。 
 
 今回の、福岡高裁宮崎支部決定を、原口アヤ子さんは入院先の県内の病院で報告を受けて「ありがとう」と声を絞り出したという。弁護団や支援者は「原口さんをこれ以上苦しめないで、すぐに再審を」と訴えている。 
 
 検察は、「公益の代表者である」という自覚をもち、再審制度の存在意義を再認識し、特別抗告をするな。ただちに再審を開始せよ。 


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