2018年03月24日07時49分掲載  無料記事
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検証・メディア

NHK局員は「下」に威張るのでなく、「上」にもの言える精神を  「高貴な存在には義務がある」(noblesse oblige)

  NHKの放送局員が「高貴」な存在かどうかはわからない。だが、少なくとも庶民の3〜4倍の年収を得ていると思われ、さらに社会的地位も高いとみなされることが普通である。つまり、社会のエリート階級と言ってよい。だからこそ「皆さまのNHK」の放送局員には社会で起きている不正に対して身を挺して闘う精神が求められている。ところが過去5年間、NHKは安倍チャンネルと揶揄されるほど、政府権力にべったりの放送局だった。現在もそうである。そして、NHKの幹部が言う言葉を下々のプロデューサーたちが口をそろえて同じことを彼らの下層に位置付けられるディレクターや出入りしている制作会社に唱えてきた。まるで自分の昔ながらの哲学であるかのように、だ。こうした人々は幹部が変わって方針が変われば昨日までとはコロッと言動を変えることができるだろう。 
 
  かつて貴族社会だったフランスには「ノブレス・オブリージュ」(noblesse oblige)という言葉があった。直訳すれば「高貴な存在には義務がある」という意味である。高貴であることの意味は人々に先立って危険な任務を担うことであり、戦争においては自ら最前線に立つことを意味した。と同時に戦争だけでなく、様々な意味でリスクを一番引き受けることを意味した。だからこそ、高貴だったのである。第一次大戦で英国の貴族の子弟たちもオックスフォード大学やケンブリッジ大学から出陣し多くが戦死したが、これも同じ精神だった。 
 
  ところが、今日の放送局は危険な仕事は不安定で低賃金の外部プロダクションに外注するだけである。多くの場合、予算すらつけずいいものが撮れたら低価格で買いとる、という方法だ。もし撮影がはかどらなかったらすべては外部プロダクションの赤字となる。責任は徹底的に回避する。 
 
  そればかりではない。プロデューサーたちの本来の仕事は制作現場のために自由の領域を作ることにある。自由に取材ができ、自由に権力を批判できる領域を確保し、広げていくことにある。それがプロデューサーの第一の使命である。ところが、何を勘違いしたのか、今日ではNHKのプロデューサーたちは制作会社が納品する番組の箸の上げ下ろしのような細かい編集に注文を過剰につける反面、権力からの圧力に対してまったく抗する精神が乏しい。上司から「これからこういう方針で行くぞ」と言われたら、深く考えることもせず、それを自分の言葉にして拡散するだけだ。プロデューサーの仕事は放棄し、自分がディレクターになっているのである。このような権力志向の人々は下に位置する人々を睥睨することはあっても、上の権力者に逆らことはしない。日本国憲法の精神から遠く離れている。 
 
  中にはそうでない「高貴な」人も稀に存在する。だが、多くは権力べったりである。あるいは内心苦々しく思っていたとしても自らリスクを取って立ち上がる人は稀だ。上司に睨まれたら制作現場から外されることもあるだろう。上にへつらい、下に居丈高になる、そうしたメンタリティの局員が大半である。そして外郭団体に出向しても同じことを繰り返す。こうした勇気のない人材ばかりではろくな番組が作れるはずもない。NHKの番組を多数見ればわかるだろうが、このところ価値観の画一化が相当に進んでいる。上の権力者の顔色ばかり見て番組を作っているからどれだけ多彩なチャンネルや企画を立ち上げようと不可避的に似てしまうのだ。そして、狭い井戸の中にいるとそのことにも無自覚になってしまう。NHK局員には「下」に威張るのでなく、「上」にもの言える精神が求められている。NHKが「安倍チャンネル」になり果てたのだとしたら、その土壌をまず改める必要がある。思想や表現の自由を守るという事は安倍政権から独立する、ということに留まることではない。 
 
 
武者小路龍児 
 
 
■6年前の醍醐聡東大名誉教授のブログを転載 「原発問題で政治的発言を繰り返すNHK経営委員・石原進氏(JR九州会長)は罷免が当然」 現在、石原氏はNHK経営委員長 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201803212236043 
 
■NHKの安倍べったり記者・岩田明子氏は今、どのような発言をしているのか TVをご覧になった方は教えてください 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201803222121104 
 
■元NHKアナウンサー、自民党・和田政宗議員の質問「安倍政権を貶めるために、意図的に変な答弁をしてるんじゃないですか」 自民党広報副本部長で日本会議メンバー 
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