2018年03月26日11時28分掲載  無料記事
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検証・メディア

NHKが再生できるかどうかは、安倍政権下の重要事件を一から独自検証できるかにかかっている  「川内原発はいかに再稼働されたのか」の検証番組を 

  九州の川内原発は日本全国に51基ある原発の中で全国で最も早く再稼働を行った。川内原発は熊本地震の際に稼働中止の要請がなされたように、活断層が周囲にある可能性が地質学者から指摘されている。一つ間違えると再び福島第一原発事故のような事態を招く可能性もある。ではこのように原発再稼働に対する地域住民の根強い不安と疑問がある中、なぜ川内原発が最初に再稼働されたのだろうか。 
 
  少し基本事項を振り返ってみたい。 
 
  鹿児島県薩摩川内市にある川内原子力発電所は九州電力が営んでいるが、2011年3月11日の福島第一原発事故を受けて稼働を中止し、新しい規制基準に基づく審査を経て2015年8月から9月にかけて2基が再稼働した。この時、周辺住民が原発の運転差し止めを求める訴訟と仮処分申し立てたが、仮処分については2016年4月6日に福岡高等裁判所宮崎支部により却下された。 
 
  「2016年7月10日、鹿児島知事選で原発をいったん停止し再検査をすることを公約とした三反園訓(みたぞのさとし)が現職の伊藤祐一郎を破り初当選し、九州電力に対し即時停止を二度要請したが、その後、10月6日より定期検査に入った1号機に対し、自らに原発を稼働させるか稼働させないかの権限はないとした上で、再稼働を容認する姿勢に転じ、1号機は同年12月8日に再び運転を再開した」(ウィキペディア) 
 
  三反園訓知事が10月6日に発言した「自らに原発を稼働させるか稼働させないかの権限はない」という言葉はどういう意味なのか。そこに至るまでの三反園訓氏の言動と思考はどのような経緯だったのか。まずそのことを知りたくないだろうか。九州電力や政府、そして政治家との関係である。 
 
  だが、それ以上にNHKがこの問題を報じるべき理由は現職の最高幹部、NHK経営委員長である石原進氏がこの件で深く関係していることだ。以下は赤旗の2014年7月27日の記事である。九州の財界と政界の関係をスクープした記事だ。石原進NHK経営委員長の出身がJR九州であり、経営委員長に選ばれた時点で改憲運動の源である日本会議福岡の名誉顧問だったことは知る人ぞ知ることだ。そして、石原氏はさらに圧力団体である「原子力国民会議」の共同代表でもあり、同時にNHK経営委員の立場でもあったのだ。石原氏は「原発再稼働をしなければ日本の産業は死ぬ」「長期にわたって一定程度の原子力比率を維持する必要がある」「(原発がなくなったら)電気料金は最大2倍になると見込まれ、国内産業が立ちゆかなくなる」などとNHK経営委員の立場でもあったが熱烈に訴え続けていた。さらに川内原発再稼働のために九州の料亭で安倍首相と会食までしていたと報じられている。以下が赤旗の記事である。 
 
「麻生副総理に原発マネー 九電と関係の深い企業から3年間で献金192万円」(赤旗 2014年7月27日付け) 
 
「泰氏は、18日夜には、貫正義(ぬきまさよし)九電会長、石原進JR九州相談役らとともに、福岡市を訪れた安倍首相と博多の料亭で会食、川内原発の早期再稼働を要請、首相から『川内はなんとかしますよ』という“答弁”を引き出しています。」 
 
 記事によると、福島第一原発事故の後、日本最初の原発再稼働を決めたのは石原進NHK経営委員ら九州の財界人と安倍首相だったらしい。そして、この石原氏は2016年6月にNHKの経営委員長に上り詰めるのだが、その際に、自民党関係者がNHK経営委員に石原氏を推薦するように圧力をかけたとの報道もあるのだ。安倍政権は川内原発再稼働を皮切りに全国的に再稼働を進めていこうとした。それは石原進氏の持論でもあった。石原進氏がNHK経営委員長になったのが2016年6月だが、それから4か月後に再稼働を容認すると解釈できる新知事の新判断があり、6か月後に川内原発の運転が再開された。 
 
  九州における原発推進勢力の要だった石原氏が川内原発再稼働の直前にNHKの経営陣のトップに就いたのは果たして偶然だろうか。原発再稼働に対する世論を誘導した可能性があったか、なかったのか、である。もちろん、これは結論を急がず、慎重に検証する必要がある。 
  とはいえ今月、佐賀県の玄海原発も再稼働されたが、九州は原発再稼働の切り込み部隊になっているかのごときだ。だとしたらなぜ九州なのか。報道によれば石原進氏は「玄海原発は地盤も日本で一番安全。これがダメだったら、どこで原子力発電をするのかという話になりかねない」とNHK経営委員だった当時、語っていた。九州は麻生副首相の地盤でもある。 
 
  NHKの中で2016年12月の川内原発の再稼働をめぐるどのような番組企画が当時存在し、実際に企画が通って放送されたのはどのようなものだったのか。NHKが再生するためにはこのNHK内部における調査検証がまず必要ではないだろうか。というのもNHKの最高幹部が九州の最高レベルにおける原発の利害関係者だからだ。そしてまた、2016年にNHK経営委員に石原進氏を経営委員長に推薦するように圧力をかけた自民党関係者とは誰なのか。これらは国会で証人喚問や参考人質疑を行って明らかにすべきことだ。 
 
  「NHK経営委員会の石原進委員長(JR九州相談役)は12日、最高裁判決で受信料制度を合憲とする初判断が示されたことについて『(NHKが)契約収納活動をやりやすくなったからどんどんやるという印象を絶対に持たれてはいけない。公共放送について分かっていただいたうえで受信料を払ってもらうことが大事だ』との見解を述べた。」「石原委員長は『受信料契約の法的義務が明確にされたのは、NHKにとって大変ありがたいこと』とも述べた。」(毎日) 
 
  NHKは公共放送なのか、安倍チャンネルなのか。そこがまさに問われている。かつてNHK経営委員であり、そして現在のNHK経営委員長としての石原進氏が原発再稼働にどのような働きかけを安倍政権に行ったのか。石原氏は未だNHK経営委員だった時代に「政府が右と言うものを左と言うわけにはいかない」と発言した籾井勝人氏をNHK会長に推薦した人物としても知られる。こう見れば少なくとも戦後の戦争への反省に立って真摯に番組を作ってきたNHKを安倍政権寄りのチャンネルへと激変させた中心人物こそ石原進氏と言っても過言ではないだろう。 
 
  こうした石原氏の言動がNHKの局員たちに忖度も含めて、川内原発再稼働をめぐる報道や熊本地震の報道に何らかの具体的影響がなかったかどうか。石原氏がNHK経営委員長に就任した頃、ほぼ時期を同じくして外部プロダクションが多数ドキュメンタリー番組を制作しているBS1に新しい編集長が就任し、番組企画の採択の基準が激変したことはここに指摘しておきたい。「もう構造を描く番組はいらない」「面白いシーンがあればそれだけでいい」「インテリの言葉はいらない」・・・NHKや関連組織のプロデューサーたちは一斉にこんな風に述べ始めた。こうしてジャーナリズム的な番組の企画が採択されることが2016年夏以後、BS1では相当に難しくなってしまったのだ。構造を描かないジャーナリズムはあり得ない。そもそもそうした番組枠自体が潰されてしまったのである。さらに以前に比べてはるかに予算と時間を自前でかけて予備調査をしていなければ企画が採択されなくなった。このように採択基準の方針が変化したという通達は関連組織にも徹底していた。それまでNHKでは地上波のニュースは内閣に実質的にコントロールされていたが、BS1のドキュメンタリー番組にはかなり自由が残されていた。ところが石原進氏がNHK経営委員長に就任してからはBS1も統制されてしまったわけだ。 
 
  石原氏が九州でしていたことは政治学の世界では「ロビイ活動」と呼ばれる。産業界の利益を代表する人物が政治家にある要求をすることだ。NHKの受信料の徴収が最高裁判所によって法的に義務づけられたのであれば、NHKの報道の公共性が国民の重要な関心事となるのは当然のことだ。このような産業界の政治ロビイ活動家がNHKの経営委員長として適任かどうかということである。 
 
 
 
 
■社説  三反園知事 看過できない変節ぶり(毎日) 
 三反園氏は脱原発を掲げて鹿児島県知事に当選したがあっさり、白旗を掲げたため、鹿児島県が全国初の原発が再稼働した自治体となった。 
http://mainichi.jp/articles/20161211/ddm/005/070/012000c 
 「知事は就任直後、稼働中だった川内1、2号機の即時停止を2度にわたって九電に要請した。4月に起きた熊本地震で、県民の不安が高まったことが背景にある。原発事故に備えた周辺住民の避難計画を見直す意向も示していた。 
  一方、要請を受けた九電は、川内原発について、定期検査期間を中心に、法定の検査に加え熊本地震の影響を調べる特別点検も実施することを決めたが、即時停止は拒否した。 
 すると、知事は「仮にどういう対応をとろうが、九電は稼働するのではないか」などと、弱腰の発言を繰り返すようになった。 
 知事に原発を停止する法的な権限がないことは、最初から分かっていたことだ。だからこそ、県独自の検討委員会を早急に設置して原発の安全性や避難計画を検証し、浮かび上がった問題点を九電や政府に問うていく必要があったはずだ。」 
 
  川内原発再稼働前の2014年7月、九州電力の貫正義会長はJR九州相談役(5月までは取締役会長だった)の石原進氏とともに博多を訪れた安倍首相と高級料亭で会食し、川内原発再稼働の約束をもらったと報じられた財界人だ。石原氏は会食当時、すでにNHK経営委員でもあった。こうしたエネルギー産業界と濃密な利害関係にあったJR九州の石原進氏がNHK経営委員長に就任した場合、原発やエネルギーに関する調査報道がいったいどこまで可能なのだろうか。言うまでもないが電車を走らせているJRにとって電力会社は重要な取引先だ。 
 
■東日本大震災7年 揺らぐ原発再稼働 安全対策、高コスト(毎日) 
https://mainichi.jp/articles/20180311/ddm/008/040/143000c 
 全国の原発の再稼働・審査状況が一覧になっている。 
 
■原発問題で政治的発言を繰り返すNHK経営委員・石原進氏(JR九州会長)は罷免が当然 (2012年12月1日 醍醐聡東大名誉教授によるちきゅう座への寄稿) 
http://chikyuza.net/archives/28617 
 醍醐氏が新聞記事を切り抜いた中に、石原進NHK経営委員(当時)による以下のようなバリバリの政治的発言がある。 
 「原発を全廃すれば日本の産業は死ぬ」「電気料金は最大2倍になると見込まれ、国内産業が立ちゆかなくなる」 
「長期にわたって一定程度の原子力比率を維持する必要がある」「代替エネルギーで原子力を補うには相当な時間が必要。国、県、九電で徹底的に安全問題を詰め、安全を確認した上で原子力を活用すべきだ」 
「玄海原発は地盤も日本で一番安全。これがダメだったら、どこで原子力発電をするのかという話になりかねない」 
 
■「福島の教訓が…愚行だ」住民ら抗議 玄海原発再稼働(朝日) 
https://www.asahi.com/articles/ASL3R2SQHL3RTIPE009.html 
 
■6年前の醍醐聡東大名誉教授のブログを転載 「原発問題で政治的発言を繰り返すNHK経営委員・石原進氏(JR九州会長)は罷免が当然」 現在、石原氏はNHK経営委員長 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201803212236043 


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