2018年04月22日11時38分掲載  無料記事
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国際

対朝鮮政策で対米協調見直し 中国、台湾カードに猛反発

岡田充『海峡両岸論 第89号』 http://www.21ccs.jp/ryougan_okada/ryougan_91.html 
 
 北朝鮮の核・ミサイル開発問題をめぐり、中国の習近平政権が進めてきたトランプ政権との対米協調路線を見直し始めた。習政権に近い中国の有力学者が明らかにした。 
 南北首脳会談と米朝首脳会談の設定に続き、金正恩・労働党委員長は関係が悪化してきた中国を電撃訪問した。金のロシア訪問の可能性もささやかれており、朝鮮半島情勢は南北コリアと米中ロによる国益と思惑が交差するパワーゲームの様相を呈してきた。 
 安倍晋三首相は今月17,18の両日訪米するが、対話機運が高まる中「圧力」一辺倒の日本は次第に埒外に置かれようとしている。 
 
<協調路線主唱した有力学者> 
 
 朝鮮半島情勢で最も注目されるのは、軍事攻撃をちらつかせるトランプ政権の出方と、地域での影響力を強める中国の姿勢である。 
 その中国は昨年から、朝鮮半島有事の場合は米国との軍事協力を進め、人民解放軍が中朝国境を超え、北の核を中国の管理下に置くシナリオを描いて世界中から注目を浴びた。 
 習政権で、こうした米中協調シナリオを主唱した中国の有力学者が、その路線からの転換を強く示唆したのだ。 
 
 3月30〜31の両日、東京で開かれた日米中韓豪5か国の学者、元日本政府官僚、ジャーナリストによる非公開研究会「米中関係の中で考える日中関係」(主催 新外交イニシアチブ=ND)で賈慶国・北京大学国際関係学院院長がこう発言した。 
「トランプ政権が台湾問題で中国を挑発し続けるなら、朝鮮問題に対する中国の態度の大きな変更を招くかもしれない」。 
 賈は中国の米国研究の第一人者。習指導部の対米政策を下支えする役割を担っている人物であり、発言の意味は小さくない。彼は筆者の求めに応じ発言の直接引用を快諾しており、金訪中と中朝関係改善を受け、中国指導部が政策転換していることを内外に印象付ける意図を感じた。特に、トランプ政権に対する警告の意味とともに、中米協調路線に反対し「中朝の伝統的血盟関係」を主張する党・政府内の「左派」に向けたエクスキューズでもあろう。 
 
<台湾は取引材料ではない> 
 
 「台湾問題での挑発」とは何か。 
 トランプは3月16日、1979年の米中国交樹立以来、歴代米政権が禁じていた米国と台湾の閣僚や高官の相互訪問を認め、米台関係強化を図る「台湾旅行法案」に署名・成立させたことを指す。 
 
 会議に参加した米中の核問題専門家グレゴリー・カラツキ―氏(米「憂慮する科学者同盟」上級アナリスト)は、東アジア情勢が緊迫している際の対中姿勢について「彼は知識のない無知な弱い大統領」と表現し、中国をこれほど刺激するとは思ってもなかったのではないかとみる。後先を考えずに思い付きで決めるトランプらしい行動だというのだ。 
 台湾問題は、北京にとり武力を行使しても分裂を阻止しなければならない「核心利益」であり、「取引材料」(バーゲニング・チップ)にはならない。まだ誤解する向きがあるが、東シナ海や南シナ海などの領土問題や、関税賦課などは、「棚上げ」が可能な取引材料になり得る。核心利益ではないのだ。 
 「台湾旅行法への中国の怒りは伝わっていない」と賈に問うと、「自制的姿勢を保持しているからだ」という答えが戻ってきた。 
 
<「安定」より「非核」を優先> 
 
 中国の政策「転換」の背景を少し長いが賈の説明から引用する。 
 彼は昨年9月中旬、オーストラリア英文サイトに書いた「北朝鮮の最悪の事態に備える時」で 
 )鳴鮮緊急事態の対応について中国は米韓との協議を始めるべき 
◆|羚颪北の核管理を担っても、米国は核不拡散の観点から反対しない 
 北朝鮮国内の秩序回復のための米軍の進駐に中国は反対 
―などと、中国による北の核管理を含む踏み込んだ政策転換を主張した。 
 賈がこれを発表すると、「左派」から強い批判の声が上がった 
 米朝協調の背景について賈は、北の核実験は「中国の安全保障にとって脅威になった」と強調、「北朝鮮への支援と圧力をどのようにするかがわれわれの課題になった」と振り返える。 
 さらに核問題に対する優先順位は、かつての“^堕蝓↓非核、J刃存鮠弔砲茲覯魴茵匹ら““鶻法↓安定、J刃妥交渉”に変化したと解説した。昨年9月の国連安全保障理事会での北への厳しい制裁に中国が賛成したのも、そうした変化が背景だという。 
 
 米中協調に舵を切った習政権に対し、北朝鮮は昨年5月から、国営通信社を通じ中国への名指し批判を開始した。文化大革命以来のことだ。 
 一方、習近平は9月9日の北朝鮮建国記念日に祝電を送らなかった。11月には習近平特使を平壌に派遣したが、金は会おうともしなかった。中朝関係を「血盟」と呼んだ関係は、完全に冷え切った。金の対応が一変したのは3月初め、南北首脳会談と米朝首脳会談の開催で合意した直後からである。 
 
<中心的役割果たしたい> 
 
 一方、賈は対米協調政策について「米国の言うことに何でも従うわけではない」とし、「核実験と米韓軍事演習の中断という『二つの中断』(双暫停)を提案したが、米国から無視された」と不満をあらわにした。 
 ボルトンなどタカ派起用によって変数が増えたことも挙げながら、金訪中の意図については 
(1)米朝首脳会談でより良い取引材料を得るために中国の協力必要 
(2)米中関係が不安定化する中、中国の制裁緩和に期待 
―を挙げた。 
 
 中国側が電撃的な首脳会談を受け入れた要因としては 
(1)関税引き上げや台湾問題、南シナ海問題で米国は中国に敵対する措置を打ち出しており、中国は近隣諸国との関係強化の必要がでてきた 
(2)中国が埒外に置かれているとの印象は与えたくなく、自国利益のためにも中心的役割を演じたい 
―と語った。 
 北は中国という後ろ盾を確保すること。中国は、「局外」に置かるとの焦りを強め、関係修復を急いだのだ。賈は中米協調の見直しがどのような政策変更につながるかは明らかにはしなかったが、中国の艦船や軍用機が、台湾周辺で頻繁に演習を繰り返す可能性は否定しなかった。 
 
 核・ミサイル問題の解決策については中朝の主張の共通点は、米中のそれより多いことを認識すべきであろう。 
 中朝は「連携強化」によって、従来からの共通の主張である 
(1)休戦協定を平和協定に転換 
(2)米朝、日朝国交正常化による体制保証 
―を一致して米国に要求することになるだろう。 
 核問題については、保有を事実上認める含みがある「凍結」路線でもある。 
 
<ウラジオでロ朝首脳会談も> 
 
 今後の外交展開について、上海日本学会の呉奇南会長が 
「4月17,18の日米首脳会談前にも、金氏がウラジオストクに赴きプーチン大統領とロ朝首脳会談を開く可能性がある」と指摘。 
 賈教授も「可能性は極めて高い」と賛同した。 
 さらに賈は「金が核開発を諦めるかどうかは分からない」としつつ、金は米中のどちらを採るかと問われれば、中国を採るだろう」と述べ、米朝首脳会談を含め、今後の外交駆け引きで中朝協調が進む見通しを明らかにした。 
 北朝鮮の核問題をはじめ、対話の開始や平和定着の方法については、中ロ韓朝の主張は共通点が多く、中国が朝鮮政策を見直すことで、パワーゲームは「中ロ朝韓vs日米」という冷戦終結前に構図に戻る印象を与えるかもしれない。そこには「思い付き」で対応するトランプと、これに追従する日本を孤立に追い込むという読みもあるだろう。 
 
<「段階措置」、「核の傘」放棄を要求か> 
 
 この会議では、核問題の処理にも熱い議論が展開された。 
 賈は「北が開発すれば(日韓などへの)拡散につながるから、中国の利益にならない」と述べる一方、米国の核政策は「イスラエルの核保有を認めるなどダブルスタンダード」と批判する。 
 
 また、文在寅韓国大統領と近い李起豪・韓信大教授は「日米は、北は約束を守らず交渉を時間稼ぎに利用していると批判するが、北から見れば重油提供を渋るなど、約束を破っているのは米韓側と映っている」と指摘した。 
 
 また賈も「核凍結が出発点だが、交渉によっては核開発再開の可能性は否定できない」と述べ、問題の長期化と粘り強い忍耐力が必要という姿勢で参加者は一致した。日本は「核放棄実現」を掲げているが、無いものねだり。米国も韓国も最終的には「凍結」に同意せざるを得ないだろう。 
 中朝首脳会談で、金委員長が米国と韓国に「段階的な措置」を求めて「朝鮮半島の非核化」に初めて言及した意味について、米国と日本側から「北はいずれ、米国による日韓への拡大抑止力(核の傘)や核非拡散体制(NPT)による5大国の核独占と連動させ、東アジア全体の非核化を主張してくる可能性が高い」という見方も出た。そうなれば、単に北の核放棄を主張していれば済む話ではない。日本も対応を迫られる「当事者」になる。 
 
<南北コリアが初の主役に> 
 
 日本の役割について李起豪教授は「安倍首相は保守のプリンスだからこそ、保守派を説得しイニシアチブをとれるはず」と指摘。 
 
 カラツキ―氏は「被爆国としてやるべきことはたくさんある。しかし、これまで米国の先制核使用を放棄しないよう米国に繰り返し説得してきたのは日本外務省だった」と明らかにした。 
 
 さらに朱建栄・東洋学園大教授は、日中関係の歴史を振り返りながら、「トランプの登場が、対立を続けた日中双方に協力の新思考をうんだ」と指摘し、北朝鮮核問題と安全保障分野での日中協力を訴えた。 
 このほか、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長が平壌を訪問し、金委員長と会談したことに関し、李起豪教授は「今回の対話はピョンチャン五輪が契機だった。2030年雄冬季五輪を平壌で開き、韓国、中国、日本が共催してはどうか」という提案が注目された。 
 ピョンチャン五輪の役割を軽視してはならない。膠着状態に風穴を開けたのは、中国でもなければロシアでもなかった。「何としても戦争だけは防ぐ」として、トランプの軍事行動に協力しない姿勢を鮮明にした文在寅・韓国大統領、それにこのイニシアチブに金正恩が乗った「南北協力」の成果である。朝鮮半島の近・現代史で、「南北コリア」が主役として、状況打開に取り組む初ケースでもある。 
 
 米朝首脳会談が本当に実現するかどうか、多くの変数がある。しかし、米朝の歴史的和解が実現すれば、大国間の利益の草刈り場になってきた朝鮮半島で、「南北コリア」という新主役による初の外交成果になる。 
 
<日本が果たすべき役割> 
 
 朝鮮問題の主役は、かつてのロシアと日本から米中に交代した。 
 2002年の小泉訪朝と国交正常化をうたった「平壌宣言」までは、日本は朝鮮問題でイニシアチブがとれる有力プレイヤーだった。 
 しかし、安倍が「アメリカと100%共にある」と強調すればするほど、トランプ政権の付属物でしかない現実を思い知らされる。そのトランプが国際的信用を失墜していることを考えればなおさらだ。日本は「脇役」ですらなくなる。 
 米朝間で核問題や体制保証の話し合いが進めば、必ずテーブルに乗る議題が日朝関係正常化と「賠償」を含む対北朝鮮への経済協力である。「安倍政権に独自外交を期待するのは無理」という声は強いが、決してそうは思わない。南北、米朝首脳会談で、半島非核化が議題に上れば必ず、日朝国交正常化圧力が加わる。正常化するには200−500億ドルといわれる補償(経済支援)を覚悟しなければならない。 
 日本は、北朝鮮と植民地支配という「帝国の負債」の清算が済んでいない。今からでも遅くない、北朝鮮と関係正常化を進め、負債の清算と同時に、東アジアの平和構築に積極関与すべきだ。平和構築という主要課題のために関係正常化と経済支援を優先すること。拉致問題は副次的課題にする決断しなければならない。(一部敬称略) 
〔『21世紀中国総研』ウェブサイト内・岡田充『海峡両岸論 第89号』(2018.4.6発行)転載〕 
 
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<執筆者プロフィール> 
岡田 充(おかだ たかし) 
(略歴) 
1972年慶応大学法学部卒業後、共同通信社に入社。 
香港、モスクワ、台北各支局長、編集委員、論説委員を経て2008年から共同通信客員論説委員 
桜美林大非常勤講師、拓殖大客員教授、法政大兼任講師を歴任。 
(主要著作) 
『中国と台湾―対立と共存の両岸関係』(講談社現代新書)2003年2月 


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