2018年05月18日20時03分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201805182003415

みる・よむ・きく

「タクシー運転手 〜約束は海を越えて〜」

 「1980年5月。韓国現代史上、最大の悲劇となった光州事件― 
あの日、真実を追い求めたひとりのドイツ人記者と彼を乗せたタクシー運転手がいた。」(映画紹介サイトより)陸軍の保安司令官だった全斗煥が起こした1979年のクーデターと、それに続く金大中ら野党政治家らの逮捕に憤った学生や市民が1980年5月にソウルで抗議デモを行っていたが、デモは全国に拡大した。光州事件はこの時、全斗煥率いる軍部が戒厳令のもと光州市民を徹底弾圧した事件だ。学生たちは戒厳令を解除と民主化への改憲を求めていた。しかし、軍の部隊の投入で、数百人の死者・負傷者を出す惨劇となった。 
 
  昨年韓国で1200万人を動員したこの史実に基づく映画「タクシー運転手 〜約束は海を越えて〜」が日本で上映されている。名優ソン・ガンホが光州事件を取材するドイツ人記者をタクシーで案内する運転手を演じる。映画の予告編は下のリンクだ。 
https://www.youtube.com/watch?v=uDy9Bd08CH4&feature=youtu.be 
【あらすじ】 
 
 「ソウルのタクシー運転手マンソプは『通行禁止時間までに光州に行ったら大金を支払う』という言葉につられ、ドイツ人記者ピーターを乗せて英語も分からぬまま一路、光州を目指す。何としてもタクシー代を受け取りたいマンソプは機転を利かせて検問を切り抜け、時間ぎりぎりで光州に入る。“危険だからソウルに戻ろう”というマンソプの言葉に耳を貸さず、ピーターは大学生のジェシクとファン運転手の助けを借り、撮影を始める。しかし状況は徐々に悪化。マンソプは1人で留守番させている11歳の娘が気になり、ますます焦るのだが…。」 
 
  このドラマが外国人ジャーナリストを案内するタクシー運転手を主人公にしているように、光州事件は軍部が戒厳令下で情報統制を敷いたため、韓国国内では正しく報じられなかったらしい。筆者は当時、高校生だったがこの事件を知ったのは教育実習に来た大学生の社会科の実習の時だった。隣国でそんなことが起きているとはあまりにも衝撃的だった。 
 
  この映画を見た在日韓国人に感想を聞いてみると、この映画は多くの観客が見やすいように作られているが、実際の歴史はもっと過酷なものだったらしい。だが、それでもこうした映画が製作され、公開できたのは大統領がリベラル派の文在寅だったからと韓国では言われているそうだ。韓国では全斗煥が失脚し、民主政権が出来たのちも当分の間、光州事件について国民が知る機会はあまりなかったらしく、軍による情報統制が続いていたようだ。1995年に「砂時計」( モレシゲ)という連続テレビドラマの中に光州事件も描かれたことが大きな一歩となったという。 
 
  1970年代から1980年代の韓国は常に学生や労働者のデモが行われていたかと思えるくらい、そうしたニュースをよく見た。その当時は不幸な国に思えたのだったが、30〜40年経ってみると民主化闘争を続けてきた韓国に日本にはないたくましい民主主義の力が育っていることを知る。 
 
 
 
■『タクシー運転手』キム・サボク氏の長男「本当の父の姿を知らせたい」 
http://japan.hani.co.kr/arti/politics/30571.html 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。