2018年06月17日20時48分掲載  無料記事
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検証・メディア

マスメディアは朝鮮半島の非核化と東アジアの平和に向けた流れを止めるな  Bark at Illusions

 毎年春と夏に行われている米韓合同軍事演習は、米朝首脳会談後に会見したドナルド・トランプ大統領の意向を受けて、現在中止する方向で調整が進められている。軍事演習が中止されれば、朝鮮半島の非核化と東アジアの平和に向けてのさらなる一歩になる。しかしマスメディアからは、「譲歩しすぎだ」と言う批判の声や、安全保障への影響を危惧する声が聞かれる。 
 
例えば、NHKは、 
 
「トランプ大統領は米韓合同軍事演習を止めることを検討するという発言を、今日記者会見の中でしました。……少し譲歩をしすぎたんじゃないかなと言う感じも致します」(NHKワシントン支局長・田中正良 ニュースウォッチ9 18/6/12)、 
 
「北朝鮮が繰り返し求めてきたこの軍事演習を中止する可能性について、トランプ大統領が言及しました。非核化の道筋さえまだ見えない段階で、早くも見返りを与えるのか」(キャスター・有馬嘉男 ニュースウォッチ9 18/6/14) 
 
 と、朝鮮の非核化に向けた具体的な方策が決まる前に軍事演習を中止することに疑問を呈している。 
 
 しかし米韓合同軍事演習は、朝鮮を侵略する訓練や朝鮮政府指導者の暗殺、先制核攻撃などを想定した非常に攻撃的なもので、武力による威嚇を禁じた国連憲章や、「全ての敵対行為の完全な停止」を求めた朝鮮戦争の休戦協定に違反している。これから「新たな米朝関係の構築」(米朝首脳会談共同声明)をするにあたって、合衆国がまず国際法や協定に従うのは当然ではないだろうか。 
 
 また、朝日新聞(18/6/14)は、 
 
「非核化の確証が得られないなか、米政府のこれまでの方針を転換して正恩氏の要求に応じた。8月の米韓合同演習が中止になる可能性もあるが、東アジアの安全保障にかかわる問題だけに日本でも波紋が広がっている」 
 
 と安全保障への懸念を伝え、米韓合同軍事演習について、 
 
「朝鮮半島の有事に備え、また北朝鮮の軍事的挑発を抑止するため、毎年春と夏に行われる」 
 
 と説明しているが、事実はこれとは逆に、合衆国が軍事演習を実施すると、朝鮮側も対抗措置としてミサイル実験や核実験を実施するなど何らかの「軍事的挑発」を行い、朝鮮半島の緊張を高めてきた。「東アジアの安全保障」が、東アジアに住む人々の平和や安全を守ることを意味するなら、むしろ米韓合同軍事演習は止める方が地域のためになる。 
 
 これまで朝鮮政府が米韓合同軍事演習を中止すれば核実験やミサイル実験を中止すると繰り返し提案してきたことや、「安全が保証され、軍事的な脅威が解消されるならば、核を保有する理由がない」とキム・ジョンウン朝鮮労働党委員長が韓国のムン・ジェイン大統領との会談で語っていることからも、朝鮮にとって脅威となっている侵略的な米韓合同軍事演習の中止は朝鮮政府が非核化に向けて行動するための最低条件であり、トランプが約束通り軍事演習を中止すれば朝鮮半島の非核化に向けた第一歩となる。パリ協定やイラン核合意からの離脱、対パレスチナ・イスラエル政策、移民政策など、トランプ政権の政策は問題があるものばかりだが、今回の決断に関してはトランプが正しい。 
 問題は、果たして合衆国政府が合意を本当に守るかどうかだ。マスメディアは朝鮮が合意を反故にしてきたとか、国際社会を裏切ってきたというフェィクニュース(嘘のニュース)を流し続けているけれども、歴史を振り返れば、先に合意を破ったのはいつも合衆国だった。(日刊ベリタ18/3/12) 
 米朝首脳会談の共同声明や米韓合同軍事演習を中止する方針については合衆国でも日本のマスメディアと同様の批判の声が上がっており、今後合衆国国内やトランプ政権内部で対朝鮮強硬派の巻き返しがあるかもしれない。その場合、トランプにキム・ジョンウンとの約束を守らせるうえで、東アジアの安全保障に直接かかわる日本の世論も重要になってくる。マスメディアは本格的に動き出した朝鮮半島の非核化と東アジアの平和への流れを逆行させるようなミスリードはやめるべきだ。 


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