2018年07月28日10時18分掲載  無料記事
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司法

「少年法の適用年齢は現行法のままとし、引き下げないことが相当と考えます」〜被害者と司法を考える会が法制審議会及び最高裁に要望書を提出

 法制審議会及び最高裁に要請行動を行った「被害者と司法を考える会」(代表:片山徒有氏)の会見が、7月24日(火)に司法記者クラブで開かれた。 
 要請内容は、2017年3月以降、法制審議会少年法・刑事法部会で審議されている「少年法適用年齢の引き下げ」問題に対し、引き下げに反対するものである。 
 
 “選挙権付与”や民法における“成年年齢の引き下げ”(2022年4月実施)が制定されている中、世間的には「少年法などという悪法の適用年齢は、当然、18歳に引き下げるべきだ」といった考え方が強い面がある。 
 しかし、世情イメージとは全く異なり、少年非行はこの30年間、総数としても凶悪非行数としても、少年人口の減少率以上に減少の一途を辿っているのが現実である。 
 そこで、被害者と司法を考える会は、「現行少年法による少年非行対策は、世界的に見ても極めて効果的であり、少年法の適用範囲を狭める法改正は不要であり、適用年齢の引き下げは、むしろ社会における若年犯罪の増加を加速させる危険性がある」と指摘する。 
 
 要請内容の詳細は、以下の『要望書』のとおりであるが、被害者遺族でもある片山氏の「被害者救済のためには、加害者への教育的措置等の充実による更生と内省が必須」という主張は、感情・葛藤を乗り越え、フェイクではない客観的事実に基づく一人の被害者遺族の真摯な姿勢を反映したもので、感銘を受けるものであった。(伊藤一二三) 
 
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2018年7月24日 
法務大臣 上川陽子 殿 
法制審議会会長 井上正仁 殿 
少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会長 井上正仁 殿 
 
『要 望 書』 
 
被害者と司法を考える会(代表 片山徒有) 
 
(要望主旨) 
 少年法の適用年齢は現行法のままとし、引き下げないことが相当と考えます。 
 青少年が非行ないし犯罪を行った場合に採り得る処置について、青少年本人の視点から、その成長発達を支援し、改善更生する(リカバリー)機会を多様に準備することが必要であり、その意味でも、現行少年法の果たしている役割は大きく、現行少年法の機能をむしろ拡大する方向で検討する必要があると思われます。 
 法制審議会が、被害者を含め、社会全体が取り組むような制度を構築するために審議を尽くし、誠実に多様な意見を徴することを強く希望します。 
 
(理由) 
 私たちは、少年司法・刑事司法に関わる被害者・遺族への支援を基本に、被害者・加害者双方に関する立ち直り支援及び研究等を行っている団体です。代表は被害者遺族の一人ですが、同じような犯罪被害が二度と起こらないことを深く願い、そのために、なぜ犯罪(非行)が起こるのかを追究してきました。 
 また、法務省が進めている「被害者の視点を取り入れた教育」に賛同し、外部協力者として少年院や成人刑務所を含む数多くの刑事施設・矯正施設で講演や更生プログラムに参加して、矯正の現場をつぶさに実見してきております。その上で、法務教官や家庭裁判所調査官を経験した人たちとともに、被害者・遺族への保護、支援とともに、加害者の更生改善を深め、とりわけ少年本人が社会内で立ち直れるよう、さまざまな方面において行動しています。 
 現在、法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会では、非行少年を含む犯罪者に対する処遇について議論が進んでいます。とりわけ少年法における「少年」の年齢を20歳未満から18歳未満に引き下げることも検討されています。 
 なるほど現状を見ますと、高齢犯罪者が増加し、その再犯者率及び再入所者率が高まる中、成人犯罪者に対して、検察段階で福祉的、医療的配慮を行う「入口支援」を行うこと、刑事施設等における教育的処遇を拡充すること、出所時の環境調整を含む「出口支援」を強化すること、刑事施設収容に代わる処遇を探索すること等は必要なことであり、この問題について衆知を集めて早急に対策を検討するべきでしょう。 
 しかし、少年法の適用年齢を引き下げることは全く別問題です。今後、各分科会での検討結果をふまえ、少年法の適用年齢の引き下げについて、本格的な審議がなされるはずですが、ぜひとも慎重な審議を行い、後世に禍根を残すことのないようお願い申し上げます。 
 
 少年法適用年齢を引き下げることに反対する理由は次の点にあります。 
 
 “蛤畴鮟顱∋碧‥計に明らかなように、少年非行(少年犯罪)総数は明らかに減少を続けており、凶悪非行も増加していません。それも、20歳未満の少年人口数の減少率以上に非行総数は減少しており、このことは、現在の少年司法が社会的に極めて有効に機能している証左とされています。したがって、基本的にみて、現行少年法の機能を縮小する必要はありません。 
 むしろ、近年の若年成人による凶悪犯罪の実情に鑑みるなら、現代の青少年の社会性が未熟であることを直視して、少年法の適用年齢をかえって23歳ないしは26歳程度にまで引き上げるべきではないかと考えます。 
 ちなみに現行少年法及び少年院法でも、23歳ないしは26歳まで収容継続を許容され、条件付きではありますが、少年法の適用対象とされています。これは現行少年法の健全育成理念に基づくものであり、将来的にもむしろこれを拡大していくべきではないでしょうか。 
 
◆〔泳,寮年年齢が20歳から18歳に引き下げられた(施行は2022年4月から)ことに併せて、少年法の適用年齢も当然引き下げるべきだという議論もありますが、飲酒や喫煙等は目的が別であるとして、これまでどおり法律で禁止制限されることをみると、少年法も健全育成を目的としたものであって、民法の成年制度とは趣旨を異にするものとして、これとは分けて考える必要があります。 
 民法の成人年齢と合わせることが「わかりやすい」という単純な理由で即断するのではなく、現行少年法の成立経緯や現在の家庭裁判所の設置経緯等も含めて、歴史的な経過をふまえた上で、未来的な指向を選択することが正に求められています。 
 
 現在、法制審議会少年法・刑事法部会の分科会において、検察官によって起訴されなかった18歳・19歳の者に対する「新たな処分」等が「構想」として検討されていますが、こうした「構想」が実施されたとしても、抜け落ちてしまう問題がさまざまに存在します。 
 まず、少年法の適用年齢を引き下げた場合、18歳・19歳の「ぐ犯」事件などが家庭裁判所の調査・審判の対象から脱落してしまうため、たとえば女子少年は、その社会性が未熟で、半ば強要された異性交遊や性風俗の仕事に関係し、実質的には被害者であり社会的弱者でありながら、このような女子少年への保護がかえって困難になります。 
 次に、家庭裁判所への全件送致の建前が18歳・19歳について崩れるため、書類送検にも至らない軽微事件等を起こした数多くの少年は、家庭裁判所による教育的措置を受ける機会がまったく失われてしまいます。 
 また、検討されている「新たな処分」は、保護観察処分を上限とした処遇選択しか考えられておらず、現在、少年院収容少年の半数が18歳・19歳であることもふまえるなら、18歳・19歳の者に対する非行性を除去するための教育的処遇が、かえって不十分なものとなるおそれは極めて高いことが憂慮されます。 
 加えて、少年法の適用年齢を引き下げた場合、18歳・19歳の者は、殺人等の重大事件だけではなく、いったん起訴されると、すべて公開の刑事法廷で裁判を受けることになります。このような若年犯罪者が公開の法廷で刑事裁判を受けることから生じる問題点について、現在の法制審議会ではまだ十分議論されていないように思います。 
 以上の諸点をふまえると、少年法の適用年齢を引き下げ、「新たな処分」等を設けるよりも、家庭裁判所への全件送致を維持し、家庭裁判所の調査・審判による少年及び保護者への教育的措置の実施を一層充実させることの方が、社会的にみて、適切であると言わざるを得ません。 
 
ぁ\こΔ梁燭の国で少年法の適用年齢が「18歳以下」であるからといって、それに倣う必要はありません。なぜなら、比較少年法制を研究している外国人研究者の多くは、日本の現行少年法を高く評価しているからです。 
 世界に誇り得る現行の少年司法システムを大きく毀損しないためには、適用年齢を引き下げないことが重要と思います。 
 
ァ〇笋燭舛枠鏗下圈Π簑欧悗了抉腓魎靄椶箸垢訝賃里任垢、少年法の適用年齢を引き下げ、刑事司法を拡大することが、犯罪被害を抑止し、被害者支援につながるとは考えていません。 
 というのも、最近の脳科学の知見では、大脳皮質の成長発達は26歳ころまで継続し、行動に関する理性的な抑止等の学習は26歳ころまで可能であるとされているからです。 
 また、現代の18歳・19歳が、以前と比しても社会的に未成熟であることは、社会学・教育学・心理学・医学等の研究諸領域からの報告でも明らかです。 
 加えて、少年非行(少年犯罪)は減少しているものの、不登校や引きこもり、被虐待、いじめによる自殺の問題等は増加しています。 
 こうした客観的事実をふまえるなら、現行少年法のとる保護主義や、そのもとにおける保護処分の重要性はますます高まっています。18歳・19歳を成人として扱い、刑罰を科す、もしくは微罪処分で済ませたりするよりも、むしろこれまで通り少年法の対象として、原則として保護処分を科して矯正教育や教育的措置を行った方が適切であると考えられます。 
 
Α“蛤瓩簇鷙圓鯡気し被害者をゼロにすることが私たちの願いです。そのためには、犯罪や非行の原因解明と社会的解決策が必須だと思います。 
 教育的措置よりは刑罰を優先させるような施策をとれば、社会の不安はむしろ増すことになり、そのことはかえって、後世に禍根を残すことになるのではないか、と危機感をいだかざるを得ません。 
 被害者も含め社会全体で、一人ひとりの子どもたち、非行少年たちに手厚い保護の手を差し伸べて行けるような施策を考えて頂きたいと思います。 
 
Аー由刑の在り方についても若干触れさせて頂きます。刑務所で現在行われている特別教育は、指導対象者の人数が多く、対象者全員に教育が行き渡っているとは言い切れない現状があります。 
 そこで、今回の検討を通じて、むしろ刑務作業主体の処遇から教育主体の処遇へと変化をすることが望ましく、今後の審議がそのようなきっかけになるよう期待しています。 
 特別改善指導での教育に関わっている立場から見ると、刑務所での教育内容をより充実させることが犯罪を減らし、若年受刑者のみならず一般受刑者の改善更生に繋がり、当事者のみならず地域社会や被害者にも有益になるものと考えます。 
 
以 上 


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