2018年08月06日11時28分掲載  無料記事
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人権/反差別/司法

オウム13名に、死刑執行 執行基準は「報復」と「見せしめ」 根本行雄

上川陽子法相は7月27日の閣議後の記者会見で「著しく重大な凶悪な罪を犯した者に対しては、死刑もやむを得ないと考えており、直ちに死刑制度を見直すことにはならない」と述べた。上川氏は今月、オウム真理教による事件で死刑が確定した全13人の刑執行を命じ、6日と26日に全員が執行された。小説家の中村文則は、エッセイの書き出しで、「一枚の写真がある。教祖を含むオウム真理教の7人が死刑になった前日、法務大臣が親指を立て、笑顔で「グー」ポーズで写っている写真である。」 と述べている。今回の死刑執行は、歴史に残る異常なものである。「赤坂自民亭」に参加した、安倍首相も、上川法相も、岸田政調会長も、小野寺防衛相も、、自民党の議員たちも、総裁選が近づいているので頭がおかしくなっているのだろう。彼らの暗愚ぶりには、暗たんたる思いを通り越して、吐き気を覚えずにはいられない。 
 
 
 
 
 小説家の中村文則は、毎日新聞に、「中村文則の書斎のつぶやき 」というエッセイを連載している。7月4日には、「死の厳粛さ踏み越えた日」という題名で、今回のオウム真理教のメンバーが死刑になったことについて書いている。 
 
 一枚の写真がある。教祖を含むオウム真理教の7人が死刑になった前日、法務大臣が親指を立て、笑顔で「グー」ポーズで写っている写真である。 
 僕は元々死刑制度に反対だが、そのことは今回触れない。死刑というものが、どうやって行われるかを書こうと思う。当然のことながら、自動的に死刑囚が勝手に死ぬわけではない。実際に人の手により、つまり刑務官たちの手によって行われる。 
 死刑囚の首に縄をかけ、床の穴が開く複数のボタンを同時に押す。なぜボタンが複数あるのかは、床が開くボタンを誰が押したかわからないようにするためであり、刑務官たちへの心理負担が考慮されている。 
 死刑囚が抵抗した場合、どうなるか。刑務官たちが、必死に押さえつける。反撃を受け、負傷することもある。死刑囚の体を押さえつけ、何とか首に縄をかけ、死刑を執行する。これはすさまじい任務だ。死刑囚が抵抗しなかった場合でも、無抵抗の人間の首に縄をかける行為は、警察や軍隊でもやらない非常に特殊なものである。 
 この任務を、免除される条件はあまり知られていない。拘置所によって違うかもしれないが、僕の知る限りで言うと、その刑務官が喪中の時、その刑務官、もしくはその子供が近々結婚予定の時、その刑務官の妻や娘が妊娠中の時、家族が入院中の時などには、死刑を執行する任務を免除されるといわれている。 
 つまりそれくらい、デリケートということだ。縁起という領域まで考慮されている。7人が死刑に処されたのだから、それだけ各拘置所で、執行任務に当たった刑務官の数は多かっただろう。任務に当たる前日、彼ら刑務官はどのような心情だったろうか。緊張していたと思う。死刑の執行は通常リハーサルが行われ、万全の体制で臨む。 
 法務大臣とはつまり、彼ら刑務官の上司になる。死刑が執行される前日、大勢の刑務官が覚悟を決め、緊張していただろうその夜、執行を決めたこの法務大臣は「赤坂自民亭」と称する宴会で酒を飲み、笑顔で「グー」ポーズをし、写真に収められている。法務大臣の隣では総理大臣までもが、同じ「グー」ポーズで笑顔で写っている。翌日は、国家が命と対峙(たいじ)する日だというのに。 
 法務大臣本人の気持ちは、吹っ切れていたのかもしれない。でも、一人で勝手に吹っ切れてもらっては困る。これから、あなたの部下たちが、実際に死刑囚に刑を執行するのだ。 
 これは死刑制度の根幹に関わる。絶対に認められない。あの写真を部下たちが見たらどう思うか。少なくとも、長く死刑制度について考え、細かく知った人間なら全員が、あの法務大臣の写真に驚がくしたはずだ。 
 
 
 
 青木理は、毎日新聞に連載している「理の眼」というエッセイで、「そのボタン押すのは誰」という文章を書いている。(毎日新聞2018年8月1日) 
 
 僕たちは死刑の本質をどれほど知っているでしょうか。例えば、死刑執行と一口に言っても、直接携わるのは生身の刑務官。今から約10年前、僕は『絞首刑』(講談社文庫)というルポを執筆するため、執行に携わった刑務官を訪ね歩きました。当然ながらその口は一様に重く、取材に苦労しましたが、ある刑務官OBが取材拒否の理由として発した一言は耳にこびりついています。 
 「所詮は人殺しだから」 
 首に縄をくくりつけ、足元の床がごう音とともに開き、落下すると同時に首が絞まって死に至る絞首刑。床を開くボタンは複数あって、どのボタンが床を開いたか分からない仕組みになっているのは、執行に当たる刑務官の心情を配慮したものだそうです。 
 もちろん、誰かのボタンが床を開かせているわけですが、本当の意味で誰が押したかといえば、それは日本という国に暮らす僕たち全員というべきでしょう。僕たちが負託した権力の行使として死刑は執行され、先の刑務官の言葉を借りるなら、「人殺し」が行われるのですから。 
 
 
 日本の政府と死刑存置論者たちは、世論調査をすると、多くの国民が死刑制度に賛成しているということを主張の正しさの根拠にしている。しかし、多くの国民は死刑とは「人殺し」という実態を知らないか、気づいていないために、安直に、死刑制度の存続に賛成しているのだ。 
 死刑制度に賛成だと主張するならば、死刑判決を出した裁判官と法務大臣は、率先して、自らの手で死刑を執行すべきなのだ。自らの手を汚さないから、安易に、死刑判決を出したり、死刑の執行命令書に署名をすることができるのだ。刑を執行している刑務官たちの苦悩を軽視しているのだ。政府による「人殺し」が正しいと主張するのならば、死刑の執行に参加すべきなのだ。 
 
 
 
□ 死刑の執行基準 
 
 上川法相によって、 
2015年6月、闇サイト殺人事件の死刑囚が1名の死刑が執行された。 
 2017年12月、市川一家4人殺人事件で死刑が確定した犯行当時19歳の少年死刑囚を含め、死刑囚2名の死刑が執行された。 
2018年7月、オウム真理教事件で死刑が確定した13名に死刑が執行された。 
 
 オウム真理教死刑囚13人に執行を命じた心境を、上川陽子法相は7月26日の記者会見で 「鏡を磨いて磨いて磨いて磨ききる心構えで判断した」 と述べた。「磨いて」を四つ重ねる言い方を2度繰り返した。 
 
 上川氏は7月3日に署名をし、6日の執行日を迎えた。法務省内の記者会見場には100人超の報道関係者が押し寄せたそうだ。 上川氏には「なぜ今の時期なのか?」「対象はどうやって選んだのか?」「執行されなかった6人の精神的な不安をどう考えるのか?」など矢継ぎ早に質問が飛んだが、前例のない執行を決断した経過や今後の執行については固く口を閉ざしたままだったという。 
 
 安倍政権下での上川法相の死刑執行には、「報復」、「見せしめ」というイメージが強い。こういう野蛮な刑罰思想は、克服すべきものであると言わなければならない。国民主権、平和主義、基本的人権の保障という3原則、民主主義を標榜する「日本国憲法」と死刑という刑罰は矛盾するものだ。 
 
 
 
□ 今回の死刑は異例ずくめ 
 
 これまで、日本では、死刑の執行は死刑囚本人にも当日まで告知されることなく、極秘裏に準備が進められてきた。執行後に法務省が公表するのは氏名と犯罪内容、執行場所のみで、選定理由は明かされてこなかった。 
 
 2012年6月に逮捕された元信者の高橋克也受刑者の無期懲役が確定し、2018年1月、オウム公判は完全に終結した。それを受けて、法務省はオウム関連の死刑囚13名に対する刑の執行について検討を始めたようだ。マスコミでも、関係者の間でも、「『Xデー』は近い」との声が広がっていたという。 
 
 2018年3月15日の新聞に、「死刑囚7人、東京から各地に移送」という記事が載った。 
 
 法務省は3月14日、オウム真理教による一連の事件で死刑が確定した死刑囚13人のうち、7人を東京拘置所から、名古屋、大阪両拘置所に各2人、仙台拘置支所、広島拘置所に各1人が移送された。福岡拘置所に15日、残る1人が到着する予定。移送は死刑囚が動揺する可能性があり、なるべく避けるのが通例だが、裁判終結を受け、処遇や刑執行も考慮し分散収容を決めたとみられる。( 毎日新聞2018年3月15日) 
 
 この記事を読めば、だれでも、容易に、死刑の執行が近づいていることに気づくことだろう。 
 これまでは、共犯の死刑囚は同日に執行される例が多いとされてきたが、13人の同日執行は拘置所の態勢などからできないからであろう。7人と6人に分けざるを得なかったようだ。結果として、7月26日に執行された6人については、「事前に」、死刑の執行を「告知」をしたことになってしまったことは明らかであろう。 
 
 これまでは、再審請求中の死刑囚に対しては、執行を回避する傾向にあったが、今回の死刑の執行には、再審請求中だった3人が含まれていた。法務省は、死刑執行の正当化の理由として、死刑囚の8割が再審請求中であるという現状をあげて、「執行逃れで請求を繰り返す例も多い」ということをあげているが、今回の13人のなかには初めての再審請求をしてる者もいたそうだ。 
 
 
 今回の異例ずくめの死刑の執行の背景には、来年5月に予定されている、天皇退位がある。政権担当者たちの思惑が大きく関与しているために、異例ずくめになったのだろう。 
 
 
 
□ マスコミ報道 
 
 今回の、死刑についての報道も、異常なものであった。金平茂紀が毎日新聞に書いている連載の文章がわかりやすいので、以下に引用する。「週刊テレビ評 オウム死刑執行の異例報道 グロテスクな暗黒の日本」という文章である。(毎日新聞2018年7月21日 東京夕刊) 
 
 
「死刑執行の報道としては異例中の異例のものだった。麻原彰晃こと松本智津夫死刑囚らオウム死刑囚の7人同日処刑は戦後史に残る出来事となった。死刑廃止が先進国の趨勢(すうせい)となっている中で、日本は正反対の道を歩みだした。これを報じたテレビのありようも特異なものだった。 
 
 日本テレビが今月6日午前8時41分に「法務省は松本智津夫死刑囚らの死刑執行手続きを始めた」というニュース速報を流した。これが第1報で、その後、同8時45分にNHKが、さらに他局も時をおかず次々と「執行」を速報した。新聞社も自社サイトで速報した。俗にいう「裏をとる」作業が担当記者らによって行われ、法務省、検察を含む当局サイドから「井上」「中川」「早川」「新実」「土谷」「遠藤」といった名前がリークされた。戦後、死刑報道はこれまで、どのケースも「事後」報道だった。つまり、執行「後」に情報が伝わってきた。それが今回は「事前」から準備された報道だった。相手がオウム真理教だから特例というわけか。 
 すでに各所で批判を浴びているが、フジテレビは特番中、次々と入ってくる氏名情報に従って、フリップで用意した13人のうち7人の写真に順次「執行」というシールを貼っていった。まるで選挙の当確を打つように。いやしくも生命が奪われているのだ。僕は同業者としてこういう「演出」を考えた人間を軽蔑する。だが僕は少数派だろう。上川陽子法相の記者会見は午後0時45分から開かれたが、肝心な点は何も答えていなかった。 
 
(中略) 
 
 7人の死刑執行12時間前、そして気象庁から西日本で記録的な大雨の予報が出ていた5日夜、為政者たちは何をしていたか。午後8時28分から「赤坂自民亭」と称して衆院議員宿舎で、安倍晋三首相、岸田文雄自民党政調会長、小野寺五典防衛相、そして何と翌日に7人の死刑執行を控えていた上川法相が参加して宴会に興じていた模様が、参加者が写真をネットに上げたため世間の知るところとなった。暗たんたる思いを通り越し、あまりの暗愚ぶりに吐き気と虚無感が残る。上川法相が死刑執行命令書に署名したのは3日。上川法相はその宴会のトリで万歳三唱の音頭をとったという。」 
 
 
 
□ 海外の反応 
 
 毎日新聞(2018年7月6日)に、次のような記事が載っている。 
 
 欧州連合(EU)の駐日代表部は7月6日、加盟国の駐日大使らと連名で、日本政府に執行停止の導入を訴える共同声明を発表した。死刑撤廃を加盟の条件とするEUは国際社会でも死刑廃止を目指している。 
 声明ではオウム事件が「日本と日本国民にとってつらく特殊な事件であることを認識している」と述べ、テロ行為を非難すると共に犠牲者や遺族に共感の意思を伝えた。その上で死刑には「犯罪抑止効果がない」と指摘し、冤罪(えんざい)による過誤も「不可逆」だとして「いかなる状況下での極刑の執行にも強く明白に反対する」と主張。日本政府に死刑廃止を前提とした執行停止の導入を訴えた。 
 
 国際人権団体アムネスティ・インターナショナル(本部ロンドン)も7月6日、「司法当局には説明責任だけでなく、すべての人権を尊重することが求められているが、死刑は究極の人権の否定である」と非難した。 
 
 
 国家権力は右手に「戦争」を、左手に「死刑」をもち、権力という強制力によって、「人殺し」という権力の行使を正当化しているのである。国家権力は国民を守らないばかりでなく、率先して、国民を殺している。それが歴史の事実である。ナチス・ドイツをはじめとして、さまざまな国家権力が、政治的な理由から、死刑という制度を権力の道具として利用し、大量虐殺を行ってきたのだ。そのような歴史的事実を直視し、その認識と反省から、死刑制度を廃止することが国際的な世論となっている。だから、日本のような死刑存置国は少数派なのだ。 
 
 金平は、今回の死刑執行について、「暗たんたる思いを通り越し、あまりの暗愚ぶりに吐き気と虚無感が残る。」と述べている。「赤坂自民亭」に参加した自民党の議員たちの頭の中は、安倍晋三が総裁選で勝利することばかりになっておかしくなっているのだろう。彼らの「あまりの暗愚ぶり」には、ネモトも、「暗たんたる思いを通り越し」て吐き気を覚えてしまう。こういう人々が国家議員であり、政権担当者であるとは、もう、吐くものもなくなるくらいに吐き続けている。 


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