2018年08月14日12時33分掲載  無料記事
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コラム

映像業界の労働環境も  村上良太

  今年の国会で「働き方改革」という名前のもとで残業代が払われない「高度プロフェッショナル制度」という制度が議論されました。この制度改革は一定の専門職の人々を対象に、既存の労働法の適用を除外する、というものです。弁護士の戸舘 圭之さんが東洋経済で次のように述べています。 
 
<今回の働き方改革法案は、多くの法律改正をまとめて1本の法律としており、それぞれの法改正の評価はさまざまだが、中でも議論を呼んでいるのが「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」だ。正確には、労働基準法改正案41条の2でうたわれている「特定高度専門業務・成果型労働制」を指す。一定の年収要件を満たす一部の労働者について、労基法が定める労働時間規制(労働基準法第4章で定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定)をすべて適用しないとする制度である。同時に、使用者には、労働者へ104日の休日付与と一定の健康確保措置を講じる義務が課されることになっている。高プロは労基法32条が定めている1日8時間、週40時間を超えて労働させてはならないという規制が適用されない。つまり、法律上の規制は1日何時間でも働かせてもよいということになる。>(「高度プロフェッショナル制度」に隠された罠 年収400万円も狙う「残業代ゼロ法案」の含み 東洋経済) 
 
  一定年収以上のある業種のプロフェッショナルには、これまでの労働法の残業代や残業時間などの規定が適用されなくなるということですから、労働者や市民を中心に強い抵抗があったのもうなづけます。しかし、今、たとえば映像業界でフリーランサーがしばしば契約としている仕事の内実には、批判されている「高度プロフェッショナル」と本質的には同様の残業代ゼロの仕事が多々あるように思われます。いや残業代ゼロと言うよりも、月収半減制度とでも言った方が的確かもしれません。今僕がこれを書いているのはそうした契約を強いている個々の製作組織や放送局への恨み、というようなことではなく、ただそういうことが日常ありふれた現実になっているのではないか、という危惧からなのです。 
 
  映像業界では作品を作って仕上げるまでに、報酬がいくらで、放送日(あるいは完成日)はいつの予定ということがまず契約時点であります。ところが、放送日(完成予定日)が諸事情で3か月先とか半年先とかに延びることがよくあります。しかし、「業務内容は変わらないのだから、基本的に同じ金額で仕事をしてください」、と言われることが多いのです。とはいえ、もし報酬が50万円で、拘束期間(製作期間)が1か月だったら(税金のことはここでは考えないとして)月収50万円ですが、2か月なら25万円、5か月なら10万円、10か月なら5万円となります。拘束期間が長くなればなるほど反比例して月収は下がっていくのです。その間に、うまく他の企画の業務を空いた時間に組み入れらればいいのですが、ドキュメンタリーみたいなある種、いつ何回ロケがあるかわからないようなタイプの業務だと、なかなか他の企画と掛け持ちがしにくい実情があります。都合よく、ロケや会議や仕上げのない日に別の仕事を組み込めるほどスケジュール調整は楽ではないのです。ですから、最悪の場合はその人の専門とは関係のない副業を日当的に入れて食いつなぐしかなくなってしまうのです。 
 
  一番盲点になっているのは拘束される期間が何か月か、ということで、それが簡単に半年先とか、3か月先とかになってしまうとそれだけでも月収が大幅にダウンしてしまい、生活にも窮してしまうであろうことです。報酬金額だけでなく、拘束期間が何か月かということも金額と同等に重要だということです。しかし、その重大性が契約当事者双方に十分に意識されていなくて、労働問題だという認識も乏しいように思われます。社員で労働組合の一員であれば月収が3000円下がっただけでも大きな問題となるはずですが、フリーの人々は月収が半減するようなケースでも声を挙げられない人が少なくないのではないでしょうか。職業人にとって基本はその専門業務であり、副業を入れないと生活できないような契約が普通になってしまったら、フリーの人々はやがて少なくなっていくように思われます。ではそれで制作プロダクションや放送局が正社員を増員するのでしょうか。同じ量と質の業務をどうこなしていくか、という将来の重荷が減ることはないことだけは確実でしょう。 
 
 
村上良太 
 
 
■サルトルらが創刊したフランスの評論誌Les Temps Modernesに日本の政治について書きました 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201808111943116 
 
■フランスの現地ルポ 「立ち上がる夜 <フランス左翼>探検記」(社会評論社) 
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