2018年08月24日10時47分掲載  無料記事
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司法

家庭裁判所と少年非行に何が起きているのか 家裁調査官が見た40年の変遷 ―藁犬覆「厳罰化」の流れ

 戦後の1949(昭和24)年1月、戦前には無かった裁判所として新たに家庭裁判所が設立され、現行少年法(昭和23年制定)が施行された。戦後改革として生まれた現行少年法は、理念・目的として「少年の健全育成を期し」と冒頭に掲げ、教育基本法の理念・目的と同じく、一人ひとり個別の子ども・少年の成長発達を保障し、支援する、子ども・少年に関わる代表的法制度である。その現行少年法は、今年、70年目を迎えている。運用の後退、度重なる「改正」(厳罰化)、そして現在も法務省法制審議会において新たな「改正」作業が検討され、戦後改革として生まれた現行少年法はいつまでその理念を維持できるかが問われている。(伊藤一二三) 
 
 国連子どもの権利条約などの実施状況に反映されるとおり、非行少年に対する教育の在り方は世界各国の根本的な教育姿勢を示すものであり、非行少年など厳罰にしておけばよいのだというのは簡単であるが、この国の青少年の現状と未来について熟慮した意見とは言い難い。 
 
 少年非行や家庭裁判所を知らない人はいないと思われるが、家庭裁判所調査官という、家庭裁判所だけに置かれ(地方裁判所や簡易裁判所にはいない)、裁判官を補佐する専門職について知らない人は少なくないのではないかと思われる。総数約1550人、全国の家庭裁判所の本庁支部に配置され、家庭裁判所における少年事件と家事事件の実質的な調査、調整を担っている。全国の警察官は約30万人、生活安全課少年係に限っても2万人程の警察官が少年事件を担当していると思われるが、少年事件担当の家庭裁判所調査官の実数は約450人である。まさしく少数精鋭のスペシャリストと言える。 
 
 本稿は、長年にわたって家庭裁判所調査官であった方から「家庭裁判所と少年非行に何が起きているのか(家庭裁判所及び家庭裁判所調査官の変遷について)」という寄稿をいただき、この約40年間の家庭裁判所、少年非行の実態等の変遷について報告するものである。『少年非行は社会の鏡』という言葉があるが、この報告は現在までの日本社会の変遷も映し出すものと思われる。 
 
▽「少年の健全育成」が現行少年法の理念 
 現行少年法は、戦前の旧少年法(通称:大正少年法)に基づく少年審判所(旧司法省内の行政機関)が、戦争中、非行少年に矯正教育を実施する代わりに、戦地に送り込んだり、軍需工場への勤労動員に回したりしたこと等への反省から生まれている。そこで、現行少年法は「少年の健全育成」の理念を適えるために、仝〇ヾ雲莎弔稜喀と⊇莇決定は司法機関(裁判所)で行うという2つの大原則を設定した。具体的には、〃抻,杷知、捜査された少年事件は、検察官を経るものの、全件が家庭裁判所に送致され(全件送致主義)、家庭裁判所調査官という法律以外の教育、福祉、心理等の専門職制度を取り入れた新たな家庭裁判所において、個々の少年に向き合って適切な処遇を決定することとされた。 
 
 この戦前と断絶した新たな少年法を根付かせるべく、最高裁判所事務総局家庭局は当初、様々な工夫を凝らした。1949年1月、最高裁初代家庭局長宇田川潤四郎は、「全国家庭裁判所長会議」において「家庭裁判所の指導理念」として次のように説明した。 
独立的性格(独自の理念によって運営) 
民主的性格(関係機関の援助・開かれた裁判所) 
科学的性格(人間諸科学の導入) 
教育的性格 
社会的性格(関係機関の密接な関係のもので解決すべき) 
 
 このように、新たな家庭裁判所においては、通常の刑事裁判や民事裁判と異なり、裁判所の司法機能ではなく、社会に開かれた教育福祉的機能が強調されていた。これらの理念は、子どもの権利条約など後から作られた国際準則にも合致したものであり、家庭裁判所は個々の非行少年の刑事責任の追及の場ではなく、家庭裁判所自らが少年や保護者、さらには少年が生活する家庭環境、学校・職場環境に接触し、働きかけ、非行を抑止し、自主的な問題解決ができるように調整を図るといったケースワーク機能が重視された。 
 
 この家庭裁判所に期待されたケースワーク機能を担うものが家庭裁判所調査官である。従って、家庭裁判所調査官は、裁判所内でのデスクワークだけではなく、家庭裁判所の外へ出ての職務活動も行うといった、裁判所職員としては特徴的な専門職であった。言葉を変えて言えば、裁判所は本来、言葉によって争われ、言葉によって判断する「言葉で成り立っている場」であるが、言語化を苦手とする非行少年、言葉になりにくい家庭内や親族内の出来事について、「言葉にできないものの中にある大切なこと」を粘り強く調査・調整し、非行少年や親、当事者にできるだけ言語化してもらうこと、そのために家庭裁判所調査官のケースワーク機能が重視されたと考えられる。(つづく) 


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