2018年08月26日02時14分掲載  無料記事
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コラム

トム・ウルフの死  ニュージャーナリズムの終焉  村上良太

  たまった新聞を読んでいたら、アメリカのノンフィクション作家のトム・ウルフ(Tom Wolfe )がこの春亡くなっていたことを知った。ニューヨークタイムズは2ページを使ってかなり大きなボリュームの追悼記事を掲載していた。通常の作家の追悼記事とは違ってその5倍くらいあり、写真も多数使っていた。とくに1960年代末頃の白いスーツをお洒落に着こなしている写真や、才色兼備の美女たちに囲まれているような写真などだ。確かにトム・ウルフという存在には華麗さがある。 
 
  とはいえ、日本で実際に読まれた作品はそう多くないのかもしれない。少なくともアメリカ文学ファンを除くと、一番知られたのは宇宙飛行士たちを描いたアメリカの「ザライトスタッフ」だろう。これは映画化もされたので見た人も少なくないに違いない。ほかにも映画化された作品はある。ニューヨークタイムズは「ニュージャーナリズム」の旗手としてウルフの業績を讃えているが、1970年代から80年代にかけて日本でも「ニュージャーナリズム」という言葉は人口に膾炙し、多くのノンフィクション作家が生まれたし、そうした書き手が活躍できる雑誌媒体もたくさん生まれた。 
 
  追悼記事を読みながらその頃を思い出すと、今とは時代が大きく違っていたことを思わざるをえない。今日はジャーナリズムが衰退している時代である。曲がり角は湾岸戦争とイラク戦争あたりだろう。アメリカでも事実を書くのが難しくなった時代だ。日本でもノンフィクションを掲載する雑誌も随分と減ったし、書店自体が減少している。トム・ウルフはアメリカの文学の中心を小説などのフィクションからノンフィクションに移行させたと讃えられているが、今日ではノンフィクションからフィクションに逆転してしまったかの印象もある。ロシアを例に挙げると、検閲が厳しかった旧ソ連時代には作家はノンフィクションよりもサイエンスフィクションなどの形で政府を批判するしかなかった。環境の変化で事実が書きにくくなればそれだけフィクションの世界に才能が移行するのだろう。 
 
 
■ニューヨークタイムズの追悼記事 
https://www.nytimes.com/2018/05/15/obituaries/tom-wolfe-pyrotechnic-nonfiction-writer-and-novelist-dies-at-88.html 


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