2018年08月29日14時14分掲載  無料記事
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検証・メディア

米紙のトランプ批判一斉社説vs日本の新聞の共同宣言

  トランプ大統領のメディア敵視に対抗して、米国の新聞380紙が報道の自由を訴える社説を掲載したニュースが話題になったとき、知人が言った。「日本の新聞も見習えないかな」。これに私はこう応じた「日本の新聞も時の政治情勢に共同宣言を出したことがあります」。60年安保のときの7社共同宣言と満州事変のときの132社共同宣言である。ただ、いずれの共同宣言も米国の新聞と違い、権力者のうごきを擁護するものだった。(永井浩) 
 
 7社共同宣言は、日米安保改定に反対する安保闘争が頂点にたっした1960年6月17日に「暴力を排し、議会主義を守れ」と題して、7紙の朝刊一面に掲載された。朝日、毎日、読売、日本経済、産経、東京、東京タイムズの在京紙である。2日前に全学連と警官隊が国会周辺で衝突し、東大生の樺美智子が死亡していた。 
 
 宣言は「その事の依ってきたる所以を別として」と混乱の原因を棚上げし、もっぱら学生らデモ隊の暴力排除、事態収拾に力点を置いた。「これまでの争点をしばらく投げ捨て」て、国会の正常化を呼びかけた。宣言にはその後地方紙からも参加希望が相次ぎ、結局全国で48紙に掲載された。 
 
 安保闘争は、自民党の岸信介政権が衆院本会議で新条約承認を強行採決したことで一気に高揚した。安保改定反対と議会制民主主義擁護を叫び、岸退陣を要求する国会デモには空前の17万人(主催者発表)が参加した。学生だけでなく一般市民、野党勢力、労組、学者、文化人ら国民各層が国会を取り巻いた。朝日、毎日、読売はじめ大半の新聞が「議会制民主主義を踏みにじる行為」と、岸政権をきびしく指弾した。 
 
 ところが各紙は一転して、事態安定を最優先する共同宣言で足並みをそろえたのである。反対運動を進める人びとは「高揚した安保闘争への冷水」「マスコミは死んだ」などと新聞批判したが、すべての新聞が宣言に同調したわけではない。7社宣言に参加しなかった北海道新聞は、コラム「卓上四季」にこう書いた。「爐茲辰討たるゆえん瓩鬚戮弔砲靴董頭痛がするからと頭にコウヤクを貼り、腰痛がするからと腰にコウヤクを貼るのはヤブ医者である」 
 
 60年安保の29年前の1931年9月、満州(中国東北部)の奉天郊外の柳条湖で、日本陸軍の関東軍が南満州鉄道(満鉄)を爆破する「満州事変」がぼっ発、日本は翌32年3月に満州国を樹立した。国際連盟が現地調査団によるリットン報告をうけて、33年2月の総会で42対1(日本)で満州国不承認を可決すると、日本はこれを不服として連盟を脱退し、国際社会で孤立を深めていく。だが新聞は、自国政府の選択に対して全面的な支持を表明した。 
 
 同12月19日、東京朝日、大阪朝日(いずれも現在の朝日新聞)、東京日日、大阪毎日(両紙は現在の毎日)、中外商業新報(現在の日本経済新聞)、讀賣、都(現在の東京)などの新聞・通信132社は、満州国の独立を「極東の平和を維持する絶對の條件である」と正当化し、国際連盟のうごきを批判する共同宣言を発表した。宣言は各紙一面に掲載された。 
 
 さて、こうした共同宣言の歴史的過去をもつ日本の新聞が、米国の新聞をどれだけ見習うことができるだろうか。朝日は米紙の一斉社説をうけた社説(8月18日)で、日本でも言論、表現の自由を脅かす事態が進んでいると指摘、特定秘密保護法の成立や自民党による一部テレビ局に対する聴取などを挙げてこう述べている。「報道への信頼を保つ責任はつねに、朝日新聞を含む世界のメディアが自覚せねばならない」 
 
 その言やよし。だが安倍首相の言論の自由軽視と一部メディアの敵視は、トランプ大統領に負けず劣らずの民主主義への脅威になっているはずである。過去の共同宣言の汚名返上のためにも、朝日をふくめた各紙がいまこそ一斉に「民主主義の存立基盤である自由な報道を守ろう」という権力者批判の社説を掲載できないものだろうか。 
 
*参考文献 
 朝日新聞取材班『戦後五〇年 メディアの検証』(三一書房、1996年) 


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