2018年09月01日13時31分掲載  無料記事
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司法

家庭裁判所と少年非行に何が起きているのか 家裁調査官が見た40年の変遷А 屮ソガキには厳罰を!」と叫ぶ国会議員たち

  再び私事になるが、筆者は2006年夏、東京家裁勤務から全司法本部の副委員長として、現場を休職し労働組合の専従役員となった。全くの奇遇が重なったもので、組合の本部役員になるとは夢にも思っていなかったが、組合員が減少する中、本部専従役員を引受ける人が壊滅的に減少し、筆者のような存在にも順番が回ってきたと言える。老母がようやく特別養護老人ホームに入所できたこと、下の子どもが大学生になったこと等も役員を断り切れない事情であった。ただ、家裁調査官なりに、何よりも第二次少年法改正が進められていることが一番気がかりであり、少しでも国会情勢の近くで物事を見たいと思い、専従役員を引き受けた。そして驚愕すべき体験をする。(伊藤一二三) 
 
 全司法本部役員となり、頻繁ではないにせよ、国会議員会館内を回って各種の要請や請願を行うのに合わせ、少年非行総数や凶悪非行の減少傾向等を統計的・客観的に説明し、少年法改正に慎重姿勢を求める要請を行っていたが、国会議員秘書や国会議員自身の口から、「いや、今どきのクソガキにはこの程度の少年法改正では足りない、厳罰が必要なんだ」といった意見が述べられ、その根拠を問うても「世の中、悪ガキが溢れてるでしょ」といった反応しか返ってこないことが何度か重なった。 
 
 いかに温厚な私(?)でも、腹に据えかね、「国会議員として一国の青少年政策に責任を負う者が、自国の将来を担う青少年について悪ガキ・クソガキと認識しているのか? そんな侮蔑が許されるのか?」、「今回の改正(第二次改正)原案には、『虞犯の疑い』についても警察捜査権があるように表記されているが、『虞犯の疑い』とは何か。国会議員の過半は弁護士であると聞いているが、法律の専門家として、こうした文言が入った法案に問題意識は無いのか」と声を荒げることもあった。 
 
 概して言えば、自民党議員であっても比較的高齢の議員及び議員秘書は、非行少年の生い立ち等への同情があり、非行少年への保護や教育的措置について必要性を認める反応が多かったが、いわゆる小泉チュルドレンと呼ばれた議員や当時40歳代の賢いと評された中堅議員の中に、客観的現実を認めず、自らの感情論に固執するだけの傾向が濃厚であった。率直に言って、国会議員でありながら自己愛的な狂気に囚われているのではないかとすら思われた。 
 
 当時、人材派遣会社の役員出身の女性議員が、「過労死は自己責任である」と発言したが、ごく最近の「LGBTには生産性が一切ない」という発言同様、ごく常識的な人権感覚すら備えていないと考えざるを得なかった。(ちなみに、『虞犯の疑い』とは「犯罪を起こす可能性があることが疑われる」ということで、要は、何でもかんでも警察捜査ができることを招来する文言である。この文言については、当時の民主党の江田五月議員等を中心にして法案から文言削除がなされた。) 
 
▽マスコミの非行少年バッシングは多少改善 
 それでも、本部役員となって半年後には、ごく少数ではあったが「少年非行は増加も凶悪化もしていないと言っている方ですね」といった声を国会議員秘書や新聞記者から言われるようになった。2008年の第三次改正前には、新聞やテレビの報道で、被害者遺族の声と合わせて少年事件の特殊性や保護処分の必要性が解説されることが増え、非行少年を一方的にバッシングする思潮が多少改善されたようにも思う。 
 
 この間、テレビ朝日、フジテレビ、TBSの報道局でキャスターやディレクターに少年非行について説明する機会もあったが、今は亡き筑紫哲也氏から「家裁調査官は、非行少年の更生や教育に尽くすべきで、変わってはいけないのじゃないか」と言われ、また、「かつては新聞でもテレビでも、ジャーナリストとして、少年非行の報道は1日限り、午後に警察発表があった場合は翌日の昼までといった倫理規範があったけれど、1995年頃から一気に崩れた感じがする」と教えられたことが心に残っている。 
 
 付言すれば、最高裁は裁判員裁判の実施にむけて、全国で極めて多数の裁判員裁判の試行を行っていた。筆者は繰り返し、少年が原則検察官送致された事件での裁判員裁判の試行を行ってほしいと要求したが、最高裁は900例に及ぶ試行の中で一度も少年が受けることになる裁判員裁判の試行を行わなかった。本節の冒頭に記した、最高裁が少年司法を軽視しているのではないかという証左である。 
 
 そして、3年間の専従役員を退任し、家裁現場に戻った筆者は、原則検察官送致決定を受けた少年の裁判員裁判について、家裁調査官が傍聴にも行かず、裁判所当局としても業務として認めないという事態に出合い、その改善を裁判所当局に求めた。少し時間がかかったが、担当少年の裁判員裁判の傍聴は徐々に認められるようになっている。ケースウォーカーとしてあるまじき実情と思えるが、少年刑務所が如何なる刑事施設なのかその実態を全く確かめることもせず、原則検察官送致の処遇意見を選択している家裁調査官は管理職も含めて多数派である。 
(つづく) 


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