2018年09月10日11時55分掲載  無料記事
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反戦・平和

軍事研究と平和憲法◆(瞳海研究資金を提供 矢倉久泰

 「東大医など57件/研究援助/現在は計40万ドル」 1967年5月5日、朝日新聞朝刊は一面で米陸軍から日本の大学等に多額の研究資金が提供されていることを大きく報道しました。研究費は8年前から出ていたと記事は伝えていました。この報道は国民や学会に大きな衝撃を与えました。 
 
 8年前というと1959年。日米安保条約改定の動きがあり、当時の社会党・総評などが「改定阻止国民会議」を結成した年です。米軍は安保改定に向けて、日本の研究者との連携を強化しようとしたのでしょうか。 
 
 この報道を受けて、翌5月6日の衆院予算委員会で野党議員がさっそく取り上げ、米陸軍からの資金援助の実態を報告するよう文部省に要求しました。そして、資料は5月19日の予算委員会に提出されました。 
 
 それによりますと、1959年から北大、東大など国公立大学19校、慶応大など私立大学6校、航空宇宙技術研究所など研究機関9、その他(学会など)3、合わせて37の大学・研究機関の90の研究テーマに、米陸軍極東研究開発局から計40万ドルの資金が提供されていたことが明らかになりました。このうち8000ドルは日本物理学会主催の国際半導体国際会議への助成金でした。資金は研究費だけでなく、国際会議開催援助費や渡航費にも出されていました。渡航費の助成は米国防総省や米軍の関係者との関係を密にするためといわれます。 
 
▽生物化学兵器の開発のためか 
 資金が出された研究テーマは「分子レベルにおけるウイルスと宿主の相互関係」(京大ウイルス研究所)、「ぶどう状球菌の薬品耐性に関する遺伝学的研究」(微生物研究所)など、3分の1がウイルスや細菌など微生物に関わるものでした。こうした研究が軍事にどう生かされるのか。野党議員は「生物化学兵器に結び付いていくのではないか」と指摘しました。文部大臣はむろん否定しましたが、軍事に結び付かない研究に米軍が資金を出すとは思えません。 
 
 それから1ヵ月近く経った6月14日、朝日新聞は「猜瞳鎧餠癲蹐稜愀覆棒むもの」という記事を掲載しました。それは、米軍が生物化学兵器の開発を進めていること、その関係で日本の研究機関に資金を提供しているのではないか、という内容でした。研究テーマの3分の1がウイルスや細菌など微生物に関わるもので、これらの研究は生物化学兵器につながります。 
 
 米軍は生物化学兵器の研究開発に精力的に取り組んでいました。生物化学兵器は「ワクチンや抗生物質の製造工場を利用して、核兵器とは比べようもなく秘密に、しかも安く製造できる。実戦に使っても証拠がつかまえにくく、従って報復攻撃も受けにくいという利点がある」というのです。微生物分野に次いで多いのが神経生理学の分野。神経生理学は化学兵器に対して、人体がどのように反応するかの基礎研究に役立つとされます。 
 
 米軍の資金で研究しているということに、東大、京大などが「好ましくない」などの見解を出しました。国際会議費の援助を受けた日本物理学会も非難を受け、「今後、一切の軍隊の援助、協力関係をもたない」と決議しました。米軍資金による研究や「軍学共同」に対する日本学術会議など研究者側の対応については、後日報告します。 
 
▽赤坂の米軍機関が資金提供 
 その後も米軍から研究資金などの提供が続きます。その実態が断続的に新聞で報道されてきました。「朝日」(2017年2月23日付、3月29日付)などによりますと、米軍から日本の大学などの学術界に20年以上前から資金を提供しており、2008年から2016年までの9年間だけでも135件に対して8億8000万円の研究助成をしていました。 
 
 研究費提供の拠点になっているのが東京・六本木にある「赤坂プレスセンター」と称する米軍関係の施設。米軍の準機関紙「星条旗新聞」などが入っているため、この名前が付けられているのですが、れっきとした在日米軍基地です。ヘリポートがあり、ヘリが離着陸するので騒音が問題になっています。 
 
 ここに米の空軍、海軍、陸軍の研究助成ためのオフイスがあります。それらから日本の大学・研究機関に資金が出されているのです。湾岸戦争翌年の1992年に開設された空軍のアジア宇宙航空研究開発事務所から5億1800万円(83件)、海軍の海軍研究局グローバル東京から3億3500万円(44件)、陸軍の国際技術センターパシフイックから2350万円(3件)です。 
 
 配分先は、大学に6億8400万円(104件)、大学と関係の深いNPO法人(ロボット競技会や展示会などを通じた科学振興を目的とした団体)に1億1200万円(13件)、韓国やオーストラリアなどアジア諸国の研究機関に7600万円、学会に1000万円、大学発ベンチャー(大学がつくったベンチャー企業)に560万円となっています。 
 
▽「基礎研究に限る」 
 大学のどんな研究に資金が出ていたのでしょうか。リストを見ますと、大阪大「レーザーや船体に関する研究」、東京工業大「人工知能(機械学習の研究)」、東北大「素材や解析の評価」、奈良先端科学技術大学院大学「センサーの開発」、北陸先端科学技術大学院大学「ビッグデータの解析」、京大「アンテナ用素材の研究」などです。 
 
 資金を出す対象は「直接軍事応用につながらないものに限る」として、基礎研究が中心といいますが、上記のような大学の研究テーマには、兵器や軍事システムに転用可能な分野が多いのです。米国防総省は世界で米国が軍事的優位に立つため、常に最先端技術の研究開発リストを更新しており、その一環として軍事科学に力を入れているのです。 
 
 助成の普及に協力しているのが元田浩・大阪大学産業科学研究所名誉教授(73)。東大を卒業後、日立製作所原子力研究所や大阪大学産業科学研究所などに勤めた後、1996年にアジア宇宙航空研究開発事務所の科学顧問に就任しました。米軍の助成担当者の右腕として優秀な研究者を米軍に紹介する「橋渡し役」になっているといいます。 
 
▽米国研究所と共同研究 
 このほか、独自に米国の軍事研究機関と共同研究を行っている大学もあります。大阪大学のレーザーエネルギー学研究センターは、米の核兵器研究所であるローレンス・リバモア国立研究所の「国立発火施設」が募集した共同実験に参加しました。広島大学先進機能物質研究センターは、かつて原爆開発を行ったロスアラモス研究所が取り組むエネルギー蓄積分野の共同研究を行うための部局間交流協定を結びました。被爆地ヒロシマの大学がロスアラモス研究所と共同研究を行うとは! 
 
 阪大は「基礎的な物理研究」といい、広島大も「平和利用が前提」と弁明していますが、いずれの実験も「劣化した核兵器の爆発性能を確かめる実験」とされています。 
 
▽軍事ロボットコンテストに出場 
 千葉大学の野波健蔵工学部教授(副学長)を代表とするチームは2008年3月、米国防総省が資金提供し、インド国立航空宇宙研究所と米陸軍がインドで開催した無人航空ロボット技術の国際大会に出場しました。「1キロ先の銀行に人質がとらわれ、地上部隊と連携して救出作戦に当たる」というシナリオのもと、自作のロボットで障害物や地雷原、人質やテロリストの把握などの「任務」に挑みました。入賞はならなかったけれど、その性能が注目されたといいます。 
 
 この千葉チームは2009年にも、米豪両軍が主催する軍事ロボットコンテスト(優勝賞金75万ドル)にエントリーしました。このコンテストは、市街地で非戦闘員と戦闘員を識別する自動制御の軍事ロボットの能力を競うというものです。ベスト6に残り、豪州で行われた本選に参加したそうです。 
 
▽「寛大な条件」が魅力らしい 
 日本の大学人や研究者は敗戦後、軍事研究は一切行わないと固く決意したはずですが、自分が研究テーマにしている課題を深か堀りするための研究費欲しさに、米軍の誘いに乗ってきたのです。 
 
 人工知能学会の会長を務めた京大の西田豊明教授は、赤坂のアジア宇宙航空研究開発事務所から一通のメールでの誘いで応募し、ロボットと人間が意思疎通を図る技術研究で2014年、2015年の2年間に1000万円の資金提供を受けました。「軍事研究に当たらないと思い応募した」「20人がいる研究室の維持に年間2000万円かかり、博士研究員を雇うためには、学外の資金が必要」と言っています。 
 
 米軍の資金は、日本の助成金に比べて、テーマの設定や使い道の自由度が高く、成果は学会で発表したり、論文を公表したりできます。これらは研究者の業績評価の対象にもなるのです。 
 
 米軍資金を得るため、自ら理事長になってNPOを立ち上げている国立大学の海洋研究関係の教授は「申請時に日本のようにレポートを何十枚も書く必要がなく、申請手続きが簡単だから」といいます。「お金は自由に使っていい」「報告は一編のリポート提出でよい」「学会などへの発表も自由」といった「寛大な条件」が魅力なのでしょう。 
 
 米軍にとっては、「日本で開発された新技術を利用したり、優秀な科学者を取り込み、協力研究者の人脈づくりをしたり、軍事援助の初期投資を節約したりすることも狙いである」と、池内了・名古屋大学名誉教授は指摘します。米軍の研究助成を受けている大学や研究機関は、「基礎研究だから」「平和利用だから」と弁明していますが、資金を出す米側は「ただでは出さないよ」と言っているのです。 
 
 2017年10月29日、日米の政府関係者や研究者などが国際問題を話し合う「富士山会合」で、渡辺秀明・前防衛装備庁長官は「日本は優れた素材研究を保有しており、米国との融合で革新的装備を生み出せる」と語りました。安倍政権が決めた「集団的自衛権行使」の軍事共同研究版が水面下で進んでいるのです。(つづく) 
 
(引用文献:杉山滋郎『「軍事研究」の戦後史』(ミネルバ書房)、池内了ほか『武器輸出大国ニッポンでいいのか』(あけび書房)、「朝日」、「毎日」、長州新聞、東京新聞・望月衣朔子記者の講演記録、 
武器輸出反対ネットワーク・杉原浩司氏ブログ) 
 
*「子どもと法・21通信」憲法リレートークNO2(2018年3月発行)から転載 


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