2018年09月13日22時15分掲載  無料記事
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コラム

フランス、レジ袋禁止から2年 ~ トウモロコシやジャガイモなどを原料にした“レジ袋” が登場  ~ Ryoka ( 在仏 )

   フランスで薄手のプラスチック製レジ袋の無料配布が禁止になったのは、2016年7月のこと。 
 
   プラスチックごみが大半を占める海洋汚染は深刻で、エコロジストなどにとっては待ちに待った法律だった。 
 
  あれから2年、法律は「レジ袋をできるだけ使わないようにしましょう」などというキャンペーンとは違って“無料配布の全面禁止”であり、いわゆる“レジ袋”は滅多に見かけなくなったが、素材や形が様々な代替品が出回るようになった。 
 
  代替品の中で最も環境に配慮したものとして注目されているのが、トウモロコシやジャガイモなどを原料にした“レジ袋”だ。見た目はプラスチック製のレジ袋にそっくりなのに触り心地がふわふわしていて、くしゃっと潰してもプラスチック特有の音がしない。そして何よりも、100%自然分解されると謳っている。 
 
  気になったので、どのくらいの速さで分解するのか水につけて実験してみたことがある。すると、2週間ほどで見た目が薄くなり、端の方がほころび始めた。そして、一か月経たった頃には、完全ではないが原型をとどめないくらいに分解された。 
 
   プラスチック製のレジ袋が首に巻き付いたまま成長して命が危険にさらされているアザラシの写真などがネット上に出回っているが、このトウモロコシの袋なら、あのアザラシは救われただろうし、イルカやクジラが間違って飲み込んでも、いつまで経っても胃の中に留まることもない。そもそもが、海に漂うプラスチックが減れば魚介類が誤飲する機会も減少し、それらを消費する私たちの食の安全にも繋がっていく。 
 
   とはいえ、原料の“トウモロコシ”にも色々あって、袋に「遺伝子組み換えでない」と表記してあるものもあれば、ないものもあり、「100%分解される」と書かれているだけで、何が原料かわからないものもある。一度、「100%分解される」と謳う袋を庭に雨ざらしにしてみたことがあったが、数か月たってもびくともしなかった。関連記事などによると、「100%分解される」と書いてあるものでも、一定の条件を満たす環境にない限り分解しないこともあるらしい。分解に何百年もかかるプラスチックよりはましなのかもしれないが、それでも原料が不明な上に分解されるかどうかは条件次第、などという代物を“環境に配慮した製品”として扱ってよいものか、首をかしげてしまう。 
 
   もう一つ、この法律に関して不可解なことがある。それは厚さが50μm以上(1μm=1ミクロン。1000分の1ミリ) のプラスチックのレジ袋の無料配布は認めている点だ。法律が禁止しているのはあくまで「使い捨てレジ袋」であって、厚みがあれば何度も繰り返し使われることを考慮した条件らしい。 
 
https://www.service-public.fr/professionnels-entreprises/actualites/008384 
 
   フランスで町の肉屋に行くと、客に要・不要を聞かずに、真っ白な分厚いプラスチックの袋をポンと渡されたりする。フランスの肉屋の肉は、大抵の場合、密封されずに紙で適当に包まれるだけなので、外側を防水可能な袋などで覆わなければならないのは事実。とはいえ、どれだけ厚みがあろうと、生の肉汁がついた袋は再利用しにくい。せいぜい、その日のゴミを入れるゴミ袋くらいにしかならない。 
 
  レジ袋の製造コストを見てみると、世界中に出回っている薄手のプラスチック製のレジ袋は0,5セント、トウモロコシなどの自然分解されるレジ袋は約5セントなので、トウモロコシ袋をこれまで通り無料配布するには経費がかかり過ぎる。だから小売業者の経営に差しさわりがない程度で、なお且つ薄手のレジ袋ほどの大量生産もできない“厚手のプラスチック製レジ袋”には目をつぶることにしたのかもしれない。とはいえ、結局プラスチック100%の袋が無料で配布されているのは残念でならない。 
 
   フランス政府は自然分解されるレジ袋の割合を2018年に40%、2025年までに60%にしましょう、と随分のんびりした目標を立てている。現在の品質や生産コストを考慮すれば、今後それらが改善されることを踏まえた現実的な計画と言えなくもない。しかし、私たちが本当に取り組まなければならないのは、レジ袋の代替品を作りつづけることではなく、レジ袋を使わない生活にシフトしていくことではないだろうか。 
 
   実際のところ、レジ袋をあれほど無料で配布してきたフランスの大型スーパーでは現在、ほとんどの客がマイバッグを持参している。フランス人は比較的ケチなので、ペットボトルをリサイクルした1ユーロ前後の有料バッグは滅多に買わない。買ったとしてもそれを何度も使いまわしたり、品数が少ない場合は手で抱えたり、袋の類は全く使わずに買った商品をカートから車のトランクにそのまま移し替えている人もチラホラ見かける。もともとレジ袋を配布していないオーガニック専門店などでは、店の端に使用済み段ボールが山積みになっていて、自由に利用できる仕組みになっている。レジ袋を使わない生活は可能なのだ。 
 
   問題は、これまでの習慣から抜け出せない、いや、抜け出す必要はないと思っている小売業界や飲食業界かもしれない。特に持ち帰りができる飲食業、つまりはファーストフードチェーンなどは、今回の法律制定後、その多くがプラスチック製のレジ袋から紙袋に移行した。その結果、街のゴミ箱は紙袋で溢れかえることとなった。 
 
   フランスマクドナルドのホームページを見てみると、紙袋はFSC認証を受けたパルプを使用し、あたかも環境に配慮しているようなことが書かれている。しかし、どれだけ森林が破壊されないように気をつかおうと、木を伐採していることに変わりはない。しかも、紙の生産には多くのエネルギーを要し(一袋につき約5リットルの水を要する)、CO2の排出量も無視できない。 
 
https://www.lemonde.fr/le-rechauffement-climatique/article/2009/12/03/le-match-du-jour-sac-plastique-ou-sac-papier-par-terra-eco_1275819_1270066.html 
 
   再生紙なら生産面でぐんと環境に優しくなるが、その反面、重金属などで汚染されていない、食品の出し入れに適した再生紙袋を作るには限度があり、コストが嵩む。 
 
   結局のところ、出かけるときには布製、できればオーガニックコットンのマイバッグを数枚持ち歩く癖をつけ、必要に応じて使い分けるのが最も理に適っていると言えるのではないだろうか。今はペットボトルを再生したポリエステル製の軽量&薄地のマイバッグのほうが重宝されているきらいがあるが、それもまた自然に廃棄される日がくれば何百年も分解されないゴミと化す。 
 
   欧州では6月はじめが持続可能な開発週間にあたり、各メディアが環境汚染の現状を伝えた。あるアメリカの調査によると、1950年から今日までに使われなくなったプラスチック製品は約60億トンで、そのうちリサイクルされたのはたったの9%、焼却されたのは12%、残りの79%は自然に廃棄されたままだという(※)。 
 
(※フランスの公共放送FRANCE2、2018年6月2日13時のニュースで報道) 
 
   フランス版ナショナルジオグラフィックの6月号によれば、たった3ミリのミジンコの体内からマイクロプラスチックと呼ばれる極小さいプラスチックの欠片が幾つも見つかったという。ミジンコでさえプラスチックを誤飲するならば、それより大きいシラスやイワシも当然呑み込んでいるはずだ。そしてそれを丸ごと食べる習慣のある私たちは、確実にプラスチックを体内に取り込んでいると言える。ここまでくれば、もう誰にとっても他人事ではないはずだ。 
 
   フランスは、国レベルではレジ袋の禁止に留まっているが、市町村や個人の規模では「ごみゼロ運動」というものが巷に広まりつつある。このご時世、ゴミを全く出さないというのは不可能に近い。だから「運動」がつく。とはいえ、ブザンソンという大都市に住みながら一か月間のゴミの量を370gに抑えた!と、ごみゼロ運動の活動家が発信したり、 
 
https://www.estrepublicain.fr/edition-de-besancon/2018/05/11/comment-limiter-ses-dechets-menagers-a-370-g-par-mois 
 
   普段はゴミを分別しているのに旅行先となると気が緩みやすい人間の性に着目して、ごみゼロを目指すgite(ジット)という短期貸家の経営を始める人がいたり、 
 
https://dailygeekshow.com/gite-zero-dechet-france/ 
 
  プレゼントなどに使用される包装紙などを無駄なものと判断して、開封後もそのまま袋として使用できる布製(当然、オーガニックコットン!)のプレゼント用袋や風呂敷のような布を販売するサイトがあったり、 
 
https://www.minipop.fr/ 
 
   静かにゆっくり、しかし着実に「ゼロ」に近づく活動がフランス各地で生まれている。 
 
   EUは2018年末までに50μm以下のプラスチック製レジ袋の無料配布をやめるよう、すべてのEU加盟国に呼びかけている。フランスではレジ袋に続いてプラスチック製の綿棒の製造・販売を2018年1月から禁止していて、2020年1月1日には、プラスチック製の使い捨て用のお皿やコップの製造・販売を禁止する予定だ。 
 
   だが、国や機関の決定を待っていては手遅れを助長しかねない。 
 
  最終的に汚れる海は繋がっているのだから、私たちの誰しもが地球上のどこにいても、常にゴミをゼロにする心持でいるくらいがちょうどいいのではないだろうか。 
 
 
Ryoka ( 在仏 ) 
 
 
※Loi 2015-992 (2015年8月に制定された自然エネルギーへの転換を目指す法律) 
https://www.legifrance.gouv.fr/affichTexte.do?cidTexte=JORFTEXT000031044385 
 
 
■ブルキニ騒動で私たちが聞き逃したこと  シャードルト・ジャヴァンによる「共和国にかかったベール」 Chahdortt Djavann (翻訳・紹介 Ryoka 在仏 ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201611232110453 
■フランスで命を狙われるタイ人たち    Ryoka (在仏ブロガー) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201611042136275 
■イタリア人の映画監督がイタリア中部アマトリーチェ地震の被災者らをパスタにたとえた風刺画を読み解く 〜母に捧げる風刺画の読み方〜 Francesco Mazza(翻訳 Ryoka) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201610200811454 
■シャルリー・エブドはなぜイタリア人被災者をラザニアに例えたのか 〜 風刺漫画について〜 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201610161954160 
■シャルリー・エブドのシリア難民を扱った風刺画について 〜批判に対する作者RISSの反論〜 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201510021439525 
■不可解な風刺画掲載本 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201503112107253 
■シャルリー・エブドは難民を馬鹿にしているのではない 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201509161922143 
■拝啓 宮崎駿 様 〜風刺画について〜 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201503102218542 
■「日本 川内原発が3・11のトラウマを呼び覚ます」 社会学者 セシル・浅沼=ブリス Cecile Asanuma-Brice (翻訳・紹介Ryoka) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201604221513295 
■フランスの原子炉相次いで停止、電力不足の懸念も   Ryoka (在仏ブロガー) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201610200750554 
■「またしても投票できず」 Ryoka ( 在仏 ) 〜海外在住の日本人の投票事情に関する日刊ベリタ編集部への緊急寄稿〜 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201710260123104 


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