2018年09月17日17時43分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201809171743071

アジア

南シナ海の衝突で日本が戦時に入る可能性  出光・帝石とベトナム国営石油会社の石油・ガス掘削と北京

  安保法制が想定する存立危機事態に入る危険が高い地域が南沙諸島沖である。ここはフィリピンやベトナムなどのアジア諸国と領海「九段線」を主張する中国との緊張にさらされている。そんな中、ベトナム国営石油会社ペトロベトナムが海底石油・ガス田の掘削事業に日本企業の出光興産および国際石油開発帝石と契約を結んだと8月に発表された。採掘現場が中国の主張する領海に近いことから、中国政府が介入してくる可能性もある、と見る人もいるようだ。 
 
  これが単なる妄想と言い切れないのはすでに過去に南シナ海でベトナムと提携したスペインの石油開発会社が中国から脅しを受けて撤退したことがあるからだ。その事件は昨年7月にBBCで報じられている。 
 
■ベトナムが南シナ海での石油掘削を停止 中国から脅しと業界筋(2017年7月24日) 
https://www.bbc.com/japanese/40701694 
  「東南アジアの石油産業の情報筋はBBCに対し、ベトナム政府が掘削に関わるスペイン・レプソル社の関係者に現場を離れるよう命令したと話した。ベトナム外交筋も事実関係を確認した。数日前には、レプソルが現地で大規模なガス田の存在を確認していた。業界筋によると、ベトナム政府は先週、レプソル幹部に対し、中国が掘削を続けるならベトナム軍が駐留する南沙(スプラトリー)諸島を攻撃すると脅したためだと説明したという。」 
 
  この件が起きた採掘予定現場はベトナム沖400キロということで、今回の日本の開発会社が採掘を行う現場は少しベトナムの海岸に近い300キロの地点だと言う。昨年の事態はベトナム側が引いた形になったが、独立の気概を持つベトナム人たちのナショナリズムが高まれば中国軍との間で戦闘が起きる可能性もある。実際、中国とベトナムは1979年に戦闘に突入したことがある。これは中越戦争と呼ばれている。今回は中国とベトナムの間に日本企業も介在している、ということは南シナ海で「存立危機事態」が近い将来に現実に起きる可能性がある、ということだ。 
 
  もし集団的自衛権を使ってベトナム海軍を護衛するために自衛隊が出動し、中国海軍とたとえ小規模だったとしても戦闘する事態になった場合、日本の世論は急速になだれを打って改憲に向かう可能性がある。中国が主張する領海のラインである「九段線」が、2年前にオランダのハーグにある仲裁裁判所で法的根拠を否定されたことも改憲を求める動きを後押しすることになるだろう。つまり、紛争が本当に起きるとこれまで改憲など必要ないと思っていた、右翼ではない、普通の人々まで改憲を支持することに傾いていく可能性すらはらんでいる。日本国憲法が掲げる平和主義の原則に焦点が当てられず、中国が正しいか間違っているか、という中国の是非が全面に報じられて日本の国民感情が武力解決に振り向けられてしまう可能性である。 
 
  その場合、日本政府による報道機関への直接統制も始まることになるかもしれない。実際、中国と戦時に入った場合、どこまで戦線が拡大するか確かなことは言えない。だが、改憲となるとまず徴兵制が敷かれ、さらに日本政府は核武装化を選択することになるかもしれない。その場合、危機の継続を理由に存立危機事態を解除せず、その間に日本政府が核兵器を完成させる、という可能性もあるかもしれない。 
 
  集団的自衛権を安保法制で認めた以上、もしこの件で中国との紛争が起きなかったとしても、今後続々とこの手の衝突の可能性は起きてくることになるだろう。 
 
 
■出光・国際帝石、越企業と南シナ海で資源共同開発(時事) 
2018年8月1日https://www.jiji.com/jc/article?k=2018080101006&g=eco 
■PetroVietnam, Japanese firms sign South China Sea gas deal amid tensions with Beijing(ロイター) 
https://www.reuters.com/article/us-vietnam-japan-southchinasea/petrovietnam-japanese-firms-sign-south-china-sea-gas-deal-amid-tensions-with-beijing-idUSKBN1KM3SO 
  ”Sao Vang-Dai Nguyet, located at blocks 05-1b & 05-1c 300 kms (186 miles) southeast of Vietnam’s coast, is 43.08 percent owned by Japan’s Idemitsu Kosan, 36.92 percent by Teikoku Oil (Con Son) Co. and 20 percent by PetroVietnam, the state oil firm said in a statement.” 
 
■PetroVietnam signs with Japanese companies(ベトナム経済タイムズ) 
http://vneconomictimes.com/article/business/petrovietnam-signs-with-japanese-companies 
 
■南シナ海 「九段線」中国の権益認めず 仲裁裁判所 
 (毎日  2016年7月) 
https://mainichi.jp/articles/20160713/k00/00m/030/015000c 
 「判決では、中国の主張する九段線の「歴史的権利」について「南シナ海で中国が独占的な管理をしてきた証拠はない」と断じ、中国の主張を退けた。 
 中国は九段線の主張を背景に、南沙(英語名スプラトリー)諸島の七つの岩礁で人工島造成を行い、滑走路などを建設し軍事拠点化を進めていると批判されてきた。判決により、造成を継続することに対しては「国連海洋法条約違反」として、国際社会の批判が強まる可能性が大きい。 
 判決ではさらに、七つの岩礁について、いずれも排他的経済水域(EEZ)が設定できる「島」ではなく「岩」か「低潮高地」と認定した。これにより、周辺海域での資源開発への主権的権利も中国は主張できなくなった。」 
 「判決は資源利用は国連海洋法条約の排他的経済水域(EEZ)の設定に基づくものであり、中国の「歴史的権利」は条約と「相いれない」と判断した。」 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。