2018年09月25日14時49分掲載  無料記事
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検証・メディア

南北首脳会談が浮き彫りにした疑問 朝鮮半島の戦争状態を続ける理由があるのか  Bark at Illusions

 先週行われたキム・ジョンウン朝鮮労働党委員長とムン・ジェイン大統領による3度目の南北首脳会談について、マスメディアはその成果を矮小化して伝えている。しかし国連総会が開催されるこのタイミングで、両首脳が「朝鮮半島全地域での実質的な戦争脅威の除去」や「朝鮮半島を核兵器や核の脅威のない平和の地」にしていくことなどで合意したことは、東アジアの平和と安定にとって大きな意義がある。両首脳は、朝鮮半島が未だに戦争状態にあることが如何に不合理なことであるかを国際社会に示すことによって、合衆国政府に対して朝鮮半島の非核化と平和体制構築のための交渉を始めるよう求める国際世論を喚起する上で重要な役割を果たした。 
 
 マスメディアは「北朝鮮」の非核化ばかりに注目し、朝鮮が非核化に「前提条件」を付けた、「北朝鮮の非核化が進むかは不透明」、今回の合意では合衆国政府は「到底終戦宣言には応じられない」などと見当違いな言葉を並べ立てて首脳会談の成果を矮小化して伝え、非核化に向けた行動をとる朝鮮政府については『非核化カード小出し』(日経18/9/20)、『韓国取り込み主導権狙う』(毎日18/9/21)、キム・ジョンウンの「狙いは……体制の保証を得ること」(ニュースウォッチ9 NHK 18/9/18)などと述べ、ムン・ジェインについては「南北融和の促進をてこに、経済政策の不発で急落した支持率を再浮揚させる思惑もあった」(日経18/9/21)、「韓国が非常に前のめりになっている」(後藤謙次 報道ステーション18/9/19 )、「やっぱりムン・ジェイン大統領がちょっと走っているような印象ですかね」(富川悠太 同)、『文氏のすり寄り 懸念』(朝日18/9/20)などと述べて、朝鮮半島問題の平和的解決に向けて尽力する両国の努力を貶めている。そして合衆国のドナルド・トランプ大統領についても、「前のめり感」が「際立って」おり、「北朝鮮が望む朝鮮戦争の終戦宣言に応じてしまうのではとの懸念が付きまとう」(朝日18/9/20)などと述べている。 
 
 こうしたマスメディアの主張は、6月の米朝首脳会談での合意を無視している。首脳会談で米朝が合意したのは、「北朝鮮の非核化」ではなく「朝鮮半島の非核化」であり、「双方の国民の平和と繁栄を希求する意思に基づき、新しい米朝関係を構築すること」や「朝鮮半島の永続的かつ安定的な平和体制の構築に共同で尽力する」ことでも合意している。 
 
 朝鮮戦争の終戦宣言をすることについては、在韓米軍撤退の根拠にされるとか(米軍が国外の土地を占領し続けることに何の疑問も抱かぬ態度自体問題だが)、朝鮮に対して軍事的圧力が使えなくなるなどといった主張や、朝鮮に対する国際的な経済制裁が緩むことを心配する声もあるけれども、朝鮮政府は在韓米軍の駐留は容認するとこれまで繰り返し表明している。また武力による威嚇は国連憲章で明確に禁じられており、朝鮮に対する経済制裁に関する国連安保理決議については、朝鮮政府の決議の遵守状況に応じて「強化、調整、停止又は解除する」ことになっている。 
 
 マスメディアは朝鮮側が米朝首脳会談の合意に沿った行動を取る度にケチをつけて朝鮮政府にばかりさらなる行動を求めているけれども、依然として合意を守ろうとしないのは、合衆国政府の方だ。米朝間の交渉が停滞しているのは、朝鮮戦争の終結を拒み、朝鮮半島の平和体制構築に向けた交渉に臨もうとしない合衆国側に責任がある。 
 そしてこれまでの歴史は、いつも合衆国政府が先に約束を破って朝鮮半島の非核化と平和に向けた合意をぶち壊してきた(日刊ベリタ18/3/12)。トランプは歴代の大統領と同じ誤りを繰り返すのか。それとも合意を守って朝鮮半島の平和体制構築に向けた交渉を始めるのか。それが常にこの問題の焦点だが、合衆国政府内には依然として朝鮮半島問題の平和的な解決を妨害しようとする勢力が存在する。平和的な解決に向けたトランプの決断を後押しするためにも、国際的な世論がますます重要になってくる。 
 
 今回の首脳会談で韓国・朝鮮両首脳は「民族自主と民族自決の原則を再確認」し、「民族的和解と協力、確固たる平和と共同繁栄」のために南北関係を発展させることや、「朝鮮半島全地域での実質的な戦争脅威の除去」、「朝鮮半島を核兵器や核の脅威のない平和の地」にしていくことなどで合意した。また共同宣言文の付属文書として「軍事分野合意書」にも署名し、「地上と海上、空中をはじめとする全ての空間において……一切の敵対行為を全面中止する」ことや、「いかなる場合にも武力を使用しないこと」で合意した。韓国大統領府のチョン・ウィヨン国家安保室長曰く、「事実上の南北間の不可侵合意」だ。韓国・朝鮮両政府を含め朝鮮半島に住む人々は、もはや誰も戦争を続けることを望んでいない。当事者が望んでいないにもかかわらず、これ以上戦争状態を続ける理由がどこにあるのか。この問いを国際社会に示したことの意義は大きい。 
ムン・ジェインはまもなく国連総会の演説で今回の南北首脳会談の成果をアピールだろう。沖縄タイムス(平安名純代 18/9/19 電子版)によれば、韓国・朝鮮両政府は4月の首脳会談で合意した「板門店宣言」を国連の公式文書として加盟国に配布するよう要請している。また「アメリカ第一主義」を前面に掲げるトランプの大統領就任以来、合衆国が国際的な信用を失いつつある一方で、「『戦争はしない』と北朝鮮と地道に対話を進め、米朝会談を実現させた韓国と、それを後押しした中国への信用が高まり、国際社会における相対的な関係は変化している」。 
 
 同じ東アジアの一員として、日本からも朝鮮戦争の終結を求める強い声があれば、朝鮮半島問題の平和的な解決に向けてさらに大きな力になると考えられるが、マスメディアは相変わらず平和的解決に向けた関係国の動きに冷水を浴びせることに躍起になって、日本の世論を害している。 


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