2018年10月26日15時25分掲載  無料記事
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検証・メディア

政府の見解が正しいという前提でニュースを伝えて世論をミスリードするNHK  Bark at Illusions

 NHKは公共放送を自負しているにもかかわらず、政府の見解が正しいという前提でニュースを伝え、それに反する情報は問題の本質を知る上で重要な情報であっても省略し、政府の推し進める政策を受け入れる世論を創り出そうとしていることが珍しくない。米軍の辺野古新基地建設のための埋め立て承認を沖縄県が撤回したことへの対抗措置として、日本政府が承認撤回の効力停止を求めて申し立てを行ったことを伝えるニュースもそのひとつだ。 
 
 NHKの主要ニュース番組であるニュース7(18/10/17)とニュースウォッチ9(18/10/17)は、沖縄県の埋め立て承認撤回への対抗措置として防衛省が国土交通省に行政不服審査法に基づく審査請求と執行停止の申し立てを行ったことについて、「法的な対抗措置」であることを繰り返し伝えて強調し、防衛省が国土交通省に申請したことに関しては、埋め立て承認の根拠となる法律を所管しているのが国土交通省だからだという説明だけで済ませている。そして「国の姿勢は県知事選挙で改めて示された民意を踏みにじるものであり到底認められるものではありません」という玉城デニー沖縄県知事の抗議の声は伝えているものの、「目的は普天間の危険性の除去と返還にございますので、それが1日も早く実現できるように引き続き努力してまいりたい」という岩屋毅防衛大臣や、「沖縄の負担軽減、これを目に見える形で実現する。こうした政府の取り組みを丁寧に説明さして頂いて、新知事のご理解ご協力を得られるよう粘り強く対応していきたい」という菅義偉官房長官のコメントを紹介して、あたかも政府が沖縄県の負担軽減のために正当な方法で「普天間基地の辺野古移設に反対」(この言い回しについては後述する)する沖縄県に対抗しているかのような印象を与えている。 
 
 しかし、政府の対応は正当ではない。行政不服審査法というのは、「国民の権利利益の救済」を目的としており、行政不服申立は、国家権力から国民の権利を守るための制度だ。申し立てる側が「私人」であることが前提であり、国家が「私人」に成りすまして行政不服申立することは「制度の乱用」だと多くの弁護士が指摘している。 
 
 玉城デニー沖縄県知事は政府の措置に抗議する声明(18/10/17)の中で、これについて次のように明確に述べている。 
 
「行政不服審査法は、国民(私人)の権利利益の簡易迅速な救済を図ることを目的とするものであります。一方、公有水面埋立法の規定上、国と私人は明確に区別され、今回は国が行う埋め立てであることから、私人に対する「免許」ではなく「承認」の手続きがなされたものであります。そのため、本件において、国が行政不服審査制度を用いることは、当該制度の趣旨をねじ曲げた、違法で、法治国家においてあるまじき行為と断じざるを得ません」 
 
 ニュース7は、玉城デニーの同じの声明の中から、「執行停止がなされれば内閣の内部における自作自演の極めて不当な決定と言わざるを得ません」という部分を引用しているが(ニュースウォッチ9はこの部分の引用はしていない)、核心部分を省略していて、政府の対応が不当である事を視聴者に伝えるには不十分だ。 
 また「沖縄の負担軽減」というのも口先だけだ。沖縄県民は、普天間基地を同じ沖縄県内の辺野古に移設したのでは「危険性の除去」や「沖縄の負担軽減」にはならないと判断して、9月の県知事選挙で辺野古新基地建設に明確に反対していた玉城デニーを知事に選んだのではないのか。前述の玉城デニーの声明の中でも述べられている通り、玉城デニーが安倍晋三や菅義偉との会談で「対話による解決」を求めてから「わずか5日後に対抗措置を講じた国の姿勢は、県知事選挙で改めて示された民意を踏みにじるもの」であり、日本政府が沖縄の負担軽減を真剣に考えているなどとは考えられない。なりふり構わず強硬な態度で沖縄の民意を踏みにじる一方で、防衛省が申し立てを行った翌日の18日、岩屋毅防衛大臣が表敬訪問に訪れたマルティネス在日米軍司令官に対し、普天間基地の辺野古への移設を「着実に進めることに揺るぎはない」と伝えている(朝日18/10/19)ことからも、辺野古新基地建設が沖縄県民のためではなく米軍のためであることは明らかだ。 
 
 さらに辺野古新基地建設を巡るNHKのニュースの伝え方について付言しておくと、NHKはいつも、沖縄県が「辺野古新基地建設」に反対しているとは言わずに、「普天間基地の辺野古移設」に反対していると伝えている。これは例えば、「辺野古の新基地建設には反対であるという立場で、この度その民意を預かった」と述べる玉城デニーのVTRを流したすぐ後でさえ、「(玉城が)繰り返し述べたのは、辺野古への移設反対の民意という言葉」と言い換えてナレーションを入れている(ニュースウォッチ9 18/10/12)。日本政府は辺野古への移設が普天間基地問題の「唯一の解決策」だと考えており、これもNHKが政府の見解が正しいという前提でニュースを伝えていることを示している。些細なことだと考える人がいるかもしれないけれども、「普天間基地の名護市辺野古への移設反対を訴えて当選した玉城知事」(同)とか「普天間基地の辺野古移設に反対していた翁長前知事」(同)と聞けば、事情に詳しくない人は世界一危険な普天間基地の移設を沖縄県が妨害しているかのような印象を受けないだろうか。 
 
 NHKが政府の見解が正しいという前提でニュースを伝えて世論をミスリードするのは、沖縄の米軍基地問題に限ったことではない。最近の例を挙げると、先月行われた日米首脳会談では日米両政府が物品貿易協定(TAG)の交渉を行い、TAG交渉完了後に「サービスや他の貿易・投資分野についても交渉を行う」ことで合意し、事実上安倍政権は断固拒否すると言ってきた合衆国との二国間による自由貿易協定(FTA)交渉を容認したにもかかわらず、これについて伝えたニュース7(18/9/27)とニュースウォッチ9(同)は、「TAG交渉は、包括的なFTAとは全く異なる」と主張する安倍政権の説明を強調して、その真偽についてはほとんど問題にしていない。また、電力の需給バランスが崩れることによる大規模停電を防ぐために九州電力が週末に太陽光発電の事業者に対して発電停止を求める見通しであることを伝えたニュースウォッチ9(18/10/8)は、「原発は一時的に発電量を減らすことが難しい」とか「余った電気は大きな蓄電池にためるとか、他の電力会社にもっとたくさん売るとか、手はありそうなんですけれども、それにはコストがかかりますというのが電力会社の説明なんです」と九州電力の説明を無批判に紹介し、「ベースロード電源」として原発を優先している政府のエネルギー政策について全く批判しようとしていない。 
 
 政府の見解が正しいという前提でそれを無批判に伝えることが公共放送に求められていることではない。これではNHKは公共放送ではなく、日本政府のプロパガンダ機関(品のある言い方をすればPR機関)ではないか。 


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