2018年11月07日15時59分掲載  無料記事
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検証・メディア

徴用工訴訟 韓国最高裁判決 問われているのは日本社会そのもの  Bark at Illusions

 個人請求権は消滅していないとして日本企業に元徴用工への賠償を命じた10月30日の韓国大法院(最高裁判所)の判決について、日本政府は徴用工を巡る問題は日韓請求権協定(1965年)で既に解決済みだと主張して「国際法に照らしてあり得ない」とか「国際社会の常識では考えられない」などと非難し、韓国政府に対して「毅然とした対応」を求めている。そんな日本政府をマスメディアも全面的に支持しているが、日本政府のそのような態度こそ、「国際法」に反しており、非常識で、非難されるべきだ。 
 
 韓国最高裁の判決を受けて、日本政府は、安倍晋三が 
 
「本件については1965年の日韓請求権協定によって完全かつ最終的に解決しています。今般の判決は国際法に照らしてあり得ない判断であります。日本政府としては毅然と対応してまいります」 
 
と述べ、外務大臣の河野太郎も韓国の駐日大使を呼びつけて 
 
「法の支配が貫徹されている国際社会の常識では考えられないことが起こっています。これまで日韓は未来志向の関係を作っていこうと努力をしてまいりしたが、今日、大使にこういうことを申し上げなければならないのは極めて心外であります」 
 
と抗議し、韓国のカン・ギョンファ外相に対して 
 
「(日韓請求権協定が)損なわれれば韓日関係・日韓関係に影響が出ないことはありません」 
 
と述べるなど、元徴用工だった原告の男性の救済など一顧だにしない姿勢を示している。 
 
 マスメディアも、このような日本政府の態度を全面的に支持している。例えばNHKは、夜の主要ニュース番組であるニュース7(18/10/30、18/10/31、18/11/1)とニュースウォッチ9(18/10/30、18/10/31、18/11/1)で、日本政府の「韓請求権協定によって、完全かつ最終的に解決済みだ」という主張を全く疑うことなく連日繰り返し伝え、「毅然と対応していく」と述べて被害者である原告の救済など全く念頭に置かぬ日本政府を批判することなく、「未来志向の日韓関係を強調してきたムン政権の姿勢が今、真正面から問われています」(NHKソウル支局長・高野洋 ニュース7 18/10/31、ニュースウォッチ9 同)などと述べて韓国政府の対応に注目している。 
 
 朝日新聞社説(18/10/31)も、日本政府に対して 
 
「多くの人々に暴力的な動員や過酷な労働を強いた史実を認めることに及び腰であってはならない」と戒めてはいるものの、「日韓請求権協定で解決済み」とする日本政府の主張を疑わず、「今日まで築き上げてきた隣国関係が台無しになりかねない」、「国内の事情によって国際協定をめぐる見解を変転させれば、国の整合性が問われ、信頼性も傷つきかねない」などと述べて、韓国政府に「事態の悪化を食い止めるよう適切な行動」をとるよう求めている。毎日新聞社説(18/10/31)も同じように「日本政府が『断じて受け入れられない』と表明したのは当然である」と述べて日本政府の主張を支持し、「一方的に条約や協定の解釈を変更するなら、国際法の規範をゆがめ、日韓関係に大きな対立を生むのは避けられない」、「主体的に問題解決を図るべきは韓国政府だということを自覚してほしい」などと述べている。 
 
 日本政府もマスメディアも、韓国の最高裁判所がこれまでの日韓両政府の立場と違う見解を示したと言って問題視しているが、近代国家の普遍的な原理といえる三権分立の原則から、最高裁が政府と異なる見解を示すのは当然のことではないだろうか。行政府が署名した条約や協定を、立法府である議会が承認しないことはいくらでもあり得るし、司法が行政府の条約締結やそれを承認した立法府の行為を違憲と判断することだって十分にあり得る。韓国の最高裁は、権力の乱用を防ぐために司法としての当然の役割を果たしたに過ぎない。日本政府が三権分立の原理を理解せずに韓国の司法の判断に言いがかりをつけている事の方がよっぽど「法の支配が貫徹されている国際社会の常識では考えられない」。 
 
 また日本政府の言いがかりは、日韓請求権協定が損なわれれば「日韓関係に影響が出ないことはありません」などと恫喝していることから、通常の抗議の範疇を超えて内政干渉にあたるのではないか。そうなれば、日本政府こそ、国際法の原則に反していることになる。 
また個人請求権については、1993年に国連人権委員会に提出されたファン・ホーベン国連最終報告書で示された通り、重大人権侵害の「すべての被害者は公正で十分な補償を受ける権利があり、その補償には金銭補償、違法行為者の処罰、謝罪または償い、再発防止の保障などが含まれる。重大な人権侵害には処罰と補償が必要であり、国際法上、時効はない」(内海愛子『戦後補償から考える日本とアジア』山川出版)というのが国際的な常識ではないか。日本政府も以前は個人請求権を認めていたはずだが、現政権はこの点でも国際的な常識から逸脱している。 
 
 日本政府が被害者の救済に全く関心がないのは見ての通りだが、国際労働機関(ILO)の専門家委員会は1998年に戦時中の日本の強制労働の問題は強制労働に関する条約(1930)に違反していると結論付け、日本政府に対して強制労働者の請求に応えるよう望む趣旨の勧告を度重ねて発表している(2000年、2009年、2012年)。「国際法に照らしてあり得ない」のは、やはり日本政府の方だ。 
 
 日本政府やマスメディアは韓国政府に対して「毅然とした対応」をとるよう求めているけれども、今問題になっているのは、被害者である強制労働者が救済されていないということだ。日本政府やマスメディアが盾にしている日韓請求権協定で日本政府が韓国に供与した5億ドルは、日本政府も認めている通り、賠償ではなく経済協力だった。つまり日本側は日本の植民地政策の被害者に対して明確な謝罪も賠償も行っておらず、原告の男性らは日韓請求権協定では救済されていない。 
 
 この事実は、この問題を理解する上で最も重要なことであり、日本人が歴史と向き合う上で、また良好な日韓関係を求めるならより一層、知っておかなければならないことだ。しかしマスメディアは歴史修正主義の安倍政権と歩調を合わせ、あたかも日本が韓国に対して十分な償いをしてきたかのような誤った印象を与え、日本の植民地政策で苦しめられた被害者が未だに救済されていないという事実に気付かせないようにしている。 
 
 日本の植民地政策や侵略戦争の場合に限らず、世界でこれまでに起きた暴力や人権侵害などの犯罪は、加害者の被害者への直接の謝罪と補償なしに解決しない。これは心ある人にとっては自明のことではないか。原告の男性はもちろん、未だに救済されていない強制労働者の人たちの救済をどうすべきか。 
 
 極めて残念なことに、日本政府と同様、日本の植民地政策の被害者の救済に関心を示すマスメディアはほとんど皆無だった。 
安倍晋三や河野太郎ら日本政府、それを擁護する与党、政府を批判しない野党とマスメディア、解決済みだと居直る加害者の日本企業は、日本の恥だ。 
 心ある人は、抗議の声を挙げよう。韓国最高裁の判決で、日本人の歴史認識、国際感覚、人間性、さらには日本社会そのものが問われている。 


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