2018年12月23日16時20分掲載  無料記事
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市民活動

「いい香り」に含まれる化学物質が心身の健康をむしばんでいる。「香害」の実態を伝えるための映画「香害110番」の製作が始まっている 上林裕子

 「隣の洗濯物のにおいで頭痛や吐き気がする」など、香りによって体調不良を訴える声が多く聞かれるようになった。原因は2000年代後半からブームとなった香りの強い柔軟仕上げ剤が原因とみられる。日本消費者連盟が2017年に実施した「香害110番」には213件もの相談が寄せられた。ほとんどの相談が、近隣の洗濯物などが原因で、自分では防ぎようがないのが実態だ。「これは公害だと知らせてほしい」との被害者の声は切実だ。しかし、「香りで体調を崩す」ということはなかなか理解されない。日本消費者連盟では香りの害の実態を知ってもらうための映画「香害110番」を作成することにした。制作費50万円はクラウドファンデングで募集している。 
https://motion-gallery.net/projects/kougai110 
 
■柔軟剤原因、国民生活センターも情報提供 
 
 香りの問題が表面化してきたのは2010年頃からだ。柔軟仕上げ剤の香り効果がテレビCMでクローズアップされ、柔軟効果よりも香り効果を求めて使用されるようになった。時間が経っても香りが持続するマイクロカプセル効果などの技術も開発され、香りの強さと持続性が香りに敏感な人々をさらに苦しめる結果となった。 
 
 同センターの発表では、相談者の26%は自分の使用した柔軟仕上げ剤で体調不良を発症しており、74%が他人の使用した柔軟仕上げ剤が原因だった。 
 
 2017年の日本消費者連盟の「香害110番」では、ほとんどの人が他人の使用した柔軟仕上げ剤で体調不良を発症している。「これはもう、受動喫煙と同じで自分では防ぎようのない問題」と相談を受けた日消連洗剤部会会員は語る。 
 しかし、受動喫煙であるなら喫煙が問題であるとの共通認識が持てるが、香りの害の場合は原因が近隣の洗濯物であるために「神経質な人といった偏見の目で見られ、孤立し救済されない」というのが現実だ。 
 
■原因化学物質の特定が急務 
 
 なぜ香りが原因で体調不良を引き起こすのか。110番に寄せられた訴えによると症状は頭痛、吐き気、めまい、味覚障害、脱力感など様々だ。香料メーカーによると、製品の香り付けには普通原料を数十〜数百種類ブレンドした調合香料を使用するという。 
 
 ぜんそくがあり、柔軟仕上げ剤で症状が悪化するという人は「柔軟剤だけではなく消臭除菌剤にも反応する」と語っている。 
香料で症状が出るのは化学物質過敏症の一症状と思われるが、香料の中のどの化学物質が症状を引き起こすのか特定は難しい。さらに香料への過敏症を引き金に、他の化学物質への過敏症を発症する恐れもある。 
 
 国民生活センターは事業者団体等に対し、「においが与える周囲への影響について配慮を促す取り組みを行うよう」要望し、業界団体である日本石鹸洗剤工業会もこれに応え会員社に対し消費者への周知や香りの強さ等をホームページ等で表示することなどの対策を取るよう働き掛けてきた。また、消費者に対して適正量の使用を呼びかけてきたが、110番を終えた日消連は「自分で使用していないのに被害を受ける香料の害はまだ広く認知されていない」「化学物質過敏症は日用品が原因で誰でも発症する可能性がある。今後子どもたちに発症させないためにも、国が原因物質を特定して削減していくことが急務だ」と指摘している。 


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