2019年01月03日21時12分掲載  無料記事
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農と食

最先端の科学技術と人権無視の労働が同居 ーこの国の農業が心配だ

 スーパーマーケットをのぞく。明るい照明と適温で管理された空間が広がり、食べものがあふれています。その食べものがどこでどんなふうに作られ、どこから来たかを気にする人はそんな多くありません。ところが現実には、食べものの作り方も、その食べものを生産する農業をめぐる環境も目まぐるしく変わりつつあります。そして“攻めの農業”“海外に打って出るニッポン農産物”といった威勢の良い掛け声が降ってきます。農業をめぐる最新のトピクッスはAI(人工知能)・生命操作といった最先端の科学技術の農業への導入、そして外国人労働者の大量受け入れです。その一方で、小さな小さな作り、分け合い、食べる営みもまだまだ生きています。国のめざす農業、人びとの小さな営み、その両面から私たちの食べものは、そして農村はどうなるのだろうを考え、追ってみました。(大野和興) 
 
 
人はいらない 
 
 敗戦後、農地改革で地主の国から自作農の国になってほぼ70年。この間農業にとってもっとも大きな変化は、1960年代初めの農業近代化でした。それは一連の技術革新として進められました。化学化、人械化・装置化、大規模化に農業予算が集中的に投下され、農業の仕組み、働き方、村の風景まで一変しました。 
 
 それから50年余。いま農業に第二次技術革新・近代化が始まろうとしています。AI農業、農水省は「スマート農業」を呼んでいます。ロボットやドローンなどを使って生産性アップを狙った技術革新です。農水省の予算要求書によると、政策目標は(狆貽發任稜正,亮動走行システムの市販化、農林水産業・食品産業分野での省力化のためにロボット導入―といった言葉が並んでいます。そしてご丁寧に「安倍総理から2020年までの遠隔監視の農業機械の無人システムの実現について御指示があったことを踏まえ」という文言が付け加えられています。これからの日本経済成長の要のひとつとなるAI市場に農業を組み込むことを狙っているとも読み取れます。 
 
 問題は、その結果何が起こるのか、ということです。それぞれの技術には、それに応じた経営形態や規模があります。AIとなると、相当の投資規模となります。高齢化が進む農家にとって、設備投資のための借金を背負うのは無理です。農業継続をあきらめた農家の土地は、農業外から農業に参入する企業を含む企業的農業に集積され、経営の大規模化が進むことになります。山形県置賜地域で、自民党議員の議会報告会があり、農業に強い若手議員がスマート農業の未来を強調していました。それを聞いていた50代後半の働きざかりの農民が「それで俺たちはどうなるんだ」と質問したのが印象的でした。 
 
土もいらない 
 
 今年5月、農地法が改正され、底面を全面コンクリートで覆った土地も農地とみなすことになりました。これまでは、水耕栽培などで底面をコンクリート化した土地は農地と認められていませんでしたが、今後はそれも農地をみなし、税金も農地並みとするというものです。スマート農業の一環でもある植物工場の広がりを見越しての制度改正です。 
 
 これは、これからの農業の姿を考える上で象徴的な出来事です。かつて農家のもっとも大切な仕事は土づくりでした。土はすべての循環の根っ子でもあります。いま、国が土のない「農地」を農地として認めたのです。コンクリートの「農地」の上には当然上物がつくられます。コンクリートの上で育つ作物を照らすのは太陽ではなく人工照明です。土とお日様、植物の成長を支える自然の恵みを遮断して成り立つ農業に時代が始まったのです。 
 
重労働は外国人労働者に 
 
 これまでも日本は技能実習生という形でアジアの若者たちを農業に受け入れてきました。いま進んでいるのは、より大規模にアジアから単純労働者として農業労働者を移入しようというものです。農業分野の場合、外国人労働者は派遣会社に雇われ、農場や食品加工などの分野に派遣するという仕組みがつくられます。農業は季節作業なので繁忙期と暇な時期がります。の作業は加工処理が終わって人手がいらなくなったらクビが切れることを見越しての制度設計です。 
 
 現在国内でどのくらいの外国人労働者が農業に従事しているかについては、農水省でも「データがない」状態です。わかっているのは技能実習生としておよそ2万5000人が農業分野で働いているという数字です。技能実習生というのは、日本の優れた技能を習得させて出身国の発展に貢献するという大義名分をもっているのですが、実際には、政府が管理する安上がり労働力の派遣事業となっています。 
 
 その一方で農業従事者の高齢化と、それに伴う労働力不足という現実があります。実際、大都市市場向けの野菜の大きな産地、例えば長野、群馬の高原野菜、茨城県南部のメロンや野菜、栃木のイチゴ、夕張のメロンなどでは、外国人労働者なしに産地が維持できなくなっているのは事実です。外国人労働者がいなくなると、東京の消費者は野菜を食べられなくなるといっても過言ではありません。 
 
 これら外国人農業労働者の労働環境の悪さも定評があります。ろくに食事がとれず、除草で放牧されていたヤギを食べて窃盗で逮捕されたベトナムからの実習生もいます。2014年8月、岐阜県美濃加茂市での出来事です。長野のトマト農園で働いていた二人のベトナム人は、あまりにひどい扱いに耐えかね農場を逃げ出し、事件を起こしました。 
 裁判で明らかにされたその労働実態を見ると、労働時間は毎日午前6時から翌午前2時まで。午後5時までは自給は750円だが、そのあとが収穫1袋いくらの出来高払い。一千袋詰めた日もある。「寮」は農機具小屋、トイレもない。寝起きする空間は電源盤下の約2平方メートルしかなく、家賃として月2万円を給料から差し引かれていました。岐阜地裁が出した判決は、執行猶予付きの懲役2年の有罪判決でした。 
 
国連人権委でも問題視 
 
  2018年8月16日から17日にかけて開かれた国連人種差別撤廃委員会では慰安婦問題や人身売買、ヘイトスピーチやアイヌ差別と合わせ日本の外国人技能研修生の実態が問題になりました。国連側から日本政府に対し、研修制度は人権保護の目的においては不十分であるという指摘があったのです。 
 
 日本における外国人農業労働者は、政府の管理下にある技能実習生でさえこうした実態に置かれているのです。これからはじまる外国人労働者の農業への受け入れで主役になるのは派遣会社で、運営は民間に移ります。日本人相手でさえブラック雇用を生みだし、貧困拡大の温床となった派遣制度が、そのまま言葉もできず、日本の法律知識もない外国人労働者に適用されることになります。 
 
 彼らは派遣労働者だから実際に働く農場や農産物加工場に雇用責任はありません。全国の農山漁村に働き場が散らばったら、労働基準監督署も管理のしようがなく、 長時間労働、賃金未払い、人権侵害の温床となることは目に見えています。 


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