2019年01月18日22時24分掲載  無料記事
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韓国

韓国労働運動の息吹に触れた4日間(2)〜2018年11月労働者大会参加と日韓連帯・交流報告

【11月10日(土)2日目】 
 
<韓国サンケン労組の元気な仲間と久しぶりに交流> 
 
 この日は労働者大会の当日であったが、午前中はソウル市内にある民主労総金属労組の会議室で韓国サンケン労組と交流会を行った。サンケン労組から菊花茶とお菓子などをお土産にいただいた。 
 オ・ヘジン分会長から会社復帰後の近況を聞いた。 
「会社が労組を認めようとせず、賃金カットや嫌がらせがあり、交渉もうまくいかなかった。ところが8月頃から態度が変わってきた。日本本社から『労組と上手くやるように』と言われたようだ。2018賃金交渉は上手くいって調印式も行った」 
 続いて、指導委員のキム・ウニョンさんからは、前分会長のヤン・ソンモさんの病状についての報告があった。 
「喉頭がんで治療中だが、地域の人や金属労組で支援している。日本からも応援のメッセージやカンパをいただいたことに感謝している」 
 
 交流会には、午後からの労働者大会と事前集会の準備で忙しい中、金属労組のキム・ホギュ委員長、シン・スンミン主席副委員長、ファン・ウチャン事務局長の三役が揃って顔を見せた。 
 キム・ホギュ委員長は 
「韓国サンケン労組の争議支援に感謝したい。最近、私が組合員の教育で使っているのが、日本の1987年頃に国労で歌われた『人間の歌』です。国労の闘いの中で200名くらいの方が亡くなられ、作られた『人間の唄』です。セウォル号被災者のお母さんたちの合唱団にも『人間の歌』は通じるところがあります。 
 また、私たち労働者にも、生きることに、そして労働に希望を与える重要な歌なので、組合員に紹介しています」と発言した。 
 
 大労組の三役が揃って超忙しい中、ほんの小さな交流の場に挨拶に見えたのもびっくりした。大労組の大幹部というと、どこか遠い存在、官僚的な存在と感じるが、キム・ホギュ委員長から、日本の労働運動の中で生まれた『人間の歌』の話を聞くとは思わなかった。「『人間の歌』を組合員教育の題材に取り上げるセンスを持ったキム・ホギュ委員長は、きっと感性豊かな、人間性が豊かな人なんだな」と感じるとともに、これまでの大労組幹部のイメージを打ち壊すショックを受けた。 
 金属労組は組合員18万人を擁する大産別だが、「韓国の労働運動の幹部は違うな」と改めて感じた。主席副委員長の話では、ホギュ委員長は文学や詩に造詣が深いそうだ。 
 金属労組からはカバン、労働者大会用の防寒具やハチマキ、バッジをいただいた。 
 
<キム・ウニョンさん「サンケンの闘いは単なる日韓連帯でなく、共に生き、共に闘うということ」> 
 
 続いて、指導委員のキム・ウニョンさんが「情勢と労働運動の方向と課題」のテーマで、映像を使いながら話した。 
 キム・ウニョンさんによれば、2008年のリーマンショックまでを「オールド・ノーマル時代」とすれば、それ以降は「ニュー・ノーマル時代」であるとして、次のように問題提起した。 
「米国中心の覇権秩序が崩壊し、新興国が興隆している。しかし軍事的には、米国が世界規模で米軍基地を展開し、東アジアでは中国に対抗して戦争の火種を残している。 
 世界の米軍基地は700か所以上70か国にわたっている。その中でドイツ174、日本113、韓国83、イタリア50ある。 
 独裁政権と環境破壊、性暴力の温床である米軍基地を撤収することが民主主義を取り戻す闘いとなる」 
 
「日本帝国主義の侵略の歴史は、過去の問題ではなく現在進行形の問題。過去の歴史と真摯に向き合い、国家的な賠償が必要だ」 
 
「韓国や日本でアメリカ軍を追い出し、北東アジアにおける平和を確立するためには、日本と韓国の労働者・民衆が力を合わせなければならない。韓国サンケンの闘いは単なる日韓連帯ではない。共に生き、共に闘おうということだ」 
 
 質疑で、文在寅政権の評価を問われたウニョンさんは、 
「本質は“親米”で“中道”。財閥解体・改革もない。朝鮮半島の自主権放棄・韓米同盟重視だ。アメリカに引っ張られることについては、きっぱり批判していく。幻想を持つのは良くないが、平和政策については、牽引すべきだ」と答えた。 
 報告の最後にウニョンさんは、 
「これから2年くらいは激動の時代となる。2015年の民衆蜂起はキャンドル革命に発展したが、労働者階級が先頭に立つことはなかった。この歴史を繰り返してはならない。自主統一の力量強化が必要だ。米帝国主義に対抗し、労働者階級の立場から、未来に向かって手を取り合って進もうではないか」と結んだ。 
 
 交流会の最初から最後まで、金属労組国際局長のチョン・ヘヨンさんが参加してくださり、いろいろ世話をしてくれた。 
 
<青瓦台に肉薄する労組の事前集会。非正規労働者のデモに招かれる!> 
 
 昼食後に、金属労組韓国GM労組のキム・チャンゴンさんが合流。青瓦台の前で「全教祖」が座り込み闘争をしていると聞いたので、キム・チャンゴンさん、キム・ウニョンさんの案内で青瓦台の方に見に行くことになった。 
 その途中、慶熙宮の興化門に差し掛かった時に、門の奥に広がる紅葉があまりに鮮やかだったので回り道。ソウル市歴史博物館前を通って青瓦台(大統領官邸)方面へ向かった。 
 
 青瓦台に向かう道路のあちこちで建設労組、女性労組、一般労組、清掃労組などが座込んで事前集会を開いている。建設労組はおそらく1万人位はいたのではないかというくらいの大規模なもの。どの組合も大音量・高性能のスピーカーを使って集会を行っているので、否が応でも雰囲気が盛り上がっている。 
 文政権になって青瓦台に近づけるようになったとかで、保守政権のときにはかなり手前で警備に阻まれたそうだ。私たちも青瓦台をバックに記念撮影。 
 青瓦台から光化門に向かって南下すると、非正規労組がデモで会場に移動中。キム・チャンゴンさんに誘われ、私たちも全国民主一般労働組合連盟という非正規職を中心とする地域の一般労組の連合体の労組の隊列に参加させていただいた。「言葉だけの正規職転換、もうだまされないぞ」と書いてある横断幕を韓国の非正規労働者と一緒に掲げて行進。先頭の宣伝カーでスピーチしていた人が「日本から労働者が一緒にデモ行進しています」と紹介してくれた。 
 労働者大会の会場は、光化門交差点から市庁方向までの広い道路を全面的に使って行われた。全国から集まった6万人の労働者で埋め尽くされていた。そのうちの3万人が非正規労働者の組合というから、韓国労働運動の最大の焦点が非正規問題にあることがわかる。ステージに近いところに韓国サンケン労組と一緒に座込む。 
 
<労働者大会の大掛かりな舞台装置に圧倒される!6万人の内3万人が非正規労働者!> 
 
 午後3時。「積弊清算!労組活動の権利!社会大改革!11.21ゼネスト宣言!全泰壱烈 士精神継承2018全国労働者大会」が始まった。 
 目の前のメインステージ左側にクレーンで吊り上げた18個のスピーカー、中央に超ワイドスクリーン。会場のあちこちに、トラックにセットされたスピーカーとスクリーンがあり、何台ものカメラがステージや参加者を頭上から映し出す。ステージでは、手にマイクを持った文化宣伝隊約50人の唄とダンスが始まる。人気ロックグループのコンサート張りの大掛かりな舞台装置に圧倒される。 
 
 この大会の参加者6万人だが、その半数の3万人はほとんどが学校関係の非正規職労働者だ。学校関係の非正規職労働者の組合である「全国学校非正規職労働組合」と「公共運輸労組全国教育公務職本部」は、この日をゼネストに設定、両組織人員合わせて9万人のうちの3万人が参加したということだ。また、そのほとんどが女性だ。 
 「学校非正規職労組」はピンクのチョッキ、「教育公務職本部」は緑のチョッキを着ている、集会場の前半分は、このピンクと緑のチョッキの隊列で埋め尽くされていた。非正規職のパワーがもの凄い。 
 
 「金属労組双龍車支部」支部長、「鉄道労組KTX列車乗務支部」前支部長、「金属労組カブルオートテック分会」分会長が3人で開会を宣言。数えきれないほどの組合旗入場、連帯あいさつなどが続く。 
 
 アジア各国から駆け付けた労働者とともに、私たちも金属労組に紹介されて登壇。代表してマレーシアの「サラワク山林庁労組」の女性活動家が、 
「インドネシア、ネパールなどアジア活動家が3日間滞在して得た結論は『非正規職、外注化、労働基本権弾圧と同じ問題に直面している』ということだ。多国籍資本に対抗して国際連帯を強化しよう」とアピール。 
 
 現在、高空籠城で闘う「ファインテック労組」とタクシー労働者がテレビ電話でアピールし、その様子がステージ上の大画面に映し出された。 
 
 民主労総のキム・ミョンファン委員長は、 
「民主労総は今、ILO核心協約批准と労働法改定、国民年金改革と非正規職撤廃のための社会大改革を掲げ、11月21日ゼネストに突入する」 
 
「民主労総は、財閥体制の清算と司法壟断勢力の処罰だけが私たちが求める真のロウソク革命であることを明確に宣言する。心を一つにしっかりと凍えた手を温めた2年前のろうそく革命が、もう一度、韓国社会の新たな枠組み作り、社会改革へと進むよう奮闘しよう」と宣言。 
 
 大会の最後にゼネスト決議文が読み上げられ、デモ行進に移った。大通り全面に広がって進むデモ行進の解放感が心地よい。 
 終了後、キム・チャンゴンさん、キム・ウニョンさんらと共に食事しながら交流を深めた。 
 
 その後11月21日、民主労総は組合員16万人が参加しゼネストに突入した。 
 民主労総はゼネストで 
△ 弾力勤労制期間拡大推進中断 
△ 光州型雇用推進中断 
△ ILO核心協約批准 
△ まともな正規職転換 
△ 非正規職撤廃 
△年金改革 
――などを要求した。 
 
 金属労組の現代・起亜車、韓国GMなどの完成車工場を始め、現代重工、大宇造船、現代モービスなど109か所の事業場で16万人がストライキに参加した。ゼネスト大会は、首都圏では国会前に1万人が集まったのを始め、全国15の地域で開かれ、5万人の労働者が参加した。民主労総はゼネストに先立ち、11月14日から大統領府前で時局座込みに突入した。(尾沢孝司) 
 
〔韓国労働運動の息吹に触れた4日間(3)につづく〕 


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