2019年01月27日11時27分掲載  無料記事
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コラム

誰かフランスの社会学者、モニク・パンソン=シャルロ(Monique Pinçon-Charlot)の本を訳してくださらぬか 〜フランスの大富豪が動かす政治の研究で著名〜 

  外国書籍の翻訳がわが国で低迷していると言われてすでに長いですが、フランス語圏の書籍の翻訳においてもその傾向は続いているように思われます。フランスを訪れて感じるのは興味深い本を書店で見かけても日本にはあまり届いていない現実です。それがフランス一国にしか通じない特殊事情となると、それも仕方がないか、と思われますが、筆者が書いているのは日本においても興味深く思って読む人は一定数いるのではなかろうか、と思える書籍です。まず、第一に挙げておきたいのがモニク・パンソン=シャルロ(Monique Pincon-Charlot)という名前の女性の社会学者です。新興財閥や大富豪の研究で著名です。ネットで検索すると確かに「パリの万華鏡 多彩な街の履歴書」というタイトルで翻訳書は出ていますが、これはむしろ大富豪といよりもむしろ都市社会学的な研究書らしく、寡聞にしてその他は知りません。 
 
  モニク・パンソン=シャルロはフランスの国立の研究機関CNRSに勤務しながら、様々な研究をしてきましたが、特に最近注目されているのが富裕層の研究(Une sociologie des riches)です。メディアからは引っ張りだこで、特に大富豪がフランスの政治にどのような影響力を与えているかについてよく語っており、マクロン大統領を大富豪の権益を守るべく、出てきた大統領と見ているようです。このことはサルコジ大統領に関しても同様の見立てでした。モニク・パンソン=シャルロの夫ミシェル・パンソンも社会学者で、夫と多くの共著があります。しかし、漫才の大介・花子みたいに、二人並んでインタビューを受けても大半は妻のモニク・パンソン=シャルロがしゃべっています。 
 
   では二人がどんな本を書いているか、と言えば先述の邦訳されたものでは「パリの万華鏡 多彩な街の履歴書」(Paris mosaique. Promenades urbaines)のような都市の中の社会学的研究があります。しかし、大富豪とその政治を研究した一連の書籍の翻訳に日本でお目にかかったことがまずありません。たとえば、ネットで検索したものの中では以下のようなタイトルの書籍です。(フランス語特有のアクセント記号などは文字化けするので、ここでは英語のアルファベットに置き換えていることをご了承ください) 
 
”Sociologie de la bourgeoisie”(ブルジョワの社会学)2016年改訂版 
 
”Le President des riches. Enquete sur l'oligarchie dans la France de Nicolas Sarkozy"(金持ちたちの大統領 二コラ・サルコジのフランスの大富豪の研究) 2010年 
 
”La violence des riches 〜 Chronique d'une immense casse sociale 〜”(富める者たちの暴力〜おびただしい社会的暴力の記録〜)2013年 
 
”Le President des ultra-riches. Chronique du mepris de classe dans la politique d’Emmanuel Macron”(超金持ちたちの大統領 エマニュエル・マクロンの政治に見られる階層の軽視の記録)2019年 
 
 最後のものはマクロン大統領と富豪との結びつきを検証した書のようであり、まさに「黄色いベスト」が生まれた理由がそこに読み取れるのではないか、という気がします。この10年近くは富豪あるいはブルジョワ階級に焦点を当てたようであり、特筆すべきはその新たな大富豪たちが政治にどのような力を行使しているか、ということでしょう。 
 
  恥ずかしながら上記の本に関して筆者も未読なのですが、フランスメディアを見ていると、モニク・パンソン=シャルロくらい近年、頻繁にコメントをしている人はいません。モニク・パンソン=シャルロは「黄色いベスト」についても盛んに話していますし、2016年の「立ち上がる夜」では共和国広場を訪ねて演説もし、連帯を表明しています。モニク・パンソン=シャルロくらい今のフランスの政治の歪みを社会学者の視点で描いている人はいないのではないか、というくらいに思えるのです。フランスと日本とでは社会が違う、と昔はよく言われたものですが、近年はグローバル資本主義が世界中に広がっているために、実際には先進諸国で同様の事態が進行しているのです。非正規雇用の拡大や格差の拡大、労働法の規制緩和、タックス・ヘイブン(租税回避地)の活用、あるいは大企業と政治家の連合によるメディア支配です。しかし、その動態の研究については国によって研究のプロセスや方法も様々なのではないかと思われます。そこから刺激を受けたり、学んだりすることも多々あるのではないでしょうか。もちろん、その逆で日本の研究書をフランス語に訳す、ということも必要なのではないかと思います。その意味で、モニク・パンソン=シャルロの大富豪の研究書が1冊でも邦訳で出てほしい、というのが切なる願いです。 
 
 
※2017年にエマニュエル・マクロンについて語っているモニク・パンソン=シャルロ 
https://www.youtube.com/watch?v=ychwDoh5GIo&fbclid=IwAR29KPFAHPqPBQzV2IYlpB9543A_br_kqN5F9udgzeCIg3wZlNauW0sfrlA 
※人気番組”On n'est pas couche”にゲスト出演したモニク・パンソン=シャルロ。2013年の収録で著書”La violence des riches 〜 Chronique d'une immense casse sociale 〜”(富める者たちの暴力〜おびただしい社会的暴力の記録〜)の出版直後の放送。 
https://www.youtube.com/watch?v=oZ52Q8HIpqQ 
 
村上良太 


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