2019年03月23日23時15分掲載  無料記事
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政治

野党完全勝利までの道のり その3 なぜ安倍首相は好かれるのか?  南田望洋

  安倍首相は日本国民から好かれているのだろうか?その正確な把握は無理にしても、これまで安倍首相と自民党は選挙で勝ち続けてきていることは事実だし、安倍首相自身、そのことを国会でも野党議員を前に自慢してきた。自民党の圧勝は小選挙区制と言う歪んだシステムがそうさせていることは確かだが、それでも安倍首相が選挙のたびに一定の国民の支持を得てきたのは間違いない。 
 
  そんな連戦連勝の安倍首相を野党議員らが攻めるとき、しばしば安倍首相の無知をあげつらってきた。必ずしも無知を笑うためにそういう質問になったわけでもなかったろうが、野党の質問が結果的に安倍首相の無知や教養のなさをさらけ出してしまうことが何度かあった。 
 
  たとえば共産党の志位和夫衆院議員が2015年に安保法制を論じていた時、安倍首相にポツダム宣言の中身に関して質問したことがあった。ところが安倍首相はポツダム宣言は「つまびらかに読んでいない」と言って逃げた。その時、安倍首相はポツダム宣言を理解していない、ということで人々は呆れ、笑ったものだった。 
  今年、小西洋之参院議員が安倍首相に「法の支配の対義語は何か?」と尋ねたとき、安倍首相は答えることができなかった。それは「人の支配」だった。この時も安倍首相は政治学の基本も知らないのだな、ということで多くの人が驚き呆れた。 
 
  しかし、日本の大衆はポツダム宣言を理解しているだろうか。あるいは「人の支配」という対義語がすぐに出てくる人が何%いるだろうか?安倍首相を笑えた人はそれらの正解を知っている人だとしたら、こうした形で政治家や知識人が安倍首相を笑うと言うことは、ある種の反感を大衆に醸している可能性があることも一度は想像してみるべきではなかろうか。つまり、安倍首相が好きな人の一定の割合は安倍首相の無知や無教養を愛しているのではないか、と仮定してみる。というのも、もし日本国民が政治家に知性を求める国民であったなら、安倍首相はとっくにアウトだったはずだからである。だが、国民は安倍首相を続投させてきたのだ。この空気が何なのかを野党の陣営は理解する必要がある。 
 
  安倍首相は父や祖父は東大出なのに、安倍首相は東大でも慶応でも早稲田の出身でもない。そんなエリートではない安倍首相が東大出の官僚たちや、エリート主義のNHKを支配し、早大出や慶大出がごろごろするマスメディア産業の上に君臨することは普段、エリートから侮蔑されている庶民にとって留飲を下げられるよい機会なのではなかろうか。安倍首相の人気は田中角栄の人気と通底しているのではあるまいか。 
 
  この6年ほどの間に、NHKの報道は劣化し、町の書店は消えてゆき、官僚たちは公文書を改ざんし、統計を操作し、国会では日本語が崩れつつある。教養と知性に満ちたエリートをうっとうしく思っている人々にとっては戦後の1つの秩序が解体される、なんとも楽しい時代だったかもしれないのである。教養や知などに何の意味もない。安倍首相がそうした転換を起こしてくれた・・・なんと素晴らしい人だろう。こう思っている人は少なくないかもしれないのだ。パヨクという言葉の流行もその一端だろう。安倍首相はNHKの経営委員会委員や会長などに反知性主義の人間たちを据えることに成功した。代表的なメディア幹部を招集して食事会を続けることも成功した。それまでエリートの代表と見られていた人々が安倍首相に膝を屈する光景はそうした知性に怨念を持つ庶民のプライドをくすぐり、彼らは「ザマミロ」と長年の恨みを晴らせたのではなかろうか。お前たちの理屈など所詮、その程度よ、と。ナチスが政権を握った時、まっさきに書籍を大量に焼却したことを忘れまい。 
 
  だが、彼らが喜んでいられるのもそこまでである。無知・無教養の人間が政界のトップに君臨して、メディアまでも統制していればその国の経済も外交も必ずダメになる。もうすでに日本経済は下降して臨界点に近づきつつある。いっとき留飲は下げられたかもしれないが、国は荒廃してきている。こうした時、野党が勝つためには何が必要か。それは安倍首相を支持してきた人々を自分の陣営に引き寄せることだ。その時、これまでとはアプローチを変える必要がないだろうか。安倍首相を馬鹿だ、と笑うアプローチでないことだけは確かだ。それは庶民をも笑うことであるからだ。志位議員も小西議員も東大出のエリートである。だからこそ、今後はどういう攻め方をするのがいいか、もっと練りに練る必要がありはすまいか。安倍首相の後ろに一定数の庶民が立っていることは確かなのだ。野党が完全勝利するためにはその一定数の市民を自陣営に引き寄せることが欠かせない。 
 
 
 
南田望洋 
 
 
 
■野党完全勝利までの道のり 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201903211939264 
 
■野党完全勝利までの道のり その2  立憲民主党の枝野党首が統一地方選に向けて語った基本方針 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201903222051265 


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