2019年03月30日21時23分掲載  無料記事
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人権/反差別/司法

松橋事件、ようやく、無罪確定 根本行雄

 1985年に熊本県松橋(まつばせ)町(現宇城(うき)市)で男性が刺殺された「松橋事件」で、殺人罪に問われ服役した宮田浩喜(こうき)さん(85)の裁判をやり直す再審の判決が3月28日、熊本地裁であった。溝国禎久(みぞくによしひさ)裁判長は「犯人であることを示す証拠はない」として、無罪を言い渡した。誤判原因や捜査の問題への言及はなく、認知症を患い高齢者施設に入所しているため出廷できなかった。熊本地検と弁護団双方が同日、上訴権(控訴)を放棄し、無罪が確定した。この情報を素直に喜びたい。しかし、日本の刑事司法には、まだまだ、改善しなければならない、たくさんの問題点がある。 
 
 すでに、筆者は「日刊ベリタ」には、えん罪事件についての数多くの論評をしている。 
 
 日本の司法制度は、無実者といえども無罪の判決を得ることは非常に困難であり、検察側が有罪の判決を得ることは概して簡単であるという構造になっており、それが有罪率99.9%という異常な高さとなって表れている。この背景には、警察の代用監獄において、長期間の勾留と取り調べが行われ、取り調べには弁護士が立ち会うこともできないという、被疑者の基本的人権が侵害されているという現状と、検察には上訴権があることなどがある。英米では「無実の市民が間違って起訴されたり処罰されたりしないような手厚い法のハードルが構築されている」が、日本においてはまだ十分には「法のハードル」が構築されていないのである。 
 
 □ 無罪の報告 
 
毎日新聞(2019年3月29日)は、斎藤誠弁護士が宮田さんに無罪を報告する様子を次のように伝えている。 
 
 逮捕から34年余りを経てつかんだ松橋(まつばせ)事件の無罪判決。しかし、無実を訴えながら長患いの末に認知症になり現在寝たきりの宮田さん自身は判決を聞けず、長年支えてきた弁護団や家族、支援者らには喜びの一方で、悔しさが残った。 
 
 「無罪ですよ、無罪が認められましたよ!」。宮田さんが暮らす熊本市西区の高齢者施設。吉報を伝えに法廷から駆けつけた弁護団の共同代表、斉藤誠弁護士(73)は宮田さんの手を握り、何度も何度も声をかけた。施設を営む園田伸二さん(71)、則子さん(65)夫妻の呼びかけにも普段は反応せず、意思疎通はほとんどできない。だが、やがてその手を握り返し、感極まったような表情になり目が潤んだ。「伝わった!」。30年来支えてきた斉藤弁護士は万感の思いを巡らせた。 
 
 □ 溝国裁判長の英断 
 
すでに、筆者は「日刊ベリタ」において、次のように述べている。 
 
 「大崎事件」の原口アヤ子さん、「松橋(まつばせ)事件」の宮田浩喜さん、「狭山事件」の石川一雄さん、「袴田事件」の袴田巌さん、これらの人びとは、いずれも、高齢化し、健康に不安をかかえながらも、無実を訴え続け、再審の開始を求めている。このような人々に対して、「再審の門」は固く閉ざされたままになっている。はたして、このような冷酷な対応は日本国憲法の3大原則の一つである「基本的人権の保障」を遵守していると言えるだろうか。このような高齢の再審請求人に対して、検察が抗告したり、特別抗告したりするという判断の背景にはどのような「公益」があると言えるのだろうか。大いに疑問である。 
 
 熊本地裁の溝国裁判長は検察側が求めた自白調書などの証拠調べをしなかったという。このことに対して、溝国裁判長は、自白の信用性は「再審請求審で否定された」と指摘し、「仮に改めて検討しても、異なる結論は想定し得ない」と説明した。そのうえで「宮田さんの年齢や体調を考慮した。判決の確定から非常に長い年月が経過し、可能な限り早く判決を言い渡すことが最も適当であると考えた」と述べたという。 
 
 溝国裁判長は、再審請求人の基本的人権を考慮したことは明らかである。今回の判断は、その点において、英断であると評価できるだろう。 
 
 □ 再審法改正をめざす会(準備会)の情報 
 
再審法改正をめざす会(準備会)が4月2日(火曜日)、衆議院第2議員会館・第1会議室にて、正午から午後1時まで、参加無料・申し込み不要、「松橋事件を教訓に再審にルールを」という集会を開く。 
 
 報告には、松橋事件弁護団の共同代表である斎藤誠弁護士。桜井昌司さん、周防正行さんらの発言がある。 
 
 日本の再審制度においては、再審請求には、過去の裁判で出ていなかった新しい証拠の提出が必要であるうえに、その証拠が無罪と認められるような明白性を備えていなければならない。つまり、非常にハードルが高い。そのうえ、検察が上訴権を濫用し、再審の決定に対し、不服を申し立てるために、ずるずると時間ばかりがかかるのが現状である。このような現状は抜本的に改善しなければならない。 
 
 □ 「法と民主主義」のすすめ 
 
 「法と民主主義」2019年2・3月号(536号)が「再審開始に向けた闘い(冤罪をただすために)」という特集を組んでいる。帝銀事件をはじめ、三鷹事件、名張毒ぶどう酒事件、狭山事件など、数多くの冤罪事件が取り上げられている。おすすめの1冊である。 


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