2019年03月30日21時52分掲載  無料記事
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核・原子力

福島第一原発:汚染水処理に対する一物理学者の提言  Noé Yamahata

 海外から日本を見る際、福島第一原発の汚染処理は、安倍首相が普段着で原発の扉を開けて中に入いり、記者会見を行なうところまで「コントロール」されていれば問題はないだろうが、まだ安倍首相は福島原発の扉を普段着で開けてはいない。国際機関や近隣各国の危惧のみならず、アメリカ大陸太平洋岸でも海洋汚染への怖れが膨らんでいる。この汚染水問題について、Facebookの中でも、いくつかの貴重な発言が行なわれており、それらは現在の忖度メディアの持つ傾向を白日の下に提示している。筆者の狭いFacebookのコンタクトの中では、物理学者の入口紀男氏(熊本大学名誉教授)のいくつかの提案が現実的かつ光彩を放っている。炉心部のデブリ対策についても入口氏は提案しているのだが、ここでは朝日新聞3月19日の記事「汚染水 決まらぬ処分法」に対する入口氏の評価と提案を、入口紀男氏の了承の下に再録させていただく。入口氏は政治的には保守派の方だが、問題のスタンスは、このままエゴセントリックに日本は問題を矮小化し続けるか、左翼を含めて国際社会の中で日本人としての歴史的責務を果たすかということだろう。 
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 海洋に流さなくても、現在の「最大 4倍」の数のタンクと敷地ですむ  入口紀男 
 
 2011年の事故以来、福島第一原子力発電所では 1〜3号機のデブリに冷却水を毎日約 400トン注入しています。事故直後は周囲から新たな地下水が毎日約 300トン流れ込んでいましたので、毎日合計約 700トンの汚染水を汲み上げていました。凍土壁で地下水の新たな流入量は毎日 100トンに減りましたが、凍土壁の耐用年数は約 7年しかありません。 
 現在毎日約 500トンを汲み上げて全量を処理装置に通しています。処理装置は ALPSといってゼオライト(粘土の一種)に放射性物質を吸着させる装置ですが、トリチウムは全く吸着されません。汲み上げた処理済みの水のうち約 400トンを冷却水として使い回しています。 
 
 朝日新聞(の3月19日の記事『汚染水 決まらぬ処分法』)では毎日約 100トンずつタンクの水が増えていくので、1,000トン入りのタンクが約 10日で満杯になり、現在もタンクが増え続けて 2020年には 137万トンとなり、タンクの保管容量の上限に達することだけを問題にしているようです。それ以外に次の三つの問題が残っています。 
1.ゼオライトによるトリチウム以外の放射性物質の吸着も完全でないので、タンクの中の水には依然として環境に漏らすことができない量のセシウム 137やストロンチウム 90が含まれている。 
2.冷却水は ALPSで処理したもの(トリチウムがそのまま残っているもの)を使い回しているのでトリチウム濃度が毎回加算的に高くなっている。 
3.放射性物質を吸着した使用済みゼオライトは新たな高濃度放射性廃棄物であり、日本国内にその行き場がない。 
 
 海洋放出は、漁業や食生活に実害(風評被害でない)を与えるでしょう。 
 前記したように現在約 10日でタンク 1基が満杯になるので、今後「120年」で「4,400基」のタンクが必要となるでしょう。でも、そのころ(西暦 2139年)には、最初の 100万トンのトリチウムはそれまでの 120年間で半減を繰り返して「1千分の1」になっているでしょう。それがトリチウムを性急に海洋に流さないですむ、また、漁業関係者や魚介類の消費者と戦わないですむ、本来の処理方法でしょう。 
 それには仮に現在の型式の急ごしらえの小型タンクでも「4倍の数のタンクと 4倍の敷地」ですみます。石油貯蔵タンクのように何万トンも貯蔵できる型式のタンクを用いると「2倍」以下のタンク数、敷地で済むでしょう。我われの世代の責任として、福島第一原発では、海に流さないですむのですから、新たな予算をつぎ込んで責任をもってそれをすべきでしょう。 
 新聞記事は、単に漁業関係者や魚介類の消費者をいつか海へ流すという妥協点へ向けて世論を追い詰めているだけのような気がします。 
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