2019年04月25日16時57分掲載  無料記事
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国際

北朝鮮の動向から読み解く北東アジアの平和と経済 佐渡友哲日大教授に聞く 

 2019年2月28日、米トランプ大統領と金朝鮮労働党委員長との会談が事実上決裂。合意文章の署名を見送った。そして4月25日にはロシアのプーチン大統領と金委員長との会談が行われた。こうした動きを踏まえながら二回目となった米朝会談の評価も含め、今後の北東アジアの行方について、北東アジア学会名誉会長・日本大学法学部佐渡友哲教授に聞いた。(高橋健太郎) 
 
 
―会談の評価の前に、先生の研究分野「北東アジア6カ国やASEANに見られる『下位地域主義』について説明して頂けますか。 
 
佐渡友  地域主義(リージョナリズム)とは、地理的に近く、共通の利益や価値を有する複数の国々が、政治・経済分野等で、その協力関係や統合を強める動きのことをいいます。EUやASEANがその代表例で、それぞれ28か国、10か国によって構成されています。下位地域主義(サブ・リージョナリズム)とは、その地域のなかで国境を接する2カ国あるいは数か国という比較的小さな地域で協力関係が展開され、新たな生活圏が形成される動きを指します。 
例えば、ASEANを地域とした場合、メコン河流域圏5か国は、下位地域となります。また東アジアを地域とした場合、日中韓の協力を目指す動きは下位地域主義をいえるでしょう。後で話題になると思いますが、中国と北朝鮮の国境で展開されているヒトとモノの交流も下位地域で生起している動きですが、これはマイクロ・リージョン(マイクロ地域)といえるのではないでしょうか。 
 
―ありがとうございます。まず2月27日からハノイで行われた米朝首脳会談をどうみるかについて。 
 
佐渡友 そうですね。昨年6月12日にシンガポールでの米朝首脳会談後に発表された共同声明では『北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向けて取り組む』となっており、今回はそのプロセスが具体的に言及されると期待されました。しかし例えば、何年後までに全廃するなど、期限には言及されていません。また、核兵器のみではなく、『核関連施設』を全廃あるいは削減するという具体的成果もなかったわけです。 
 
―たしかに物理的に『核解体』は、困難だと承知しています。私共が生きているうちに地球から核をなくすことは無理だと思います。100年単位のスパンで考えなければなりません。しかし東アジアの安定化は急務です」 
 
佐渡友 非核化の定義が明確ではありませんし、そもそも自国の体制を維持し、米国はじめとして外部からの攻撃を抑止するために、時間とお金をかけて構築してきた核兵器とその技術を北朝鮮が簡単に放棄するとは考えにくいと思います。 
 
―非核化」を担保する上で、米や多国間での査察体制を構築する必要はありませんか。 
 
佐渡友 非核化にはもちろん査察・検証が必要です。それには米国だけに任せてはいけません。専門家がそろっていて査察の経験豊富なIAEA(国際原子力機関)による査察が最低条件です。IAEAの事務局長もこのことを力説していました。 
 
―そうですね。実効性があるスキームが必要ですね。「米国と北朝鮮」の対立ではなく「国際社会と北朝鮮」という認識で進めることが必要だと考えます。拉致問題が進展しなかったことも残念です。イデオロギーではなく、人権問題だと認識しています。ところで「勝った」のは米朝どちらでしょうか。 
 
佐渡友 単純に勝ち負けは決められませんが、北朝鮮からすると『世界の超大国』と渡り合っただけでも国内的には成功でしょう。この会談で北朝鮮は経済制裁の全面解除を求めたようですが、ポンぺオ国務長官とボルトン補佐官が強硬に反対したと伝わっています。金正恩委員長は『一部の解除を求めた』と後に報道されていますが、彼にとっては『トランプ・ショック』だったでしょう。今回の会談は中身がありませんでした。今後、2021年1月のトランプ大統領の任期切れまでに3回目を実施するのか、あるいは次期大統領になってからの方が有利なのか、北朝鮮は戦略の選択を迫られていることでしょう。次の会談にも着目したいと思います。 
 
―下位地域から見る北朝鮮問題はどのようなものでしょうか。 
 
佐渡友 中国と北朝鮮の国境地域を東のロシア国境にある琿春から西の丹東まで、中国の国道を走って調査をしたことがあります。中朝国境地域というマクロ地域から見ると、ヒトとモノの交流、そして経済活動がよく見えてきます。たとえば琿春国際開発区は、貿易の拠点であると同時に中国企業の水産加工工場や縫製工場に北朝鮮労働者が2000人以上雇用されています。人口240万でこの地域最大の都市、丹東は、中朝貿易の7割が通過していますし、中国人はここから北朝鮮観光へ出かけます。 
丹東から国境の鴨緑江の下を通って北朝鮮へ敷かれた石油パイプランは、経済制裁にもかかわらず、人道的視点から北朝鮮の『命綱』になっています。丹東は経済制裁の影響をまともに受けるところでもあり、同時に、昨年6月の米朝会談後に見られたように、将来を展望したビジネスの動きもいち早く見られるところでもあります。 
  何しろ北朝鮮にはマグネサイトやタングステンなどの鉱物資源が豊富にあり、ある市場関係者によるとそれは300兆円規模になるといいます。韓国の不動産会社が中国の業界を通じて北朝鮮の土地を買い占めようとする動きも報道されました。将来北朝鮮の非核化が完全に実現すれば、いよいよ北朝鮮の市場開放と経済開発が本格化するという未来図です。したがって中朝国境地域は、国境協力圏としてのマイクロ地域形成の可能性もありうるといえるのではないでしょうか」 
 
―ありがとうございました。 
 
(日本国際情報学会員) 


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