2019年05月13日15時10分掲載  無料記事
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コラム

政治家の漢字への復讐の可能性は?  「漢字使用制限法」の可能性について

  今、国粋主義の作家の中には漢文の授業などいらない、と言っている人がいます。その作家が支持している安倍首相は漢字の読み間違えが多いです。日本の識者はしばしば安倍首相の漢字の読みの誤りを指摘します。指摘自体はもちろん当然なのですが、漢字を読めないことを軽蔑することが逆に、安倍首相へのシンパシーを大衆の中で醸している面がないか、ということは前回書きました。というのも漢字が読み書きできない人が増えているのではないか、と思われるからです。 
 
  そこで以下は空想なのですが、安倍首相が漢字規制法案を提出したらどうなるか、ということなのです。 
 
  今回の新元号「令和」の出典でも、中国の古典ではなく、日本の著作物から言葉を拾いたかったようです。結局、そのルーツは中国にあったと中国文化の研究者が指摘していましたが。安倍首相や周辺の人々の中に中国文化の影響の痕跡を消したい、と考える人がいるようです。しかし、漢字を使っている限り、<無文字だった日本に文字を教えてあげたのは中国人だ>と言われる可能性があることを考えると、国粋主義者の中にはもしかしたら、漢字を全部排したい、という願望が根底にあるのではないでしょうか。いや、これは単なる想像に過ぎませんが。 
 
  1946年に当用漢字に指定されたのは1850字です。その後、2010年に常用漢字として2136字が指定されたとされます。これらの情報はウィキペディアの情報です。2010年の際に、以下の196字が以前の常用漢字のリストに追加されたと言います。 
 
 「挨 曖 宛 嵐 畏 萎 椅 彙 茨 咽 淫 唄 鬱 怨 媛 艶 旺 岡 臆 俺 苛 牙 瓦 楷 潰 諧 崖 蓋 骸 柿 顎 葛 釜 鎌 韓 玩 伎 亀 毀 畿 臼 嗅 巾 僅 錦 惧 串 窟 熊 詣 憬 稽 隙 桁 拳 鍵 舷 股 虎 錮 勾 梗 喉 乞 傲 駒 頃 痕 沙 挫 采 塞 埼 柵 刹 拶 斬 恣 摯 餌 鹿 𠮟 嫉 腫 呪 袖 羞 蹴 憧 拭 尻 芯 腎 須 裾 凄 醒 脊 戚 煎 羨 腺 詮 箋 膳 狙 遡 曽 爽 痩 踪 捉 遜 汰 唾 堆 戴 誰 旦 綻 緻 酎 貼 嘲 捗 椎 爪 鶴 諦 溺 塡 妬 賭 藤 瞳 栃 頓 貪 丼 那 奈 梨 謎 鍋 匂 虹 捻 罵 剝 箸 氾 汎 阪 斑 眉 膝 肘 訃 阜 蔽 餅 璧 蔑 哺 蜂 貌 頰 睦 勃 昧 枕 蜜 冥 麺 冶 弥 闇 喩 湧 妖 瘍 沃 拉 辣 藍 璃 慄 侶 瞭 瑠 呂 賂 弄 籠 麓 脇」 
 
  今こうして2010年に常用漢字に加えられた漢字群をみると、よく使うものがいくつもあります。岡とか、乞とか、蜜とか。本当に以前は常用漢字ではなかったのか?、と疑問に思えるほどです。このウィキペディアの情報はあまりにも興味深いですが、もっと研究してみないとこれがどういう意味なのか、はっきりしたことは言えない印象を持ちました。 
 
  ただ、こんな風に国策として漢字の使用に関する一定の基準を国が作ってきたことだけは確かです。もし、与党が漢字の使用をもっと大胆に制限する法案を作ったらどうなるのか、ということを一度は考えてみた方がよいと思います。 
 
  常用漢字に指定されていない漢字を使ってもこれまでは罰せられることはありませんでした。しかし、もし国家が指定した漢字以外を教科書とか、新聞雑誌とか、公文書などで使用したら刑法の犯罪にするとしたらどうでしょうか。そして、使用可能な漢字をわずか300字に制限するとしたら?あるいはもっと絞って、150字にすると制限したら?韓国人がハングルを発明し、ベトナム人が漢字の使用をやめたのと同じ理由でナショナリズムの発露として漢字を排して日本で発明された文字使用で統一する、という理由が考えられます。 
 
  もしそうなったら漢字で表現してきた内容をひらがななどの文字で表現しなくてはならなくなります。同音異義語もたくさんありますから、結果的にそれは言語を変えていくきっかけになるでしょう。英語のようなアルファベットに近い言語に多少近づいていくかもしれません。さらに、中国の古典の類に日本人が将来、触れることは難しくなるでしょう。そればかりか日本の古典にも触れることが難しくなります。日本国民は歴史から切り離されていくでしょう。 
 
  安倍首相が漢字があまり読めないことを笑っていられる間はいいですが、もし安倍首相が漢字使用を300字に限定する法案を作って強行採決したら?実際には今の与党の最優先課題は改憲ですから、漢字の使用制限に時間を費やすとも思えませんし、安倍首相が漢字について実際にどう考えているかは定かではありません。しかしながら、言語というものは政治権力によって影響を受けることがあります。英国の作家、ジョージ・オーウェルは近未来小説「1984年」の中で、言語を絞り込む作業に従事する国家公務員を描いていました。思想を表現する言葉が消えてしまえば、思想も消えてしまう、というわけです。たとえば「自由」という漢字の使用を禁止したら?あるいは「権利」とか、「人権」とか、「平等」とか。「自」とか、「権」とか、「平」とか。自民党も「自由」の文字がなくなったら党名を変えるでしょうが。こういった漢字が使用不可になる・・・・杞憂であることを願ってやみません。 
 
 
南田望洋 


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