2019年05月30日15時58分掲載  無料記事
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民主主義を確たるものにする太い柱となる図書館 ニューヨーク「公共」図書館 エクス・リブリス(フレデリック・ワイズマン監督  笠原眞弓

 図書館と言えば、日本では公立図書館だったのが効率を求め、民間委託になるところも増え、賛否両論だ。経費削減から司書も正職員から嘱託に代わったり、専門性が尊重されなくなっているとか。そんな時に、ニューヨーク公共図書館を取り上げたこの映画は衝撃的だ。 
 
 この図書館は書籍や資料を集め、整理している部門と、地域に密着した88ヵ所の分館とからなり、それぞれの地域のニーズに合わせたプログラムを立てている。寄付が基盤にあって、州と市も費用を出すという「公共」の仕組みなので、幹部たちは常に何をしたらいいか、何をなすべきか模索し、成果を確認しあっている。 
 
図書館のそんな様子をフレデリック・ワイズマン監督は、3ヵ月間図書館内部に深く入り込んでフィルムに収めた。監督はこれまでもパリのオペラ座や英国のナショナルギャラリーを同様の手法で撮っていて、見ている私たちにも監督の興味深々が伝わってきた。今回も「なぜ」とか、「すごい」とか思っているうちに、2時間半の長尺の映画は終わっていた。 
 
 冒頭、ユニコーンについてや自分の移民のルーツの調べ方など、何でもありの電話問い合わせに丁寧に答える姿や学習のサポート方法を話し合う職員に、ある意味感動すら覚えた。 
 「図書館は書庫ではない」と言いつつも、膨大な蔵書はもちろん、資料、写真、地図、フィルムなどを日々整理しているし、デジタル化に利用者が対応できるようにマンツーマンの指導もしている。 
 
 魅力的な人たちが登場する文化講座は、わざと入口近くに設定してドアを開放している。誰でもが入りやすくという配慮だ。幼児教室のような、親子参加のプログラムなどもある。 
 黒人文化研究図書館では、移民の歴史的検証の講座が開かれ、別なところでは、点字の読み方打ち方の指導や手話通訳つき朗読会などが紹介されていく。識字教育は幼児から大人までとか。見ていくうちに、そのような企画によって、図書館はさらに利用されていくことが分かってくる。 
 つまりここは、文化の発信地でもあり、それを受け止める土壌づくりもしているといえるのだ。今でも新規移民の多い国で、識字教育は欠かせないし、そこに力を入れることで、市民の生活レベルは向上するのだから。 
 
 心の空腹を満たす仕掛けは、多角的であるほうがいい。だから、それらと平行してディナーパーティー、シニアのダンス教室などもあると納得できる。 
つまりこの図書館は、彼らが言うように民主主義の柱であって「公共」なのだ。 
 
監督:フレデリック・ワイズマン 
205分/5月18日〜7月5日まで。岩波ホールほか全国順次ロードショー 
 
<写真>Copy Rghts 
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