2019年06月17日12時31分掲載  無料記事
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ベルギーのダルデンヌ兄弟の秀作「サンドラの週末」

  兄弟で優れた映画を作り、カンヌ国際映画祭でも最高賞のパルムドールを2回受賞しているベルギー人の兄弟、ジャン=ピエール・ダルデンヌ(兄)とリュック・ダルデンヌ(弟)による秀作に「サンドラの週末」という映画があります。欧州で公開されたのは2014年で日本公開はその翌年でしたが、今再び熱い眼差しで見られているようです。 
http://www.bitters.co.jp/sandra/index.html 
  その理由は国会パブリックビューイングで活躍している法政大学の上西充子教授が新刊本「呪いの言葉の解きかた」の中で、この映画について触れているからです。「サンドラの週末」は従業員16人の小規模の工場で、ある投票を労働者たちが行う映画です。その投票とは鬱になって休暇を取っていた女性労働者のサンドラを復職させるか、それともサンドラをこのまま解雇して1000ユーロのボーナスを取るか。「ボーナスか、サンドラか」という選択自体の設定に労働者を分断する、経営サイドのずるさが表れています。 
 
  映画ではサンドラが週末に同僚たち一人一人を説得のために回る映画です。精神が弱っている女性が「ボーナスをあきらめて、私の復職に賛成票を投じて欲しい」と頼むのは大きな勇気を要し、また傷つくリスクもあるのですが、夫の励ましでサンドラは週末に行動を起こします。この過程で、いろんな同僚がいることが見えてそこが今の欧州を表しています。ムスリムの移民もいれば、カトリックの家庭もある。ダメスティックバイオレンス風の夫を持つ同僚もいる。正規雇用と短期雇用の格差の問題もある。サンドラが直面する、このデテールに味わいがあります。今を生きているいろんな人々の事情が垣間見えます。わずか2日間の行動ですが、この旅を通して、サンドラが成長していく過程が描かれています。 
 
  ダルデンヌ兄弟は「ロゼッタ」や「ある子供」などのパルムドールを受容した映画などでも、非常にリアルなタッチの演出を行う監督たちです。「サンドラの週末」でもありがちなハッピーエンドではなく、観客の心をより深く動かす、本物の解決を探っていることがわかります。 


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