2019年07月04日05時34分掲載  無料記事
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難民

入管行政と戦う人々 〜クルド人難民申請者の現状〜

政府は、海外からの多様な人材と「共生」することを目的とし、昨年12月に出入国管理法を改正、本年4月から「入国管理『局』」を「出入国在留管理『庁』」に格上げして対応を行っているが、その実態は政府が掲げる「共生社会」とは程遠い。このような入管行政による「弊害」と戦い続けている人々がいる。日本で難民申請しているクルド人男性のチョラク・メメットさんもその一人である。 
 
少数民族のクルド人であるメメットさんは、兄がクルド人の独立運動に参加していたということもあり、自身に迫るトルコ政府からの弾圧の危険性を感じ取り、すでに日本に避難していた兄を頼って2004年に来日した。その後、奥さんとトルコで生まれた長男が来日し、日本で生まれた次男と三男とともに5人家族で生活をしている。 
 
メメットさんは法務省に対して継続的に難民申請を行っているが、いずれも却下され続けており、2018年1月からは東京都内の東京出入国在留管理局(旧東京入国管理局)に収容されることとなった。その後1年以上も不当な収容状態が継続し、その間は、宗教上の理由も考慮されず、一律に冷たい弁当を食事として支給され、「ほとんど食事を口にすることができなかった」という。 
 
自由を制限された状態で長期間の収容が続く中、2019年3月には、メメットさんが体調不良を訴えたことから、メメットさんの家族により、収容されていた東京入管に救急車が呼ばれるという事態が発生した。しかしながら、呼ばれた救急車によりメメットさんが病院へ搬送されることはなく、入管職員により救急車が追い返されてしまうこととなった。その後もメメットさんを心配した家族が再び救急車を呼んだが、再度到着した救急車でもメメットさんが搬送されることはなかった。この時点での収容期間は1年2か月にも及んでおり、長期収容によるメメットさんの体調が心配された。 
 
そんな中、メメットさんを支援する人々の訴え掛けが通じたのか、6月17日、メメットさんに対して収容からの拘束を一時的に解く「仮放免」が認められることとなった。一時的とはいえ、収容状態からの解放に安堵するメメットさんと家族であったが、同時にメメットさんへは難民認定の不許可が通知されることとなった。「仮放免」許可、難民認定不許可のいずれについても、入管側からの理由の説明は全くなく、入管行政の不透明さが改めて際立つこととなった。 
 
仮放免から1週間後の6月24日、メメットさんの体調回復を待って、都内でメメットさんと支援者による記者会見が行われた。会見では、代理人である大橋毅・弁護士が、これまでのメメットさんを取り巻く収容の状況などについての説明を行った後、参加者からの質問に応じた。メメットさんは、体調不良時の入管職員の対応を「(私を)信じていないよう」であったとし、『死にそうです』と訴えかけると『まだ生きているじゃないですか。まだ、死んでないでしょ』などという趣旨の応答をされたという。また、自身の家族について触れ「入管施設から出た時は、家族に会えたことが嬉しかった」、長期収容により「家族がバラバラになる(ことが辛い)」と語った。 
 
現在、メメットさん一家は14年12月の「在留特別許可を行わない」とする処分の撤回や在留特別許可を求め、18年12月から国を相手取り訴訟を提起している。次の裁判は今年7月12日を予定しており、今後の入管行政の在り方を問いかける意味でも注目がされる。 
 
現政権による入管行政の在り方について、支援者の男性は「入管の対応はこれまでも悪かったが、安倍政権になってからさらに悪くなった。現政権は形だけの『共生』を掲げ、本当に困っている難民への対応を疎かにしている。現政権が変わらなければ、収容されている人々の状況が良くなることはないであろう」と語った。 
 
安倍政権は、果たして本当に多文化共生社会を目指しているのであろうか。入管行政の現状を見ると、筆者も疑問に感じざるを得ない。(岩本裕之) 


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