2019年07月08日09時25分掲載  無料記事
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検証・メディア

「日米同盟」破棄がトランプへの答えだ  Bark at Illusions

 米国のドナルド・トランプ大統領が、日米安全保障条約は米国が一方的に義務を負う「不公平」なものだと主張して、その見直しに言及した。日本政府やマスメディアは、日米安保条約は片務的なものではないと反論し、「日米同盟」の重要性を強調しているが、これを機に、「日米同盟」が本当に日本や東アジアの平和と安定に役立っているのかどうか、考えてみるべきではないだろうか。 
 
 日本政府やマスメディアは、日米安保条約が米国に対して有事の際に日本を防衛する「義務」を課す一方で、日本には米軍に基地や施設を提供する義務が定められていることや、日本が米軍の駐留費の7割以上を負担していること、在日米軍基地が米国自身の軍事戦略上重要であること、安保法の制定(2015年)で集団的自衛権の行使が可能になったことなどを挙げて、日米の義務は全体として「バランス」の取れたものだと説明している。 
 
 しかし、この説明は不正確であり、トランプに対する反論としても不十分だ。日米安保条約は第5条で、「日本国の施政下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和および安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定および手続きに従って、共通の危険に対処することを宣言する」と述べているだけで、有事の際にはどんな場合でも米軍が出動して日本を防衛すると言っているのではない。「自国の憲法上の規定および手続きに従って、共通の危険に対処する」。そんな曖昧な約束のために、日本は百数十か所の基地を米軍に提供し、首都圏上空を含む広大な空域を米軍の管理に委ね、基地の維持・運営費だけでなく、軍人・軍属とその家族の生活費まで負担している。また日米地位協定で、米軍人の公務中の犯罪に対する日本側の裁判権の放棄や、米軍の財産に対する捜索・差し押さえ・検証を行う日本側の権利の放棄、米軍機に対する航空法の除外など、米国側の治外法権を認める様々な取り決めが行われている。「日米同盟」は、トランプの言うのとは反対の意味で「不公平」で「片務的」なものである。 
 
 また今回に限ったことではないが、日本政府やマスメディアは「日米同盟」の重要性を強調し、 
 
「冷戦後、アジア太平洋地域の平和と安全に寄与する『公共財』と再定義された日米同盟である。トランプ流の圧力でそれを弱体化させたら、米国主導の国際秩序に挑戦している中国の思うつぼだろう」(毎日19/7/2社説) 
 
とか、 
 
「(日米同盟が)揺らいでしまっては、中国との関係にも変化が生じる。もっと言えば中国との関係改善が進んでいるのも、日米の同盟関係は盤石な状態だ、と中国をはじめ各国から受け止められているからだという(日本政府の)判断もある」(NHK政治部官邸キャップ・原聖樹 ニュースウォッチ9、19/6/28) 
 
 などと述べているが、現実を見ると、「日米同盟」は地域の緊張を高め、近隣諸国との関係を損ねているというのが実態ではないか。 
 米軍の辺野古新基地建設や、米軍と一体となった自衛隊の南西諸島の基地建設は中国を刺激し、「日米同盟」は「抑止力」になるどころか、逆に中国の軍拡を促進しているように見える。 
 ロシアとの平和条約交渉では、ロシア側は日本への島の引き渡し後に米軍が展開するのではないかと懸念しており、日米安保条約がある限り領土問題は解決しそうにない。日米地位協定の取り決めで、米国側が基地や演習のために必要だと言えば、日本はそれが全国どこであろうと拒否することができないことにないっている。冷戦終結時、ドイツより東へは「1インチたりとも拡大しない」という条件で、ドイツが対ロシアの軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)に加盟することに同意したものの、米国に約束を破られNATOをさらに東方に拡大された経験からも、ロシア側の懸念は当然だろう。 
 朝鮮との関係では、2002年の「平壌宣言」で日朝両政府は国交正常化に向けた交渉の再開などを確認したが、朝鮮を敵視する日本国内の圧力と共に、日本の独自外交を嫌う米国政府の圧力(「日米同盟」と聞くと対等であるかのような印象を受けるが、実際には一方的で「バランス」を欠いた従属的な関係だ)で、拉致問題解決や国交正常化に向けた交渉は頓挫した。 
そして世界に目を向ければ、在日米軍は、朝鮮半島やインドシナ半島、イラク、アフガニスタンなどを侵略し、たくさんの市民を虐殺している。 
 「日米同盟」は「アジア太平洋地域の平和と安全に寄与する」どころか、地域の緊張を高めて日本と近隣諸国との関係を阻害し、世界各地で平和を壊し、市民を虐殺するために利用されている。 
 
 では、「日米同盟」を破棄して日本の「安全保障」は大丈夫なのか。そう危惧する声もある。例えば毎日新聞(19/7/1)の山田孝男は、 
 
「周囲はいずれも核保有国の中露と北朝鮮。核超大国の米国も絡み、力を背景とする危険な駆け引きが続いている。日本は、日米安保条約破棄という事実上の大軍縮と善隣外交で生き延びられるだろうか。十分可能と見るのは、紛争やテロから遠く、米国の核の傘の下、安全無害な島国で戦後の平和を享受してきた日本人の独り合点に過ぎぬと私は思う」 
 
 と述べて、日本が日米安保条約を破棄した場合の選択肢として、中国との安全保障条約締結と自主防衛(自主防衛の「核心」は「核武装」だと山田孝男は断言している)を検証し、自主防衛については現在の「3倍超が通説」だという「専門家」の声を根拠に、その実現可能性を疑問視している。 
 しかし憲法違反ではあるけれども、日本の軍事力(自衛隊)はそんなに弱くない。日本の毎年の軍事費は約5兆円であり、2018年の世界ランキングは第9位だ(ストックホルム国際平和研究所)。軍事関連に毎年5兆円も費やす日本が、安全保障を米国に依存する必要はない。例えば、日本と同じアジアに位置し、核保有・軍事大国である中国とロシアに挟まれたモンゴルは、「非核兵器地帯」(地帯内での核兵器の開発・製造・保有などを禁止するとともに、核保有国による地帯内への核兵器による攻撃や威嚇を禁止する)を宣言し、軍事費が日本の1%未満(2018年は日本の約500分の1)であるにもかかわらず、非同盟中立国として、独立と安全保障を確保してきた。 
 完全な「無防備都市宣言」(無防備都市宣言をした地域に対する攻撃は国際法で禁じられている)ではないにしても、非核兵器地帯を宣言することで、核兵器や大国の軍事力に頼らず最小限の軍事費で非同盟・中立を貫くという選択肢は、現実世界で立派に機能しているのだ。 
 
 武力による威嚇や行使を慎み(国連憲章 第2章4項)、国際紛争は平和的手段によって解決する(同 第2章3項)。それが、前世紀に2度の世界大戦を経験した人類が到達した結論だ。 
 日本は「日米同盟」を捨てて、近隣諸国との良好な関係や、地域と世界の平和のための外交に力を入れるべきだ。 


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