2019年07月09日14時09分掲載  無料記事
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人権/反差別/司法

最高裁は「再審」の門を開け 大崎事件、最高裁が再審請求を棄却  根本行雄

 6月25日、「大崎事件」の第3次再審請求で、最高裁第1小法廷(小池裕裁判長)は、殺人罪などで懲役10年が確定して服役した原口アヤ子さん(92)と元夫(93年に66歳で死去)の再審開始決定を取り消し、再審請求を棄却する決定を出した。高齢化し、健康に不安をかかえながらも、無実を訴え続け、再審の開始を待っている人がいる。それに対して、日本の司法は「再審の門」を固く閉ざしたままになっている。このような冷酷な対応は日本国憲法の3大原則の一つである「基本的人権の保障」に違反している。最高裁よ、「再審」の門を大きく開け。 
 
 大崎事件と は、1979年10月、鹿児島県大崎町の男性(当時42歳)が自宅の牛小屋で遺体で見つかり、義姉の原口さんと元夫ら親族3人が殺人や死体遺棄容疑で逮捕、起訴されたじけんである。原口さん以外は起訴内容を認めて懲役1から8年の判決が確定した。原口さんは無実を訴えたが、81年に懲役10年が確定して服役した。原口さんは服役後も無実を訴え続けており、ようやく、地裁と高裁が続けて再審開始を決定した。今回の最高裁の判断は、異例のことである。こうしたケースで最高裁が再審を取り消すのは初めてである。 
 
 最高裁第1小法廷(小池裕裁判長)は、第3次請求審で弁護団が提出した新証拠について「無罪を言い渡すべき明らかな証拠とは言えない」と判断した。7月1日、弁護団は決定に対する異議申立書を提出したが、7月2日に最高裁の書記官から「異議申し立ては立件しない」との連絡を電話で受けたという。 再審請求審の最高裁決定に対する異議申し立てに法的根拠はないが、弁護団は「合理的理由と必要性があれば可能だ」と主張している。7月5日、弁護団は「憲法で保障された『裁判を受ける権利』の侵害だ」などと抗議する申し入れ書を最高裁に提出した。 高齢化し、健康に不安をかかえながらも、無実を訴え続け、再審の開始を待っているものに対して、日本の司法は「再審の門」を固く閉ざしたままになっている。このような冷酷な対応は日本国憲法の3大原則の一つである「基本的人権の保障」を遵守していると言えるだろうか。 
 
 
□ 大崎事件の新証拠 
 
 確定判決は、日ごろから親族に快く思われていなかった被害者が、酔いつぶれて道路脇の溝に落ちているのを近隣住民に発見され、被害者宅まで送り届けられた後、殺害されて牛小屋の堆肥(たいひ)に遺棄されたと認定した。 しかし、弁護団は新証拠として、首を絞めて殺したとする確定判決の認定と遺体の状況が矛盾しており、死因は転落事故などによる出血性ショックである可能性が高いとする法医学者の鑑定を提出した。また、原口さんが殺害を持ち掛け共謀したのを目撃したとする元義妹の供述の信用性は、慎重に判断する必要があるという供述心理学の鑑定も新証拠とした。 
 
 ようやく、地裁と高裁が続けて再審開始を決定した。最高裁第1小法廷(小池裕裁判長)は、第3次請求審で弁護団が提出した新証拠について「無罪を言い渡すべき明らかな証拠とは言えない」と判断を下した。今回の最高裁の判断は、異例のことである。 
 
 
□ 最高裁は「再審」の門を開け 
 
 内田博文(九州大名誉教授)さんは、毎日新聞(2019年7月4日)において、次のように述べている。 
 
「刑事訴訟法の規定には、日本国憲法がうたう刑事司法の諸原則と矛盾するものも少なくない。捜査機関への強制処分権の付与や検察官の起訴独占と接見指定、上訴権などだ。捜査側に有利に偏っており、起訴陪審など検察官司法を抑制し、人権侵害を防止する制度も存在しない。」 
 
 司法改革を標榜しながら、日本は「治安維持」を最優先にする偏頗な司法制度に固執し、最高裁をはじめ政府の司法関係者の多くは、抜本的な改革を行おうとはしない。再審法の見直しは必要不可欠だし、内田さんが述べているように、捜査機関への強制処分権の付与や検察官の起訴独占と接見指定、上訴権などは廃止すべきものだ。 
 
 高齢化し、健康に不安をかかえながらも、無実を訴え続け、再審の開始を待っているものに対して、日本の司法は「再審の門」を固く閉ざしたままになっているには、「基本的人権」を擁護することよりも、治安維持を最優先しているからだ。その背景にあるのは、日本国憲法を順守しない総理大臣とそれをささえる与党議員と、「長いものにはまかれろ」と忖度している人々が権力を握っていることだ。 
 
 「憲法改正」によって、安倍総理と自民党が手に入れたいと考えているのは、自衛隊を憲法に明記することよりも、「緊急事態条項」である。支配を合法化し、正当化し、「戦争のできる国」にすることである。そして、民主主義を亡ぼすことである。 


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