2019年07月20日11時21分掲載  無料記事
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政治

NHKは民放にする必要なし 〜 久米宏氏のNHK分割民営化発言に思う〜

  「ニュースステーション」の初代キャスターだった久米宏氏が先日、NHKの分割民営化論をNHKの番組で話したと言います。7月19日に放送されたNHK「あさイチ」だそうですが、筆者はその放送を見ていませんでした。久米氏の発言を報じたハフィントンポストによると以下(抜粋)。 
 
 久米氏「NHKはね、民間放送になるべきだと思います。もしNHKが民間放送になり、スポンサーを集めたら、他の民放は全滅ですよ。だから1社でNHKが民放になるのは無理です。多分JR方式になると思うので、分割されると思うんですけど。それにしても今ある民間の放送局は、半分以上は整理整頓、淘汰されますけど、僕はやっぱりNHKは独立した放送機関になるべきだと思います。人事と予算で、国家に首元を握られている放送局があっちゃいけないんですよ。そういう国は先進国とは言えないです。絶対報道機関は独立していないといけない。」 
 
  NHKの独立性の大切さは久米氏の指摘の通りだと思いますが、だから民放にすべきだ、というのは論理の飛躍があるのではないでしょうか。たとえば以下の2点です。 
 
1)民間放送局も政府から圧力を受け得る 
 
2)民放化以外にも独立性を担保する方法はある 
 
  今更言うまでもありませんが、現政権に影響力を持っている経団連などの財界組織は、同時にスポンサーという形で民放にも影響力を及ぼしています。ですからNHKを民放化すればよい、というのは問題の本質的な解決とは言い難いのです。しかも民放ではスポンサー企業への忖度があります。さらに民放も総務省の監督下にあります。つまり、NHKも民放も問題の根は関連しあっているのです。ですから久米氏の発言は問題を単純化して視聴者を誤った方向に誘導する恐れがあると思います。 
 
  今回の参院選で市民連合が野党共闘のために政策協定を結んだ政策の中に放送局の監督を総務省から独立組織に移行せよ、という項目があります。 
 
  「国民の知る権利を確保するという観点から、報道の自由を徹底するため、放送事業者の監督を総務省から切り離し、独立行政委員会で行う新たな放送法制を構築すること。」 
 (「立憲野党4党1会派の政策に対する市民連合の要望書」から) 
 
  分割民営化などより、監督権限を政府の力が最大限におよぶ総務省から切り離して、独立行政委員会を設置してそれに監督させる方がはるかによいと思うのです。効力はNHKだけでなく、民放にも及びます。自民党のかつての高市早苗総務大臣の「電波停止」の脅しのようなことが二度と起こらないためにも独立行政委員会の設置は不可欠です。このことは最高裁の判事の任命権にも言えると思います。司法も放送も第三、第四の権力であり、政府から独立してあるべきなのです。 
 
  そもそも久米氏は野党共闘の政策協定を知らなかったのでしょうか?あるいは知っていながら、それに言及しなかったのでしょうか。民放の問題を象徴する形で過去の歴史から言及しますと、1990年代に消費者金融あるいは高利貸しが社会問題化した時、消費者金融企業である武富士が報道番組のスポンサーをしていたことがありました。当時は毎日のように多重債務者が暴力的な取り立てを苦に自殺していた時代でした。そうした人々はバブル崩壊後の不況の中、少ない給与で高利を返済しなくてはならなかったのです。こうした番組で消費者金融の問題がきちんと取り上げられるでしょうか。NHKにはできて民放にはできないことの1つがスポンサー企業への忖度なく問題を描ける、というところにあったはずです。NHKのよい特徴を取り上げてどうするのでしょうか。 
 
もう1つ、筆者がNHKの民営化に反対する理由はNHKの保有する映像ライブラリーの管理を営利企業任せにすべきではない、ということです。もし軍需企業や、戦時中に周辺国の国民に薄給で苛酷な労務を課していた企業が民営化されたNHKの株主になった場合、戦争を記録した映像記録や過去の証言記録が廃棄されない保証はないのです。特に戦争体験者の記録はもう多くの人々が死滅した今、二度と撮影できない記録です。このことは今世紀の私たちの課題です。こういう歴史的資料を時の政権や民間企業に託してはなりません。NHKの映像記録は適切な管理の元、有意義と認められる過去の番組は公共図書館などで無料で視聴できるようにすべきだと筆者は考えます。その意味でも、総務省から独立行政委員会に監督権限を移すべきなのです。 


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