2019年08月13日16時08分掲載  無料記事
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コラム

「N国党」議員の誕生とNHKの転換点 その転機は2004年−2005年だったのでは?

  「NHKから国民を守る党」(N国党)がこの夏、参院選で1議席を獲得したことが話題を呼んでいる。NHKで放送されたN国党候補者たちの異様な政見放送に絶句した市民は少なくなかった。党首の立花 孝志氏はその経歴にこう記している。 
 
2004年 7月 NHK本部編成局(経理)に異動 
2005年 4月 週刊文春でNHKの不正経理を内部告発 
http://www.nhkkara.jp/message.html 
  N国党という党名こそ最近できたものだが、立花氏はもともとNHK大阪放送局で勤務しており、NHKの不正経理の問題を週刊文春に内部告発した人物ということだ。 
 
  その頃、NHKの不正経理問題は「NHK紅白歌合戦の担当プロデューサーによる制作費の不正支出が、週刊文春の報道によって発覚したことがきっかけとなり、さまざまな問題や不祥事が明るみに出た。NHKは激しい批判にさらされ、NHK受信料の不払いが続発した。この時、職務が変わらないにもかかわらず、年功的に昇給する「わたり」や昇給短縮が給与慣行として行われてきた現状が指摘されている」(ウィキペディアによる)。 
 
  NHKの変調と言うと、第二次安倍政権からと見る人が少なくないが、物事が変化する時は必ずその前駆症状があるものだ。NHKの変調は2004年の不正経理告発事件に遡る、というのが筆者の見立てである。この時、海老沢勝二会長も辞任を余儀なくされた。 
 
  「2004年中に相次いで発覚した一連のNHKの不祥事を巡って、自身が参考人招致された総務委員会の国会中継を生放送でしなかった致命的ミスを下し、その後も最高責任者としてNHKの信頼回復とNHK改革に尽力する旨を表明していたが、2005年1月に会長職を辞任した。」(ウィキペディア) 
 
  当時を思い返せば、NHKに対する市民の怒りは高まり、受信料不払いが増えたのである。N国党という政治組織の発端もこの時にあると見てよいだろう。では筆者がなぜ、この時が今日に至るNHKの転機となったかと言えば、NHKの企画募集の内容がこの頃、何が何でも視聴率が取れる番組路線を強めていたことにある。かつて民放の雄だったフジテレビとそっくりだったのだ。「視聴率が取れる内容」「エンターテインメント」といった言葉が乱舞していたのである。それは今も続いている。NHKは視聴者の怒りに対して、「皆様のNHK」の看板を掲げるためにも、エンターテインメント番組を作ることで応えようとしたと言えなくはないだろうか。もしそうだとしたら勘違いも甚だしい。NHKの局員が日本国民を心の底でバカ扱いしているのではないか、ということなのだ。この時の「NHK改革」が何だったかを知る人の証言が貴重になるだろう。 
 
  2004年は国立大学法人化法が制度化された年でもあり、ネオリベラリズムが大学にも影響を与え始めた転機である。この少し前に戦時中の日本軍の慰安婦のことを裁く民衆法廷を描く「ETV2001  問われる戦時性暴力」が2001年1月の放送前に大きく変更された事件が起きていた。中川昭一経済産業大臣(当時)と安倍晋三内閣官房副長官(当時)が圧力をかけたとされる重大事件である。このことと2004年に発覚したNHKの不正経理事件とそれに絡む受信料支払い拒否で、NHKの内実はぼろぼろになったのではないか。このETV特集の問題は2005年に朝日新聞が報じたことで大きな問題となり、NHKは朝日新聞を批判した。 
 
 「NHKは「朝日新聞虚偽報道問題」と題して、看板番組のニュース7で連日10分以上にわたって朝日新聞を非難する放送を行った。内容は朝日新聞の記事の全面否定と、NHKより朝日新聞社への公開質問状の紹介、安倍と中川の記者会見などをあわせて編集するものであった。NHKが、自論のためにゴールデンタイムのニュース番組を使用するのは極めて異例の事であった。」(ウィキペディア) 
 
・NHKと朝日の番組改変をめぐる応酬 
・NHKの不正経理問題と受信料不払いの増加 
 
 この2つの事件はその後のNHKの進路を考えた時に、関係しあっていないだろうか。時の政権に膝を屈する傾向と、過剰なエンタメ路線である。 
 
  厳密に全資料を当たって検証したわけではないが、おそらくNHKのエンターテインメント路線は2004年あたりが契機だったのではなかろうかと筆者は思っている。(この問題に詳しい人は情報を寄せられたい)もしそうだとすればもう15年近く続けられているのだ。地味でもNHKにしかできない真実を描く番組、地味でも教育的内容の番組、こういった路線には金が滞っていく。今、NHKはスマートフォンのユーザーにまで受信料を強制徴収することを求めており、逆らえば法律違反だと脅している。だが、NHKがそのような要求を市民に行うどのような根拠があるのだろうか。NHKとNHKのBSの全番組を見た時、民放にできない番組はどのくらいの割合なのか。民放はスポンサーに逆らうことができない。NHKにしかできないのはそのことである。ところが、NHKはその使命を果たしているだろうか。経済団体の言いなりになっていないだろうか。まず「働き方改革」の国会審議の時、NHKはどんなニュースを放送していたのか。 
 
  第二次安倍政権で経営委員に極右作家らが任命され、会長にジャーナリズムを知らない男が就任し、NHKのニュースは変質した。しかし、その前駆症状は2004年から始まっていたと思われる。NHKの責務を忘れ、民放でもできるエンターテインメント重視路線に局をあげて移行しつつあった。だから、それを受け入れていたNHKの局員たちが後に歴史修正主義路線を受け入れるのも時間の問題だったのかもしれない。NHKが実質、強制的な受信料の徴収を行い、莫大な予算を持つNHKがその持てるリソースのすべてを視聴率競争に振り向けた時、民間放送局の経営を逼迫するのは無理からぬことと言える。エンターテインメント番組を追及したり、視聴率を稼いだりすることがNHKの目的になるなら、民放化して民放と同じ地点で勝負すべきだ。局員たちが自分で絶賛しているほど視聴者に高い評価を得ている自信があるなら、スクランブルで有料チャンネルにして勝負してみればいい。こうしたNHKの現在のあり方を局内で批判するものは一人とていないのか、1万人のNHKには?このことを考えるためにも今後はNHKの経営委員会がこれまでに取ってきた行動を直視する必要がある。 
 
 
 
武者小路龍児 
 
 
 
■NHKの受信料を拒否する十分な理由が、我ら市民にはある Bark at Illusions 
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