2019年08月19日11時54分掲載  無料記事
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コラム

天皇制存続の最大のリスクは自民党右派議員である

  自民党の右派の国会議員が、天皇批判をしていると言って特定の組織や個人を名指ししてそのアドレスまでソーシャルメディアにさらしたことがネットの世界で批判を招いています。しかし、むしろ実際はその逆で、天皇制存続にとって最大のリスクは自民党のタカ派議員たちと言って過言ではないように思われます。天皇制を翼賛しているかに見えるこうした人々が天皇制に終止符を打つことになりかねない最大のリスク要因だとしたらその理由はどこにあるのでしょうか。 
 
  天皇制が存続できなくなるとしたら、その唯一の可能性は現在の状況から見た時、第二次日中戦争が勃発する場合に外ならないと思います。自民党政権は有事立法や憲法解釈の変更で集団的自衛権を可能にしたことで、日本が尖閣諸島以外でも中国と戦争に入るリスクを大幅に増しました。南沙諸島でも、インド洋沖でも各地でそれは起きえます。南の海での外国のちょっとした船同士の衝突で日本が中国と戦争に突入した場合、重要なのはその出口です。 
 
  集団的自衛権の枠組みとして日本は日米安保条約を基軸に考えていますが、いかに集団的自衛権の枠組みで戦争に参加したとしても米国が途中で戦争から抜ける可能性はないではありません。なぜなら米国にとって核大国の中国と戦争することはかつての米ソの全面核戦争と同様に絶対に避けなくてはならない事態だからです。しかも、中国市場を失うことにもなります。資本主義国の米政府がそれを容認できるでしょうか?むしろ、米国が当事者である日本を置いて第三者的立場に引っ込んでしまう可能性があると思います。そうならないかもしれませんが、そういう想定をすることはリスクを考えるために必要でしょう。米国は第二次大戦後、インドシナ半島でも中東でも東アジアでも戦争を起こしてきましたが、ソ連と直接戦争したことは一度もありません。謀略的に米軍が引き起こしたベトナム戦争でも米国は自国の都合で途中で撤退してしまいました。日本が集団的自衛権の枠組みで中国との戦争に加わった後、太平洋の彼方の米国が途中で抜けてしまう、これは日本にとって悪夢でしょう。 
 
  そうなった場合に日本はどうやったら中国との戦争を講和に持ち込めるのか。それともどちらかが全滅するまで戦争を継続するのか?その場合、日本が明治以来、勝利してきた戦争は基本的に1年で決着がついた短期決戦だったことに象徴されるように、資源の乏しい日本にとって持久戦は禁物です。対米戦争でも持久戦で敗北していますし、日露戦争でも第一次革命の余波を切り抜ければロシアが復活して長期戦になったかもしれません。 
 
  講和条約を結ぶためには中国は前の日中戦争の時のような寛大な条件では終わらせないと思われます。二回に渡る戦争を起こした原因の除去を求めてくるに違いありません。 
 
・天皇制の廃止 
・戦争を煽った与党政治家やマスメディアの戦犯裁判 
 
  もし中国がこうした条件以外に講和の可能性なしとしたら、日本政府はどう出るでしょうか?これがのめなければ戦争を継続するほかなくなり、日本が不得手な持久戦になってしまいます。その際、現在のタカ派の自民党外交が大きなネックになってきます。今、日韓で激しく歴史をめぐる論戦をしていますが、米国もロシアも中国も韓国の側についています。というのはかつて日本と戦った側だから同じ立場なのです。今、どんどん日本は自ら孤立に向かっています。このことも第二次日中戦争が起きた場合の講和条件に関して中国側に有利に作用するはずです。自民党の政治家が前の戦争を肯定すればするほど日本は孤立化しています。 
 
  日本にとってネガティブはケースを想定してしまいましたが、政治家は国民の安全を考える以上、最悪の場合に備えておかないといけません。前の日中戦争の場合、主要都市を制圧すれば中国は占領統治できると日本の参謀は思っていたようですが、とんでもない勘違いで戦争は長期化し、日本軍の兵站に支障が出てきました。そこにさらに対米戦争が加わっていき、日本は300万人の死者を自ら出すに至りました。今、対中で強硬な意見を出す政治家がいますし、今なら中国と戦っても勝てると言う軍人もいるかもしれませんが、歴史に目をやればかつても同じだったことに気が付くはずです。今の中国は毛沢東や周恩来が存在した時の中国政府と同じではありません。中国にとって19世紀にアヘン戦争で欧米列強に敗北し、さらに日清戦争で日本に敗北し、日中戦争で占領された記憶を拭うためにも、今の中国は何があっても今後はこのような屈辱的事態は許容しないはずです。筆者は現在の中国政府が良いとは思っていませんが、中国側の立場に立って想像すると、中国にとって交渉上絶対に譲れない一線があることを思わざるを得ないのです。 
 
  自民党のタカ派議員が天皇制存続に対する最大のリスク要因になっているというのはこのことです。第二次大戦の際、天皇が戦犯になって処刑されるリスクもありました。マッカーサーの判断でそれが阻止できましたが、中国との戦争で同じように天皇制が救われるかどうかわからないのです。まして、天皇を元首という地位に憲法改正して戦争をしたのであれば、ますます不利になってしまうでしょう。戦争の再開は現在の上皇も天皇も望んでいないことです。天皇制存続にとって最もよいのは、日本が戦争を起こさないことなのです。そして天皇が政治から離れて象徴であることが最もよいのです。 
 
 
武者小路龍児 


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