2019年08月22日15時49分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201908221549124

外国人労働者

外国人労働者を取り巻く現状はいかに〜在日ベトナム人労働者の実情〜

安倍政権による外国人労働者の受け入れ拡大が進む中、在留外国人数は増え続けており、2018年11月には過去最高の264万人に達したとされる(日本貿易振興機構発表)。様々な国籍の外国人が日本国内で生活をするようになる一方で、外国人を取り巻く労働環境に改善の兆しは見られない。夢や希望を持ちながら来日した多くの外国人労働者は、日本で働くにつれてその労働環境に絶望し、先の見えない日々の生活に疲れて夢や希望を失っていく。このような外国人労働者の実態はまだまだ日本国内で充分に知られておらず、苦境に立たされている外国人の支えとなる場所も少ない。 
 
<もう、失踪するしかない> 
 在日ベトナム人男性であるコンさんは、壁面塗装に関する技能を習得するべく技能実習生として来日した。しかしながら、日本国内で技能実習生を企業に派遣する「監理団体」から斡旋された会社では、壁面塗装業務を行うことはなく、命綱も準備されずに高所での建設作業を任されることとなった。明らかな契約違反により意図しない業務に従事することとなったコンさんがそのことを訴えると、仕事を与えられず、給料も一部しか支払われなくなったという。最終的には、このような状況の積み重ねにより外国人技能実習機構から監理団体に指導が入り、会社自体も不自然な形で倒産した。これによりコンさんは、自身に全く責任がないにもかかわらず勤務開始から1年4か月という短期間で職を失うこととなる。 
多くの実習生は、語学習得費用や航空機代、送り出し機関による不合理な手数料などにより、多くの借金を抱えて来日するが、コンさんも例外ではなく、ビザが切れる今年の8月時点でもまだ40万円ほどの借金を抱えていた。ベトナムに帰国しても借金を返すことができないと感じたコンさんは、「もう失踪して、非合法な仕事をするしかない」と考えるようになったという。 
 
<最後の支えとなったのは・・・> 
 失踪一歩手前のコンさんの最後の支えとなったのが東京都内にある浄土宗・日新窟で在日ベトナム人として尼僧を務めるティック・タム・チーさんと寺務長の吉水慈豊さんである。日新窟は、2011年の東日本大震災の際、被災した在日ベトナム人の避難所として寺院を開放したことをきっかけとし、現在も多くの在日ベトナム人と交流を持ち、支援を続けている。タム・チーさんと吉水さんの下には、毎日のように在日ベトナム人から様々な相談が寄せられるが、コンさんの相談もその内の一つであった。 
タム・チーさんと吉水さんは、コンさんの相談を受け、監理団体、勤務していた会社、外国人技能実習機構、ベトナム側の送り出し機関などの多方面に対して事実確認を行うとともに、「コンさんの借金を少しでも返済し、負担を和らげる手段がないか」と模索を続けた。コンさんが勤務していた会社は倒産してしまったことから、会社に対する賠償請求は難しい。そのため、不合理なミスマッチを招いた監理団体に賠償を求めるべく、粘り強く交渉を続けたところ、最終的には8月8日に監理団体から和解金を得るに至った。和解金を借金の返済に充てたコンさんは、8月9日にベトナムへの帰国の途に就いた。タム・チーさんと吉水さんの支援により、失踪という最悪の事態に陥ることなく、再来日への希望を持って母国へ戻ることができたのである。 
 
<制度を変えなければダメ> 
タム・チーさんは、日本における在日ベトナム人を取り巻く環境について、「日本に夢や希望を持って来た若者たちが、過酷な労働環境に苦しみ、突然死する事態も多発している。健康上問題のない若者を死に追いやるような事態を放置するようなことがあってはならず、このような労働環境を作り出す『制度』を変えていかなければいけない」と訴えた。 
また吉水さんは、「劣悪な労働環境に晒された在日ベトナム人は、日本人への信頼を失い、疑心暗鬼に陥ってしまう。日本で悲しい思いをするベトナム人を減らすためにも、現状をより多くの人に知ってもらうことが重要である」と語った。 
 
本当の意味で多文化共生社会を実現するためには、外国人労働者の立場に立った制度の設計と運用が必要である。現政権には、現在の制度が本当に外国人労働者の立場に立ったものとなっているか改めて考えてもらいたい。また、外国人を受け入れる日本社会側も、外国人労働者の問題を他人事とするのではなく、身近な隣人の出来事として捉え、環境改善に向けて声を発していくことが必要である。小さな声を繰り返し発していくことが、やがて世論を動かす大きな流れに変わっていくのではなかろうか。 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。