2019年09月05日01時12分掲載  無料記事
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"the four GAFA"(GAFA 四騎士が創り変えた世界)の著者、スコット・ギャロウェイ教授の刺激的なビデオ講義

  昨年、日本でも翻訳刊行された"the four GAFA"(GAFA 四騎士が創り変えた世界)はグーグル(G)、アップル(A)、フェイスブック(F)、アマゾン(A)を軸に、今後、デジタル経済がどのように進化するか、その際、現在の4騎士(GAFA)はどうなるか、さらに、新たに台頭して5番目の騎士になるのはどこかといったことを分析しています。 
 
  そしてその際、4騎士が標的にしているものを明確に見つめろ、と言います。 
 
  「進化心理学の見地からすると、成功するビジネスはどれも、体の3つの部位のどれかに訴えかけるものだ。その3つとは脳、心、性器である。これらはそれぞれ人間の生き残り戦略の違う面を支えている。会社の指導者は、自分たちがどの領域にいるか〜どの器官を刺激しているか〜を知り、それに沿って戦略を練る必要がある」 
 
  本書が一般的な情報を連ねた解説本と違うのは、著者のスコット・ギャロウェイ教授自身が自身もデジタル業界で企業家として次々と会社を興し経営の厳しさの真っただ中にいたプレイヤーであり、その内側から見た分析や凄みがパンチのある文章でつづられていることにあります。日本でも立教大学ビジネススクール教授の田中道昭教授が「GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略」を著し、この中で米中のメガテック大企業同士の闘いを分析していて有益ですが、文体のアク、あるいは面白さでは"the four GAFA"(GAFA 四騎士が作り変えた世界)の方がより迫ってくるものがありました。もちろん、田中教授の方は米中という切り口に面白さがあります。 
 
  スコット・ギャロウェイ教授によると「私は25年にわたって高級ブランドにアドバイスしているが、ポルシェからプラダまで、そのすべてに共通する5つの性質があると断言できる。それはアイコン的な創業者、職人気質、垂直統合、世界展開、高価格である。これらについて、それぞれ掘り下げていこう」 
 
  本書はそうした視点でデジタル時代の新興企業群にアプローチしています。この人のユニークなところは大学の授業料を無料にせよ、と訴えていることです。 
 
  「重要なのは教育のビジネスモデルをひっくり返し、授業料を安くして、リクルーターに金銭を要求することだ。学生は金を持っておらず、その学生をスカウトするリクルーターのほうには金があるのだ」 
 
  実際にはリアルなキャンパスとオンライン講義の混合になるだろうとギャロウェイ教授は言います。そして、この事業はアップルが先鞭をつけろ、と言っているのです。アップルだけは将来も生き残るだろう、とも予言しています。とはいえ、企業側が金を払うのは良いとしても、金になりそうな分野しか大学に残らなければ困ったことです。ギャロウェイ教授は大学教育の主眼は創造性の開発に置かれるべきで、デザイン、人文科学、芸術、ジャーナリズム、教養であるべきだと言っています。このあたり、日本のせこい自称・教育改革者はギャロウェイ教授の爪の垢を煎じて飲むべきでしょう。 
 
  「ハーバード大学も370億ドルの寄付金を使い、授業料を取らず、クラスの規模を5倍にすれば、それと同じ大改革ができる」 
 
  スコット・ギャロウェイ教授はyoutubeで映像ブログを持っています。”Professor Galloway's Winners & Losers in the Digital Age”(ギャロウェイ教授によるデジタル時代の勝ち組と負け組)です。ニューヨーク大学スターン・スクールオブビジネスのプレゼンテーションで、この回は#180です。 
https://www.youtube.com/watch?v=_UOr-UP4U2s 
  このYoutubeでの4分のレッスンの中で、ギャロウェイ教授は企業のブランド戦略を語っています。ここではde positioningという概念を使って、あるポジティブな価値観を掲げることで競合他社との競争の渦中から抜け出す戦略について語っています。ここで現職のジョージ・W・ブッシュが民主党のジョン・ケリー候補を破って大統領に再選された際に使われたブッシュ陣営によるネガティブキャンペーンの広告を引用しています。ケリーは重大なイシューにつき、過去に何度も立場を変えてきたことを紹介し、風向き次第でどこにでも行くウインドサーファーにたとえられています。それに比べるとブッシュ大統領はたとえ愚かでも決断力があると見られて評価されたと言うのです。 
  わずか4分の中でこれだけのことが語れるのは驚異的です。テンポがよく、さらに1つ1つが極限まで蒸留された情報になっているからでしょう。 
 
 
※東洋経済新報社から出ている翻訳を参照しました。 


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