2019年09月05日23時00分掲載  無料記事
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コラム

教育費の高騰は現代の刀狩り  平蔵と藤吉郎 2

  竹中平蔵氏を豊臣秀吉と比較したコラムを書いたら、いつも以上に多くの方に読んでいただけたようです。賛成か反対かはともかく。その時、書きそびれたことがあります。それは秀吉が天下統一後にまず行った「刀狩り」は現代において何に相当するだろうか、ということなのです。刀狩令で何が起きたかと言うと、農民が武装闘争ができなくなり、武士に転じることができなくなった、ということであり、その後の兵農分離=つまり身分制社会へと移行することになったことです。いったん天下を統一したら権力者は何を望むか?間違いなく、それまで下克上だった戦国時代から、もう身分が変わることなく現代の強者が永遠に子孫まで強者で留まることでしょう。 
 
 それを現代に当てはめれば最も該当するのは高等教育を受けられる人を一部にとどめることに外なりません。高等教育によって社会の重要なポストに就ける確率は大きく高まります。身分の階層移動を可能にする最大の要因こそ高等教育です。高等教育が現代日本のカースト制度を支えているのです。そのために富裕層は幼稚園から子供を慶應義塾大学の関連施設に入れているのです。福沢諭吉は天は人の上に人を造らずと言ったのではなかったのでしょうか。それなのに、慶応義塾大学は庶民の家庭ではなかなか学費が工面できません。 
 
※慶応大学の学費 
https://www.keio.ac.jp/ja/news/files/2018/11/28/181204-1.pdf 
  慶應義塾大学のサイトによると、2019年の文学部の初年度納付金合計は約132万円です。総合政策学部は157万円、医学部となると384万円です。もし地方の出身者なら、これに東京での家賃と生活費が上乗せされます。親が非正規労働者では、子供にこの学費を工面するのは不可能ではないかもしれませんが、相当にハードルが高いでしょう。しかし、所詮、慶應義塾大学は私立大学なので、富裕層の子弟が通う大学として昔から知られていましたから今更、驚くようなことでもありません。しかし、国立大学ですら1年間の授業料だけで53万円もかかっていたのでは、庶民はたまりません。おまけに初年度は入学金が約28万円です。とんでもない額です。基本無料のフランスなどとは雲泥の差です。今、年収が100万円台、200万円台の非正規労働者が大量に生まれており、こうした人が子供を持った時、教育費用をどうするのか。 
 
  教育費の高騰こそ、現代の刀狩りです。教育費が高騰し、一方で多くの人が非正規雇用で収入が減少していく。こうして階層が次第に固定化し、その階層が次世代に受け継がれていく。この身分の格差を不可逆なほどにまで固定していく。儲かる家族の子弟はよい高等教育を受けて、儲けるポジションに就く。竹中平蔵氏は当時は庶民でも通えた国立大学で学び、アメリカ発の新自由主義を吸収し、後に富裕層の子弟が通う慶應義塾大学教授になりました。象徴的でしょう。 
 
  今の日本政府は消費税を上げていって、税金の源は低所得層に押し付けています。こうすればますます刀狩りの効果が出てきます。日本政府はこれを確信犯的にやっているんです。そして、いずれは庶民から知力も経済力も誇りも奪い去った時に、法律で身分に関する法を作っていくことももしかしたら起きうるでしょう。選挙権を持つには所得税をいくら以上納める必要がある、というような、明治時代にあった制度の復活です。政権についている人たちがメディアを仲間にして、民主主義とか平等といった思想をまったく評価していない、このことを下層の人々は冷徹に考えないといけないでしょう。 
 
※国立大学と私立大学の授業料等の推移 
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/kokuritu/005/gijiroku/attach/1386502.htm 
 
 
武者小路龍児 


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